ホウセンカ

えむら若奈

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ハルジオンが開くとき

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 その2日後の月曜日。卒展を案内しろと翔流に言われたので、コレットで一服してから向かうことにした。

 相変わらず、店は閑古鳥が鳴いてる。これでよく潰れないなといつも思うが、ランチタイムはそれなりに客が入るらしい。その時間帯に来たことはないから、本当のところは謎だ。

 ただマスターはこの店の敷地をはじめ、都内のあちこちに土地を持っている。離婚した妻との間に子供はいるものの、もう成人しているし、ひとりで暮らしていくには十分な収入があるようだった。
 
「そっかぁ。愛茉ちゃんに話したのか。あ、俺はチョコブラウニーパフェとホットココアね」

 メニューを見ずに翔流が言うと、カウンター越しのマスターは“分かってる”といった表情で軽く右手を上げた。
 
「少しはスッキリした?」
「スッキリっつーか……そういう類の話じゃねぇからな」
「そうだけどさ。愛茉ちゃんが受け止めてくれたってだけで、かなり違うだろ」

 スミレのことを愛茉に話したのは、自分がスッキリするためではない。話さなければ、愛茉が気にしてしまうからだ。

 それにオレが絵を描き続ける限り、スミレとはまたどこかで必ず接点ができると思っていた。そうなった時にオレ達の関係を愛茉に隠しておくわけにもいかないし、遅かれ早かれすべてを話す時が来ただろう。

 オレがどんな絵を描くのか、ずっと追っていく。出会った時、スミレはそう言っていた。その言葉に嘘はないはずだ。
 今のオレの絵を見て、スミレはどう思ったのか。同じところをグルグル回っているだけだと、落胆したかもしれない。

「あの綺麗なお嬢さんが、お前の元カノとはねぇ」

 マスターがオレの目の前にミックスジュースを置いた。こちらから注文しなくても、いつも作って出してくれる。ミカンの風味が強いこの店のミックスジュースは、子供の頃から好物だった。
 
「あれー、マスターってスミレさんのこと知らなかったの?結構長く付き合ってたのに」
「桔平の恋愛事情なんか、いちいち聞いちゃいないからな。ここに連れてきたこともないだろ?」
「そうだな。何となく、そういう気にならなかったから」

 この店はオレが落ち着けるというだけでなく、息を呑むほど美しい浅尾瑛士の絵がある。自分だけの隠れ家のような場所なので、人を連れて来たいとはあまり思わない。ちなみに翔流は、高校の時に勝手に着いてきただけだ。
 
「それにしても、スミレさんって今まで何してたんだろうね。子供をどうしたかも聞いてないんだろー?」
「子供ぉ?桔平お前、孕ませたのか?」

 翔流が頼んだココアを零しそうになりながら、マスターが素っ頓狂な声を上げた。
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