ホウセンカ

えむら若奈

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アサギリソウをリースにして

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「先にこっち食っちまったもんなぁ」
 
 桔平くんがニヤニヤしながら、私を引き寄せて後ろから包み込んだ。またいろいろ触ってくるし……ほんっとにエロオヤジなんだから。
 あーあ、夕ご飯は張り切って作る予定だったのにな。予定が狂っちゃった。

「夕飯の材料、買ってた?」
「……うん」
「明日までもつ?」
「大丈夫だけど……」
「んじゃ、明日一緒に作ろう。今日はデリバリーにしてさ。ピザ食おうぜ」

 そう言って、私の機嫌を取るように頬へキスをする。予定狂うのが嫌いなの、よく知ってるもんね。

 ……まぁ、いっか。桔平くん、嬉しそうだし。それに一緒に作る方が楽しいもん。
 予定が狂ったのは嫌だけど、私は結局、耳元で響くこの声に弱いのよ。

 だけど個展のことは、もう一度ちゃんと話さなくちゃ。本当は切り出すのが怖いけれど、私が逃げるわけにはいかない。
 2人で最上級の幸せを掴むためだよ。私は覚悟を決めた。だから桔平くんにも、踏み出してほしいの。

「久しぶりだな、デリバリーのピザ食うの」
「たまにはいいね」

 他愛のない会話をしつつ、切り出すタイミングを考える。そんなことをしているうちに、もう寝る時間になってしまった。

 どうしよう。やっぱり今日はやめておく?桔平くん、きっと疲れてるよね。
 いや、でも早く話さなきゃ。スミレさんも待っているし。先延ばしにしちゃダメ。

「どうした?」

 ベッドで寝転がりながら悶々としていたら、桔平くんが読んでいた本を閉じて隣に来た。

「なんか、ソワソワしてねぇ?」
「う、うん……えっと……」

 頭を撫でられて、意を決する。2人の未来のためだもん。よし、頑張る。

「あのね、この前スミレさんに会ったの」
 
 起き上がって言うと、桔平くんが目を見開いた。そりゃそうだよね。自分がいない間に元カノと今カノが会うなんて、恐ろしいよね。

「会ったって、なんで?どこで」
「スミレさんがバイト先に来たの。桔平くんが沖縄に行った、次の日」
「マジか……愛茉のバイト先までリサーチ済みだったのかよ」

 桔平くんは頭を掻きながら仰向けに寝転がった。
 スミレさんのことになると動揺するんだな。なんだか少しだけ複雑な気持ち。

「もしかして、個展のことか?」
「うん……説得してほしいって言われた」
「直接じゃなくて、そっちにきたか。だから嫌なんだよ」

 苦虫を噛み潰したような顔だった。こんな風に嫌悪の感情をあらわにするのは珍しい。
 それは相手がスミレさんだから?それとも、個展のことを考えたくないの?

 本当に説得できるのかな。思わず不安が過った。
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