ホウセンカ

えむら若奈

文字の大きさ
上 下
275 / 407
おしゃべりなコデマリ

10

しおりを挟む
 座席に座っている女子高生グループが、桔平くんの方をチラチラ見ながら何か話している。桔平くんは背が高いし何より服装が目立つから、いつもこんな感じなんだよね。でも本人は一切意に介さず、常に無表情。

「今日は肉いっぱい食った?」
「うん、たっぷり。デザートのシャーベットがイチゴでね、すっごく美味しかったの」
「そりゃ良かったな」

 私にだけは、こんな風に優しく笑いかけてくれる。桔平くんのこの顔が、すごくすっごく大好き。はぁ、どうしよう。なんかもう今日は大好きが溢れて仕方ない。だけど今は、必死に平静を装う。
 
「桔平くんは、帰り早かったね。7時くらいって言ってたのに」
「ああ。今日は長岡がアトリエにいたんだけどさ、雷雨になりそうってボソッと言ってたんだよ」
「あ、そういや不安定な天気って言ってた気がする。一応折りたたみは持ってきてるけど……雷やだなぁ」
「だから、早く帰らねぇとなーって。長岡の天気予報、当たるし」

 そっか、私が怖がるから……。それで早めに切り上げて、しかもわざわざ途中で電車を降りて待っていてくれたんだ。やばいやばい。キュンが止まらない。ヨネちゃんにあんなこと言われたから、余計に桔平くんの愛を感じてしまう。

「長岡さん、天気予報が得意なんだね」

 桔平くんの胸に飛び込みたい衝動を何とか抑えつつ、会話を続けた。
 
「得意っつーか、あいつ高校の時に気象予報士の資格取ってるし。しかも一発合格」
「え、すごい!気象予報士試験って、難関なんでしょ?」
「そうだな、合格率1桁だし。長岡は天気図が好きらしくてさ、等圧線見てウットリしてる変態なんだよ」

 いくら天気図が好きだからといっても、高校生で一発合格ってすごすぎない?そこで更に藝大も現役合格なわけだし……ちょっと次元が違いすぎる。そういえば、ヨネちゃんも現役合格だよね。あの小林さんも。

 改めて考えると、桔平くんってすごい人たちに囲まれている。周りとの違いに傷ついてきた桔平くんが人の中で普通に生活できているのは、強烈な個性が周りに集まっているからなんだろうな。

 だから別に、私がいなくたって……なんてネガティブスイッチが入りかけていたけれど、七海やヨネちゃんのおかげで復活した。私にしかできないこと、たくさんあるはずだもんね。

 相手のしてほしいことを理解するには、よく観察することだってヨネちゃんが言っていた。だから、これまで以上に桔平くんのことをよく見ておかなくちゃ。

「どうかした?」

 サングラスを外して空の様子を眺める横顔を見つめていたら、桔平くんが怪訝な顔を向けてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

律と欲望の夜

冷泉 伽夜
大衆娯楽
アフターなし。枕なし。顔出しなしのナンバーワンホスト、律。 有名だが謎の多いホストの正体は、デリヘル会社の社長だった。 それは女性を喜ばせる天使か、女性をこき使う悪魔か――。 確かなことは 二足のわらじで、どんな人間も受け入れている、ということだ。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

めぐる鍵、守護するきみ-鍵を守護する者-

空哉
恋愛
世界は鍵によって均衡を保っていた。 その鍵を所有する者、守る者、狙う者。 それぞれが交錯するとき、歯車は動き出す。 都内郊外に暮らす中学3年生の月代美都(つきしろ みと)。彼女はただ、普通の少女だった。あの日、ピアノの音に導かれるまでは。 これは一人の少女が宿命に立ち向かうお話。

カーテン越しの君

風音
恋愛
普通科に在籍する紗南は保健室のカーテン越しに出会ったセイが気になっていた。ふとした拍子でセイが芸能科の生徒と知る。ある日、紗南は喉の調子が悪いというセイに星型の飴を渡すと、セイはカーテン越しの相手が同じ声楽教室に通っていた幼なじみだと知る。声楽教室の講師が作詞作曲した歌を知ってるとヒントを出すが、紗南は気付かない。セイはお別れをした六年前の大雪の日の約束を守る為に再会の準備を進める一方、紗南はセイと会えない日々に寂しさを覚える。

処理中です...