ホウセンカ

えむら若奈

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ハルジオンが開くとき

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 愛茉は自分のことを弱い人間だと思っていた。そして必死に強くなろうとしているから、オレの弱さもすべて包み込んでくれる。

 一方で、スミレはもともと強い女だ。だからこそ自分の弱さが浮き彫りになって、それに耐えられなくなった。
 オレは結局、自分の弱さと自信のなさから逃げているだけなのかもしれない。スミレはそれを見抜いていて、またオレを追い込もうとしているのか。

 とりあえず今日は、あまりいろいろと考えたくない。妙に疲れてしまった。

 愛茉の手料理で腹を満たして、一緒に風呂へ入って、肌の温かさを感じながら眠りにつく。それだけで、まるで新緑の中にいるような新鮮な空気が体に沁み込んでくる。

 守ってやりたいとか幸せにしてやりたいなんて、あまりにおこがましいな。守られて幸せにしてもらっているのは、間違いなくオレの方。愛茉だって目標に向かって努力しているのに。オレはいつも自分のことばかりだ。

 何となく自虐的な感情が居座ったまま数日過ごしていると、長岡から連絡がきた。実家に新潟のイチゴが大量に送られてきたので、少し貰ってくれという。

 長岡の実家は世田谷区の端、多摩川の近くで、最寄駅からは少々距離がある。藝大へ通学するには片道1時間半近くかかるので、大学入学後、長岡は駒込でひとり暮らしをしていた。
 
「浅尾くん、久しぶりねぇ!」
「ご無沙汰しています」
「ますますイケメンになってるじゃない~」
 
 相変わらず長岡に瓜二つの母親が出迎える。何度見ても吹き出しそうになってしまうな。

「あぁ、浅尾。わざわざ来てもらってごめん」

 2階から降りてきた長岡と母親が並ぶと、堪えるのがかなり難しい。咳払いで、なんとか誤魔化した。

「こっちこそ、いつも悪いな。イチゴは愛茉の好物だから喜んでたよ」
「それなら良かった。とりあえず上がってよ。お茶淹れるから」
 
 お言葉に甘えて、2階にある長岡の自室で、ひと息つかせてもらうことにした。

「悩んでることがあるんだって?」

 長岡は部屋に入るなり、心配そうな表情で言った。
 愛茉が話したんだな。今日誘ったのについてこなかったのは、長岡に話を聞いてもらえということだったのか。

「愛茉ちゃんが心配してたよ」
「悩んでるっつーか……いや、悩んでんのか」

 長岡になら、話してもいい。何となくそんな気分になった。こいつは先入観なくニュートラルに話を聞いてくれるから、思考や感情の整理がしやすい。

 スミレとの関係は濁しつつあらかた話をすると、長岡は神妙な表情でひとつふたつ頷いた。
 
「……親の七光り、か。でも光を当ててもらえるのは、ほんの一握りだからね」
「まぁな。自分が贅沢なのは、よく分かってるよ」

 長岡の母親が淹れてくれた緑茶を、ひと口飲む。妙に落ち着く味だ。
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