ホウセンカ

えむら若奈

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色鮮やかなオオゴチョウ

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 ……ん?なんか視線を感じる。と思ったら長岡さんが私を見ていたようで、目が合うと慌てて逸らされた。
 あ、違う。私と目が合ったからじゃない。桔平くんが、ちらっと視線を送ったからだ。長岡さんは若干、怯えた表情をしている。
 
「英哉くん、藝大に現役合格って、すごいよね。倍率めちゃくちゃ高いんでしょ?」
「えー……えっと……俺たちの時って倍率どのくらいだったかなぁ、浅尾」

 葵にロックオンされた長岡さんは、視線を合わせず、しどろもどろ。困った時の桔平くんという感じで、話を振ってきた。
 
「さぁ。15ぐらいじゃね」
「ブー!正解は18.5倍ですぅ。そしてその年、日本画専攻の現役合格者は4人だけっ!そう!その中の3人がっ!今!ここに!」

 桔平くんの素っ気ない回答を、小林さんがカバー?する。横から「うるせぇ……」という呟きが聞こえて、私は少し背中が冷えた。

「翔流はどうだったの?一応、難関大学じゃん」

 桔平くんの不機嫌オーラを正面から感じているであろう七海は、そのプレッシャーから逃れるように翔流くんへ話題を振る。
 
「えー?俺は多分6倍とかだよ。藝大とは比べものにならないって。てか、すごいよね。藝大現役合格者が3人ここにいるって、超レアじゃん」
「せやろ!?さっすが、かけるん!分かってるやないのー」
「その中でもさ、浅尾さんってトップ合格なんでしょ?」

 結衣が身を乗り出して、桔平くんへ視線を向けた。気付いているはずなのに、桔平くんは返事をせず黙々とパエリアを食べ続ける。あぁ思い出すなぁ、この感じ……。本当に愛想悪かったよね、出会った時の桔平くん。

「浅尾は入試だけじゃなくて、定期試験も毎回トップだよね」
「浅尾っちは頭の良さも絵の才能も別格やしなぁ。しかも天使みたいな彼女がおるなんて!反則!ずるい!神様から愛されすぎっ!」

 長岡さんが桔平くんの話をする時は、何故かいつも嬉しそう。

 前から思っていたけれど、ヨネちゃんも長岡さんも小林さんも、桔平くんのことを尊敬して一目置いているだけじゃない。人として好きなんだろうなぁって感じる。

 ヨネちゃんは別として、長岡さんと小林さんには結構素っ気ない態度を取っているのにね。男の人には厳しい桔平くん。それなのに、とっても慕われているのがよく分かる。

「浅尾さんって、愛茉のどこを好きになったんですかー?」

 桔平くんはパエリアを食べる手を止めて、めげずに話しかけてくる結衣の方を向いた。表情は相変わらず“無”です。
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