ホウセンカ

えむら若奈

文字の大きさ
上 下
234 / 407
ヒマワリ微笑むあの丘で

2

しおりを挟む
「おかえりなさいーっ!」

 ダッシュで玄関へ向かって、桔平くんに思いきり抱きついた。
 同棲を始めて半年以上経っても、やっぱりこの瞬間がすごく嬉しい。同じ家に帰ってきてくれるのって、とっても幸せなことだもん。
 
「あんまくっつかねぇ方がいいよ。汗ベトベトだから」
「桔平くんの汗のニオイはアロマだもん」
「ベッドの中で嫌ってほど嗅がせてやるから、今はアロマを洗い流させてー」

 桔平くんが変態なのも、相変わらずです。

 でもそうだよね。蒸し暑いから、気持ち悪いもんね。帰ってきたらすぐにシャワーを浴びるだろうと思って、着替えとタオルはちゃんと洗面所にセット済み。私、デキる彼女なので。

「あ、牛乳買ってきた」
「ありがとう~」

 桔平くんはいつも、帰る前に何か買うものがないか訊いてくれる。絶対、いい夫になりそうだよね。だから私はいい妻になるために、今から修行しているのです。

 桔平くんがシャワーから出てきたら、サッとお水を渡す。これはいつものことだけど、毎回「ありがとう」って言ってくれる。
 やっぱりこの一言って、とっても大切。条件反射であったとしても「ありがとう」の言葉があるのとないのとでは、全然気持ちが違うと思った。
 
「あのねあのね」

 ベッドに腰かけてタオルで髪を拭いている桔平くんの横に座る。帰ってきたらすぐ今日の出来事を話したくなっちゃうのは、いつまで経っても変わらない。子供みたいだって自覚はしているけれど、桔平くんはいつも笑顔で聞いてくれるし、この時間がすごく好きだった。
 
「実家に、中学の同窓会の案内が届いてたんだって」
「ふーん。行かねぇんだろ?」
「うん、もちろん。でもなんかモヤっとした気持ちになっちゃったから、ちょっと愛がほしいです」
「ほい」

 桔平くんが、両腕を広げた。いろいろ言わなくても通じるようになってきたみたいで、私が何をして欲しいと思っているのか、すぐに分かってくれる。

 胸に飛び込むと優しく包みこまれて、嫌な気持ちなんてどこかへ行ってしまった。

「本当は少し憧れだったんだけどな」
「なにが?」
「同窓会。数年ぶりに再会したアイツが、あんなイケメンに!?……的なの」
「また少女漫画かよ」
「だけど今は桔平くんがいるから、もはやどうでもいいです」

 桔平くんの胸に顔をこすりつける。やっぱり、この香りはアロマだなぁ。

 辛くて悲しい思い出があっても、桔平くんが傍にいれば大丈夫。ふと記憶が蘇って泣いてしまう時もあるけれど、こうやって抱きしめてくれる人がいてくれるから、小樽へ帰っても平気なの。

 桔平くんと出会って、2度目の夏が来る。去年とはまた違う夏休みになりそうで、私は何となくワクワクしていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:291pt お気に入り:3,980

この世界じゃ本気出してないだけー異世界冒険録ー

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

June bride.

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

泣き虫殿下はクールを装いすぎている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:39

【奨励賞】呑めない酒呑童子は京都男子の‪✕‬‪✕‬がお好き

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:45

結婚六カ年計画

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:271pt お気に入り:6

知らない異世界を生き抜く方法

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:498pt お気に入り:51

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:193

処理中です...