ホウセンカ

えむら若奈

文字の大きさ
上 下
366 / 407
サザンカの雫

5

しおりを挟む
「でも、桔平くんの個展じゃないんだよ」
「それでも“浅尾瑛士の息子の日本画家”は世間に広まるわけじゃんか。あのビジュアルだし、相当ファンがつくよ。ミーハーなのも含めてさ。こりゃ大変だ」
「そうだね……」

 大々的に表へ出れば、きっといろいろな声が聞こえてくる。父親の名前を利用することを快く思わない人も、たくさんいるだろうし。桔平くんは、そういうことも分かったうえで引き受けた。それがどれだけ勇気のいることかは私にだって分かる。

 スミレさんも、桔平くんが色物扱いされて正当に評価されないことは望んでいないはず。それでも強引に引っ張り出そうとしているのは、桔平くんを信じているから。だから私も桔平くんを、スミレさんを信じる。

「まぁ、私もミーハーなファンのひとりだけどさ。絵のこと分かんないけど、浅尾っちの絵は好きだし」
「それなら私だってそうだよ。アートは詳しくないもん」
「そんなもんじゃん?専門的なこと知らなくても、好きとか嫌いとかは感覚的に感じるんだからさ。大半のファンがそうだと思うんだけどな」

 言われてみれば、そうなのかも。アートって別に、専門的知識がある人だけのものじゃないもんね。

「新聞とかテレビの取材もあるわけでしょ?」
「うん。一応、桔平くんの顔出し取材。嫌がってたけど」
「だろうねぇ。大変だなぁ……愛茉も忙しくなるだろうけど、困ったことがあったら言ってくるんだよ?」
「うん、ありがとう」

 個展が始まったら、一体どうなるんだろう。環境が大きく変わりそうで、正直怖い気持ちもある。
 桔平くんの“激流”という表現は、言い得て妙だと思う。世の中の大きな流れに飲み込まれるか、それとも流れが緩くなるまで踏ん張って対岸へ辿り着くか。どちらにしても、今のうちに力をつけておかなくちゃ。

 まずは、桔平くんのアトリエ探しに奔走した。2年生までにたくさん授業を履修していたおかげで、今年度は学校に行かなくていい日が週2日ある。それを利用して、忙しい桔平くんの代わりにネットで探しまくって内見へ行った。

 制作に集中しないといけないから、騒音問題があるところは問題外。湿気がこもりやすい部屋もダメ。直射日光が入りすぎると微妙な色調が分からないから、これもダメ。今まで家では夜にしか絵を描いていなかったから、陽当たりを気にしたことはなかったんだよね。

 何気に条件多くない?と半ベソかきながらも、桔平くんのために一生懸命走り回った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-
恋愛
人身御供(ひとみごくう)は、人間を神への生贄とすること。 天魔神社の跡取り巫女の私、天魔華鈴(てんまかりん)は、今年の人身御供の生贄に選ばれた。 昔から続く儀式を、どうせ、いない神に対して行う。 私で最後、そうなるだろう。 親戚達も信じていない、神のために、私は命をささげる。 人身御供と言う口実で、厄介払いをされる。そのために。 親に捨てられ、親戚に捨てられて。 もう、誰も私を求めてはいない。 そう思っていたのに――…… 『ぬし、一つ、我の願いを叶えてはくれぬか?』 『え、九尾の狐の、願い?』 『そうだ。ぬし、我の嫁となれ』 もう、全てを諦めた私目の前に現れたのは、顔を黒く、四角い布で顔を隠した、一人の九尾の狐でした。 ※カクヨム・なろうでも公開中! ※表紙、挿絵:あニキさん

【4/5発売予定】二度目の公爵夫人が復讐を画策する隣で、夫である公爵は妻に名前を呼んでほしくて頑張っています

朱音ゆうひ
恋愛
政略結婚で第一皇子派のランヴェール公爵家に嫁いだディリートは、不仲な夫アシルの政敵である皇甥イゼキウスと親しくなった。イゼキウスは玉座を狙っており、ディリートは彼を支援した。 だが、政敵をことごとく排除して即位したイゼキウスはディリートを裏切り、悪女として断罪した。 処刑されたディリートは、母の形見の力により過去に戻り、復讐を誓う。 再び公爵家に嫁ぐディリート。しかし夫が一度目の人生と違い、どんどん変な人になっていく。妻はシリアスにざまぁをしたいのに夫がラブコメに引っ張っていく!? ※タイトルが変更となり、株式会社indent/NolaブックスBloomで4月5日発売予定です。 イラストレーター:ボダックス様 タイトル:『復讐の悪女、過去に戻って政略結婚からやり直したが、夫の様子がどうもおかしい。』 https://nola-novel.com/bloom/novels/ewlcvwqxotc アルファポリスは他社商業作品の掲載ができない規約のため、発売日までは掲載していますが、発売日の後にこの作品は非公開になります。(他の小説サイトは掲載継続です) よろしくお願いいたします!

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...