ホウセンカ

えむら若奈

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ハルジオンが開くとき

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 愛茉曰く、翔流と七海ちゃんは“ケンカップル”らしい。いつもなんやかんや言い争ってばかりいるが、それは仲のいい証拠だという。

 できるだけ喧嘩を避けようとするオレにはあまり理解できないが、ベストな関係性なんてものは人それぞれだ。

 七海ちゃんの場合は思っていることを飲み込んで我慢するよりも、言いたいことを言って喧嘩をする方がいいのだろう。そして最終的に翔流が折れるから、丸く収まる。

「浅尾っちみたいに定期的に愛を囁け!って言うんだよ、七海のやつ」
「お前さ、七海ちゃんに“愛してる”って言ったことねぇだろ」
「言うわけないじゃん!え、桔平は愛茉ちゃんに言うの?」
「言うけど」
「ガチで?重くね~?」
「思ってるから言うだけの話だ。大体な、愛なんて重くてなんぼなんだよ」
「はぁー、そんなセリフ似合うの、お前ぐらいだわ。まさか、スミレさんにも“愛してる”とか言ってたわけ?」

 こういうことを平気で訊いてくるのが翔流だ。オレもこんな図々しい性格になりたい。
 
「スミレには言った覚えねぇな」
「んじゃ、愛してなかったわけ?」
「ガキだっただけだよ」

 オレの言葉に、翔流用の特製パフェを作っているマスターが、ふっと笑った。今でもガキだろ、とでも言いたげな表情だ。

 正直、恋と愛の違いなんて分からない。ただスミレには、いろいろ求めてしまっていたと思う。
 オレだけを見てほしい。オレにだけ抱かれてほしい。そういう想いが積み重なった結果、あの醜い色が出来上がった。

 ただ自分の欲望を満たしたかっただけなのか。その報いが、あの絵だったのか。

 オレの絵を真っ直ぐ見つめてくれたスミレといれば、心の隙間が埋められる。そう思っていたのに、一時は描く情熱も失って、以前よりも大きな穴が空く羽目になった。

 見返りを求めないことが愛だとしたら、スミレへの気持ちは違ったのかもしれない。

 それなら、愛茉はどうなのだろう。愛茉に対して、一切何も求めていないと言ったら嘘になる。ずっとオレの傍にいてほしいし、オレ以外を見ないでほしい。

 それはスミレに求めていたのと同じだが、決定的に違うのは、自分の欲望を満たすよりも愛茉を満たしたい気持ちの方が大きいということ。
 だから愛茉の心が決まるまでキスしかしなかったし、我慢しているという意識もなかった。

 隣にいるだけで満たされるこの気持ちが、恋だろうが愛だろうがどうでもいい。オレは愛茉だけを求めていて、愛茉もオレだけを求めている。それがすべてだと思った。
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