313 / 407
貴方によく似たリンドウを
7
しおりを挟む
「スミレさん、なんて?来るって?」
「来るらしいけど……お前なぁ」
「いいじゃん、別に。友達の彼女見たいのは当然だろ~」
「彼女じゃねぇよ」
呑気にティラミスをかき込む翔流を、無性に張り倒したくなった。ただそんなことをしても、こいつは馬耳東風だろう。まったくもって羨ましい性格だ。
10分ほどして、インターホンが鳴る。ドアを開けると、スミレはハンカチで額の汗を拭っていた。
とっくに夜の帳が下りているものの、気温は一向に下がっていない。さすがに玄関先でさっさと追い払うのは気が引けるので、部屋へ上がってもらった。
「うわ!綺麗なお姉さん!」
スミレを見た瞬間、翔流は大きな声を上げて目を見開いた。
「桂木スミレです。桔平にも、ちゃんと友達がいたのね」
「あ、楠本翔流です。まぁ、まだ知り合って1ヶ月ぐらいなんだけど。なんか仲良くなっちゃった」
「そうなの。桔平って、ほとんど自分のこと話さないから……友達がいるなら良かったわ」
この状況に居心地の悪さを感じているのはオレだけなのか。自分の家なのに、何故こんな気持ちにならなきゃいけないんだ。
ひとまずストックしてあったペットボトルの麦茶を差し出すと、スミレはそのままゴクゴクと喉に流し込んだ。何故かその姿が妙に艶めかしく見えて、思わず視線を逸らしてしまう。やはりあの日から、自分はどうかしているのだと思った。
「スミレさんも、ピザ食う?」
相変わらず、翔流は初対面から馴れ馴れしい。ただこいつがこういう性格じゃなければ、仲良くなることはなかっただろう。
「ありがとう。でも大丈夫。お昼遅かったから、お腹減ってないの」
「そっか。んじゃ、全部食べちゃおっと」
そう言って、翔流はまたコーンクリームピザにかじりついた。普通はデザートが最後だと思うが、ピザとティラミスを交互に食べている。胸やけしないのか。
スミレはオレの隣に座ると、いつも持っている大きめのバッグから書店の袋を取り出してオレへ差し出した。
「これ西洋美術の画集なんだけど、解説が面白いの。いろいろと参考になると思うから、良かったら読んでみて」
「ああ、ありがとう」
やはり、今まで通りだ。オレにこういうことをしてくれるのは、ただ絵描きとして成長してほしいと願っているから。それ以上でもそれ以下でもないはず。
じゃあ、あの箱根の夜は何だったのか。なかったことにするべきなのか、それともオレから何か言うべきなのか。よく分からなかった。
「スミレさんってさぁ、桔平のことどう思ってんの?」
ピザとティラミスを平らげた翔流が、探るような視線をスミレに向けた。
「来るらしいけど……お前なぁ」
「いいじゃん、別に。友達の彼女見たいのは当然だろ~」
「彼女じゃねぇよ」
呑気にティラミスをかき込む翔流を、無性に張り倒したくなった。ただそんなことをしても、こいつは馬耳東風だろう。まったくもって羨ましい性格だ。
10分ほどして、インターホンが鳴る。ドアを開けると、スミレはハンカチで額の汗を拭っていた。
とっくに夜の帳が下りているものの、気温は一向に下がっていない。さすがに玄関先でさっさと追い払うのは気が引けるので、部屋へ上がってもらった。
「うわ!綺麗なお姉さん!」
スミレを見た瞬間、翔流は大きな声を上げて目を見開いた。
「桂木スミレです。桔平にも、ちゃんと友達がいたのね」
「あ、楠本翔流です。まぁ、まだ知り合って1ヶ月ぐらいなんだけど。なんか仲良くなっちゃった」
「そうなの。桔平って、ほとんど自分のこと話さないから……友達がいるなら良かったわ」
この状況に居心地の悪さを感じているのはオレだけなのか。自分の家なのに、何故こんな気持ちにならなきゃいけないんだ。
ひとまずストックしてあったペットボトルの麦茶を差し出すと、スミレはそのままゴクゴクと喉に流し込んだ。何故かその姿が妙に艶めかしく見えて、思わず視線を逸らしてしまう。やはりあの日から、自分はどうかしているのだと思った。
「スミレさんも、ピザ食う?」
相変わらず、翔流は初対面から馴れ馴れしい。ただこいつがこういう性格じゃなければ、仲良くなることはなかっただろう。
「ありがとう。でも大丈夫。お昼遅かったから、お腹減ってないの」
「そっか。んじゃ、全部食べちゃおっと」
そう言って、翔流はまたコーンクリームピザにかじりついた。普通はデザートが最後だと思うが、ピザとティラミスを交互に食べている。胸やけしないのか。
スミレはオレの隣に座ると、いつも持っている大きめのバッグから書店の袋を取り出してオレへ差し出した。
「これ西洋美術の画集なんだけど、解説が面白いの。いろいろと参考になると思うから、良かったら読んでみて」
「ああ、ありがとう」
やはり、今まで通りだ。オレにこういうことをしてくれるのは、ただ絵描きとして成長してほしいと願っているから。それ以上でもそれ以下でもないはず。
じゃあ、あの箱根の夜は何だったのか。なかったことにするべきなのか、それともオレから何か言うべきなのか。よく分からなかった。
「スミレさんってさぁ、桔平のことどう思ってんの?」
ピザとティラミスを平らげた翔流が、探るような視線をスミレに向けた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる