ホウセンカ

えむら若奈

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スズラン香る道の先

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「……でも、桔平さんって4年生ですよね。あたしが入学する頃いないじゃないですか……」
「大学院行くから。多分博士課程にも進むし……ていうか、オレ学年言ったっけ?」
「あああああすみませんすみません!」

 ベンチから落ちそうなほど、彩ちゃんが体をのけ反らせる。やはり動きが小林だ。

「なんで謝んの」
「で、出来心でついつい桔平さんの名前をネットで検索してしまって……そしたら、たくさん受賞されてるし有名画家の息子さんだし……あたし、そんなすごい人になんて無礼なことを……」
「すごくなんかねぇよ」

 苦笑しながら麦茶を飲むと、彩ちゃんはオレが手にした水筒を凝視してくる。ちなみに水筒はもちろん直飲みボトルではなくて、コップへ注ぐタイプだ。

「桔平さんの水筒、スヌーピーだ」
「ああ、これは彼女の。今、彼女の実家に帰省してるから」
「彼女ぉ……いますよねぇー!分かってましたけどぉ!あたしなんかが少しでも夢を持ってすみません地球に謝りますぅ!」

 今度は顔を両手で覆って、頭をぶんぶんと振っている。まずいな。女版小林にしか見えなくなってきたぞ。
 
「……何言ってんの」
「だって思うじゃないですかぁ!偶然2回も見かけて、しかも絵描き!運命の恋かもぉなんて、乙女心がちょびっと顔出しちゃうじゃないですかぁ!」
「そりゃ残念だったな。オレは宇宙が爆発しても、彼女一筋だし」
「ああっ!溺愛系彼氏!これもまた推せるぅ!」

 高校生は子供だからチョロい。愛茉の言うことは、あながち間違いではないのかもしれない。大学生が妙に大人びて見えるだけなのだろう。一体、オレのどこがいいんだか。

「あのぅ……全然下心ないと言ったら嘘になりますけど、どうせ北海道と東京で遠く離れているわけなので連絡先教えてもらうのって無理ですか」

 別に教えてもいいとは思ったが、愛茉の顔が頭に浮かんでしまった。やめておけってことか。オレが知る限り、本来の愛茉はかなり嫉妬深いはずだ。……一瞬悪寒が走ったから、やはりやめておこう。
 
「彼女以外にはマメじゃないから、多分ほぼ返事しないよ。変に期待するより、最初から連絡先知らねぇ方がいいだろ。その代わり、同級生のインスタ教えるから。そいつジャンル関係なく絵描きと繋がるの好きだし、彩ちゃんのこと伝えとく」
「あ……はい」

 あからさまに落胆している彩ちゃんに、ひとまずヨネのアカウントを教える。ヨネとなら、仲良くなれるはずだ。小林は……一旦置いておこう。妙な化学反応が起きそうで恐ろしい。
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