ホウセンカ

えむら若奈

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クリスマスローズの訪い

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 私は孤独を癒してあげられているのかな。それとも桔平くんには、孤独が必要なの?

 同じ空間にいても、遠くに感じることが時々ある。もしかしたらそれは、桔平くんが孤独になりたい時なのかもしれない。

 一生ひとりで生きていくつもりだったんだもんね。それにあんな広い家を買ってひとりきりで住むなんて、あえて孤独になりたがっているようにも思える。

 桔平くんの性分なのか、それとも絵を描くためなのかは分からない。だけどそういう姿を見ると、私は傍にいていいのかなって思ってしまうの。

「……この家は、オレにとってずっと、狭い水槽みたいなもんだったんだよ」

 ベッドへ腰かけて、カーテンがかかっていない窓の外を眺めながら、桔平くんがぽつりと呟いた。ここからも満月がよく見える。薄暗い部屋の中、月明かりに照らされる横顔は息を呑むほど綺麗で、とても儚い。

 私は桔平くんの隣に座って、腕を組んだ。ちゃんと捕まえていないと、どこかへ消えてしまいそうな気がしたから。

「自由に泳げず、すぐ壁にぶつかってさ。息継ぎしようと水面に顔を出すけど、やっぱり天井も低くて頭をぶつける。まともに呼吸ができなくて、息苦しくて仕方なかった。別に家族が悪いわけじゃねぇんだけど。母さんたちは、なんとか理解しようとしてくれてたし。ただオレが……こんなんだからさ」

 自虐的な笑顔を見て、胸が痛くなる。
 優しい桔平くんは、もしかしたらずっと自分を呪ってきたのかもしれない。こんな風に産まれついてしまった自分自身を。

 私たち少し似ているんだろうな。私も、パッチリ二重の可愛い女の子に産まれてこなかった自分を責めていたから。お母さんがおかしくなってしまったのも、お父さんと離婚してしまったのも、全部私のせいだと思っていた。

 でも私は桔平くんのおかげで、少しずつ自分を肯定できている。桔平くんが愛してくれるから、赦されたような気持ちになれているんだよ。

 ただ桔平くんは、どれだけ周りからの愛情を実感したとしても、本当の意味で満たされることはない。何となく、そう感じてしまった。

「……今は、大丈夫?息苦しくない?」
「大丈夫だよ。愛茉がいるし」

 ほら。いつもそうやって、私の存在を肯定してくれる。見失いそうになった時でも、ここにいていい理由を私に与えてくれる。

 それなのに私は、何も返せていない。きっと桔平くんの心には、大きな穴が空いたまま。
 
「ただ、オレの実家は今でも鎌倉なんだよな」

 そう言いながら、桔平くんが私に少し体重を預けてきた。すごくあたたかくて、心地いい。
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