261 / 407
スズラン香る道の先
14
しおりを挟む
「あたしにとっての絵の基礎は、描きたいと思う気持ちです!あたしが描きたい絵は、明確なテーマのもとで自分の頭に浮かんだ抽象的なイメージです!そして、それにデッサン力は必要ありません!」
相変わらず大きな声で、一気に言い切る。表情には一切迷いがない。
「でも、デッサンもちゃんとやります。だって今の高校を卒業して、藝大に行きたいって目標ができたから。そのためには、デッサンでもちゃんと評価がもらえるようにならなきゃいけないし。あたしが描く絵にデッサン力は必要ない。だけど、あたしの目標のためには必要です」
最初から、頭の回転が速い子だとは思っていた。高1でここまで考えて自分の言葉で伝えられるのは、素直に凄いと感じる。これは間違いなく、彩ちゃん自身が必死に考えて出した答えだ。何の枠にも囚われていない、無垢なままの答え。
オレが無言で頷くと、彩ちゃんは不安そうな目を向けてきた。
「あ、あたしの答え、間違ってますか?」
「最初から正誤判定をするつもりはねぇよ。彩ちゃんがそう思うなら、その答えを正解にするために何をすべきか考えたらいい。選んだことに意味や価値を見出せるかどうかは、自分次第だからな」
とやかく言う権利は、オレにはない。正解かどうか決められるのは自分自身だけ。オレにできるのは、少しだけ背中を押してやることぐらいだ。
「失敗したっていいんだよ。違ってたと思えば、その時にまた考え直せばいい。“こうじゃなきゃいけない”なんてものは、何ひとつねぇんだから。ましてや芸術の世界の正解は、人の数だけある。大事なのは、周りが押しつける“正解”に惑わされないこと。自分の目で見て頭で考えて、何度も失敗を繰り返しながら、唯一無二の正解へ辿り着こうとすること」
これは誰に向けた言葉なのか。まるでもうひとりの自分がオレに話しているような、不思議な感覚に陥った。
オレにとっての“唯一無二の正解”とは何なのだろう。そう簡単に辿り着けるものではないことだけは分かっている。しかし、だからこそ人生をかけて追求していく価値があるのだと思う。
これから自分の足で立とうとしているこの若き画家にも、自分にしか辿り着けない場所が必ずあるはずだ。
「彩ちゃんなら大丈夫。上野で待ってるよ」
自分の口からこんな言葉が出るとは思ってもみなかった。愛茉の影響かもしれないな。
「うぅあぁ……あ、ありがとうございます……」
赤いメガネの向こうの瞳が、みるみる潤んでいく。そして彩ちゃんは、顔をくしゃくしゃにしながら鼻をすすった。その顔は、やはりまだあどけない。
相変わらず大きな声で、一気に言い切る。表情には一切迷いがない。
「でも、デッサンもちゃんとやります。だって今の高校を卒業して、藝大に行きたいって目標ができたから。そのためには、デッサンでもちゃんと評価がもらえるようにならなきゃいけないし。あたしが描く絵にデッサン力は必要ない。だけど、あたしの目標のためには必要です」
最初から、頭の回転が速い子だとは思っていた。高1でここまで考えて自分の言葉で伝えられるのは、素直に凄いと感じる。これは間違いなく、彩ちゃん自身が必死に考えて出した答えだ。何の枠にも囚われていない、無垢なままの答え。
オレが無言で頷くと、彩ちゃんは不安そうな目を向けてきた。
「あ、あたしの答え、間違ってますか?」
「最初から正誤判定をするつもりはねぇよ。彩ちゃんがそう思うなら、その答えを正解にするために何をすべきか考えたらいい。選んだことに意味や価値を見出せるかどうかは、自分次第だからな」
とやかく言う権利は、オレにはない。正解かどうか決められるのは自分自身だけ。オレにできるのは、少しだけ背中を押してやることぐらいだ。
「失敗したっていいんだよ。違ってたと思えば、その時にまた考え直せばいい。“こうじゃなきゃいけない”なんてものは、何ひとつねぇんだから。ましてや芸術の世界の正解は、人の数だけある。大事なのは、周りが押しつける“正解”に惑わされないこと。自分の目で見て頭で考えて、何度も失敗を繰り返しながら、唯一無二の正解へ辿り着こうとすること」
これは誰に向けた言葉なのか。まるでもうひとりの自分がオレに話しているような、不思議な感覚に陥った。
オレにとっての“唯一無二の正解”とは何なのだろう。そう簡単に辿り着けるものではないことだけは分かっている。しかし、だからこそ人生をかけて追求していく価値があるのだと思う。
これから自分の足で立とうとしているこの若き画家にも、自分にしか辿り着けない場所が必ずあるはずだ。
「彩ちゃんなら大丈夫。上野で待ってるよ」
自分の口からこんな言葉が出るとは思ってもみなかった。愛茉の影響かもしれないな。
「うぅあぁ……あ、ありがとうございます……」
赤いメガネの向こうの瞳が、みるみる潤んでいく。そして彩ちゃんは、顔をくしゃくしゃにしながら鼻をすすった。その顔は、やはりまだあどけない。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

《メインストーリー》掃除屋ダストンと騎士団長《完結》
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説ダブルで100位以内に入れました。
ありがとうございます!
王都には腕利きの掃除屋がいる。
掃除屋ダストン。彼女の手にかかれば、ごみ屋敷も新築のように輝きを取り戻す。
そんな掃除屋と、縁ができた騎士団長の話。
※ヒロインは30代、パートナーは40代です。
沢山の♥、100位以内ありがとうございます!お礼になればと、おまけを山ほどかいております!メインストーリー完結しました!今後は不定期におまけが増えますので、連載中になってます。
クールな御曹司の溺愛ペットになりました
あさの紅茶
恋愛
旧題:クールな御曹司の溺愛ペット
やばい、やばい、やばい。
非常にやばい。
片山千咲(22)
大学を卒業後、未だ就職決まらず。
「もー、夏菜の会社で雇ってよぉ」
親友の夏菜に泣きつくも、呆れられるばかり。
なのに……。
「就職先が決まらないらしいな。だったら俺の手伝いをしないか?」
塚本一成(27)
夏菜のお兄さんからのまさかの打診。
高校生の時、一成さんに告白して玉砕している私。
いや、それはちょっと……と遠慮していたんだけど、親からのプレッシャーに負けて働くことに。
とっくに気持ちの整理はできているはずだったのに、一成さんの大人の魅力にあてられてドキドキが止まらない……。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる