ホウセンカ

えむら若奈

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アストロメリアのプレゼント

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「自分は三男だし、実子がいなくても本家には何も言われない。子供が欲しいから結婚を申し込むわけじゃない。君と生涯連れ添いたいからだ。……ってのが、本條さんのプロポーズ。耳にタコができるぐらい、母さんが話してくれたわ」
「本條さん、かっこいいね」
「そうは言っても、いろいろとしがらみが多い家の生まれだからな。初婚なのにコブつきの女と結婚するなんてって言われたらしい。それでも何とか本家を説得して結婚できたおかげで、オレは絵を描き続けていられるんだよな」

 本條さんが勧めてくれたから、芸術高校へ通うことになったんだもんね。それがなければ、きっと藝大への道もなかった。そして誰にも認められることなく、ただ孤独に絵と向かい合う日々だったのかもしれない。

「ただまぁ、本條さんはオレと違って超合理主義者でさ。芸術で食っていけるのかって思いは、今もあると思うんだよな。だから養子縁組の話もしたんじゃねぇかな」
「相続がどうの……っていうこと?」
「養子縁組して親子関係が発生すれば、オレも本條さんの法定相続人になるだろ。本條さんが亡くなった後に遺産分割するとしても、何の不自由もなく暮らしていけるだけの金は手に入る。売れない画家を続けるより、よっぽど現実的ってことだ。ただ家柄が家柄だし、相続に関してはシビアだからな。養子縁組もしていない再婚相手の連れ子なんかにゃ、本家はびた一文も渡さねぇだろうよ」

 うーん。お金持ちの家って、なんだか複雑。桔平くんが本條さんの戸籍に入らず家を出ていて良かったって、ほんの少し思ってしまった。

「ごめんな」
「え?」
「一生遊んで暮らせる権利、手放した」

 ハンドルを握りながら、いたずらっぽい笑みを浮かべる。私はそんなの求めていないって、分かってるくせに。

「大丈夫だよ。私の人生計画書では、そんな権利がなくても楽しく暮らしていけるもん」
「そうだったな。壮大な計画があるんだった」

 楽したいわけじゃない。一生遊んで暮らすなんて、絶対に飽きるでしょう。私は桔平くんと一緒に、毎日の変化を楽しみながら生きていきたい。ただそれだけなんだよ。

「実家に長時間いたの久しぶりだから、なんか肩凝ったな」
 
 桔平くんが気怠そうに肩を回す。
 家に着くと、思っていた以上にどっと疲れてしまった。私も、気を張り過ぎたのかな。

 お昼はたくさん食べたし夕ご飯はデリバリーにしようと桔平くんが言ってくれて、楽させてもらっちゃった。明日は頑張ろう……。

 そしてお風呂から上がると、一気に眠気が襲ってきた。桔平くんとお話していたら大丈夫なのに、今は私と入れ替わりで入浴中。ああ、一緒に入ればよかった。

 眠い。いやダメダメ。ちゃんと起きておかなきゃ。あと1時間半ちょっと。そうだ、漫画読んで目を覚まそう。あ、タブレット充電しないと……と思っていたところで、意識が飛んだ。

 それからどれくらい経ったのか。ベッドの揺れで目を覚ます。体には布団が掛けられている。横を見ると、桔平くんが読んでいた本を閉じてサイドテーブルへ置こうとしていた。
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