ホウセンカ

えむら若奈

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スズラン香る道の先

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「え、えと……む、昔から絵を描くの好きで。小学生の時、コンクールで金賞貰ったんです。それが嬉しくて、なんか……ずっと描いてます」
「どんな絵?」
「へいっ? 」
「金賞を貰った絵って、何を描いたやつ?」
「えと、未来……です。どんな未来になってるかなっていうのがテーマで。あたしは図形がいっぱい重なり合ったような絵を描いたんです。頭の中で未来を想像したら、なんかそんなイメージが見えてきたんで。空飛ぶクルマとかロボット描く子が多かったから、あたしの絵が珍しくて、たまたま金賞になったのかもだけど……」

 何となく分かってきた。この子がデッサンを苦手としている理由が。

「普段は、どんな絵を描いてる?」
「普段は……なんか、頭に浮かんだイメージを……赴くままに……」
「見たい」
「うぃっ!?」

 さっきから、いちいち返事が面白いな。

「デッサンじゃなくて、普段描いてる絵が見たいんだよな。鉛筆画でもいいんだけど、これに描いてねぇの?」
「ああああいいそそそこめくったらダメですぅー!」

 オレがスケッチブックのページをパラパラめくると、彩ちゃんが挙動不審になった。声が大きいので、オレが女子高生に良からぬことをしているのではないかと訝しむ周囲の視線が突き刺さる。そのうち通報されるかもしれないな。

「お、これか」
 
 何枚も空白ページを挟んだ後に、鉛筆で描かれた抽象画が現れた。彩ちゃんが両手で顔を覆って、呻き声を上げる。

「うう……衣服を無理矢理剥ぎ取られた気分……」
「人を痴漢みたいに言うんじゃねぇよ」

 まるで純潔を穢されたかのような物言いに苦笑しつつ、鉛筆画をじっくり眺めた。

 スケッチブックからはみ出そうなほど縦横無尽に描かれた直線や曲線、それに大小さまざまな大きさの円が重なり合っている。やはり直線や円の形は非常に綺麗だ。陰影のつけ方にも、雑なところは一切ない。
 
「……なるほど」
「ななななんですか何に納得したんですか桔平さん」
「これって、何かテーマとかある?」

 そう尋ねると、何故か恨めしそうな視線を向けられた。顔の変化がすごいな。愛茉の前以外では表情筋が固まっているオレからすると、ある意味羨ましい。

「なんだよ。笑わねぇから大丈夫だって。自分の中に湧いてきたイメージを表現したんだろ?それを教えてって言ってるだけ」

 今度は口を極限まで尖らせて、彩ちゃんは眉間にシワを寄せた。

 自分の絵、つまり脳内をオープンにすることを恥ずかしく感じる気持ちは分からないでもない。それこそ、衣服を脱ぎ捨てて性癖を晒すようなものだ。ただ、躊躇するのは最初だけ。すぐに慣れる。
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