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第1話
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隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
女子グループのどこにも属さず、かといって別にいじめられているわけでもない。
話しかけたら普通に返してくれるし、愛想は良い。
休み時間はいつも一人で本を読んでいて、たまに真剣な顔でノートに向かっている。
授業態度はいたって真面目で成績も優秀。
でも、徳大寺さんは、少し変わっている。
僕は聞いてしまった。
ある日の自習時間――
「あっ、メルフィ……」
消しゴムが床に落ちてしまった時に、彼女の口からとっさに出た言葉だった。
周りは自習などせずおしゃべりに興じていたから教室はかなり騒がしかったけれど、僕の耳にはハッキリと聞こえた。
……メルフィ、とは。
とりあえず、僕の足元に転がってきた消しゴムを拾ってあげた。
すると徳大寺さんは、我に返ったようにハッとして僕の顔を見た。
「えっ、えっと……聞こえた?」
消しゴムを受け取りながら、徳大寺さんは顔を真っ赤にしている。
「うん。メルフィって……」
「あ……えっと……こ、この消しゴムの名前なの……メルフィって」
……ああ、持ち物に名前をつけるタイプなのか。
それにしても、メルフィって……。
「なんでメルフィなの?」
「……え、引かないの?」
「え、なんで?」
「……う、ううん!えっと、メルフィって、好きな小説の主人公の名前で。私、いつも持ち歩く物にお気に入りのキャラの名前をつけるのが癖で……」
「へぇ。じゃあシャーペンはなんて名前なの?」
「え、エスメラルダ……」
「ペンケースは?」
「ジェノ」
「財布は?」
「アルヴェルト」
次から次に出てくる耳慣れない名前に、僕はなんだか楽しくなってきた。
「じゃ、それは?」
僕は、徳大寺さんのスマホを指さした。
「こ、これは……」
徳大寺さんが、何故か言い淀む。
「こ、これは持ち物の中で一番大事なものだから、一番好きな名前をつけていて……。け、謙介、くん……」
謙介――僕の名前。
やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
そんな彼女のことが気になる僕は、きっともっと変わっている。
女子グループのどこにも属さず、かといって別にいじめられているわけでもない。
話しかけたら普通に返してくれるし、愛想は良い。
休み時間はいつも一人で本を読んでいて、たまに真剣な顔でノートに向かっている。
授業態度はいたって真面目で成績も優秀。
でも、徳大寺さんは、少し変わっている。
僕は聞いてしまった。
ある日の自習時間――
「あっ、メルフィ……」
消しゴムが床に落ちてしまった時に、彼女の口からとっさに出た言葉だった。
周りは自習などせずおしゃべりに興じていたから教室はかなり騒がしかったけれど、僕の耳にはハッキリと聞こえた。
……メルフィ、とは。
とりあえず、僕の足元に転がってきた消しゴムを拾ってあげた。
すると徳大寺さんは、我に返ったようにハッとして僕の顔を見た。
「えっ、えっと……聞こえた?」
消しゴムを受け取りながら、徳大寺さんは顔を真っ赤にしている。
「うん。メルフィって……」
「あ……えっと……こ、この消しゴムの名前なの……メルフィって」
……ああ、持ち物に名前をつけるタイプなのか。
それにしても、メルフィって……。
「なんでメルフィなの?」
「……え、引かないの?」
「え、なんで?」
「……う、ううん!えっと、メルフィって、好きな小説の主人公の名前で。私、いつも持ち歩く物にお気に入りのキャラの名前をつけるのが癖で……」
「へぇ。じゃあシャーペンはなんて名前なの?」
「え、エスメラルダ……」
「ペンケースは?」
「ジェノ」
「財布は?」
「アルヴェルト」
次から次に出てくる耳慣れない名前に、僕はなんだか楽しくなってきた。
「じゃ、それは?」
僕は、徳大寺さんのスマホを指さした。
「こ、これは……」
徳大寺さんが、何故か言い淀む。
「こ、これは持ち物の中で一番大事なものだから、一番好きな名前をつけていて……。け、謙介、くん……」
謙介――僕の名前。
やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
そんな彼女のことが気になる僕は、きっともっと変わっている。
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