ホウセンカ

えむら若奈

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貴方によく似たリンドウを

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 スミレの彼女は、一見すると大人しそうな女だった。顔は悪くないが、自分に自信がないのか伏し目がちで、時折探るような視線をオレに向けてくる。

 まず2人でお茶でも飲めと言ってスミレが場をセッティングしたものの、正直いらぬ世話だった。この女には感情を一切使いたくないし、ただ人形のように抱いて終わりにしたかった。それなのに、何故か苛立ちばかりが募る。

「言っとくけど、好きでもない女に優しくする義理なんてねぇから」
 
 適当に会話を切り上げてホテルに入った後その苛立ちをぶつけると、女は何故か嬉しそうな表情を浮かべた。そういう性癖というわけか。余計に忌々しい。

 スミレの彼女だろうが、関係なかった。オレが大切にしたいと思っていたのは、スミレひとりだけ。他の女なんてどうでもいいし、顔も名前も覚えたくはない。行為の最中はその女の顔を消して、頭の中でスミレを思い浮かべていた。そうでもしないと、体が反応してくれそうになかったからだ。

 何故こんなことをしているのだろうか。自分への嫌悪からくる吐き気を、必死に抑えた。
 恋愛感情なんかなくてもセックス自体はできる。オレ自身の言葉だが、その行為がこんなにも苦しいものだとは思わなかった。

 どう考えても、スミレはオレを精神的に追い詰めようとしている。分かっていたはずだ。オレが、こんなことを割り切れる性格じゃないということを。

「ねぇ、また会える?」

 ホテルを出ると女にそう言われたので、スミレに訊けとだけ答えて、さっさと家路についた。帰宅後すぐにシャワーを浴びたが、女のニオイや体に渦巻く負の感情までは洗い流せない。その夜は何も喉を通らず吐いてばかりで、ほとんど眠れなかったのを覚えている。

 こんな風に追い詰められて苦しんだ先に、一体どんな景色が見えるというのか。その時のオレには、まだ何も分からなかった。

「浅尾、大丈夫?」

 翌日学校へ行くと、長岡が心配そうな顔で話しかけてきた。
 
「なんかフラついてるけど……」
「ああ、寝てないだけ」
「この前もそんなこと言ってただろ。ちゃんと寝ないと。最近、顔色悪すぎるよ」

 癖が強い人間ばかり集まっている高校の中でも浮いているオレに、こんなことを言ってくるのは長岡ぐらいだ。こいつは周りのことなんか気にしないし、変な先入観も一切持たない。

「しかも痩せただろ」
「そうかもな。ウエストゆるくなってきたし」
「食べて寝るのは基本じゃないか。絵を描くのも体力いるんだから。うちの米、またお裾分けしようか?」

 長岡の祖父母は新潟に住んでいて、よく米を送ってくる。以前世田谷にある長岡の自宅まで貰いに行ったことがあるが、長岡と同じ顔をした母親が出てきて、思わず吹き出しそうになった。ちなみに新潟出身なのは父親の方で、母親は鹿児島らしい。それを聞いた時は、妙に納得した。
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