210 / 407
アストロメリアのプレゼント
2
しおりを挟む
「……あのさ。少し気が早いけど、今年の夏休みは小樽に行かねぇ?」
私の髪を手で梳かしながら、桔平くんがぽつりと言った。
「え?私の実家ってこと?」
「うん」
「いいけど……お父さんと智美さん、長期休暇取って海外旅行するって言ってたよ。お盆明けぐらいだったかなぁ」
「うん。だから盆前から行って、しばらく小樽にいたい。愛茉が生まれ育った街で、愛茉と2人で過ごしたいんだよ。卒業制作は、小樽の風景が描きたくてさ」
「……ひとり旅、行かなくていいの?」
「愛茉と一緒にいる方がいい」
海外ひとり旅は、桔平くんにとってライフワークみたいなもの。でも私のことを気にして行きたくても行かないのかもしれないと、ずっと気になっていた。
「ひとりで行きたいところは、大体行きつくしたんだよ」
私が何を考えているのか察したようで、桔平くんはそう付け加える。
「中学の時なんて、1年のほとんどを海外で過ごしたしな。学校、全然行ってなかったから。でも今はやっぱり、愛茉がいないとつまんねぇもん」
桔平くんの言葉には、いまだに胸がキュッとなる。声とか言い方とか、全部が好きなんだもん。全然飽きないのが不思議。
「でも、なんで小樽の風景が良いの?」
年末年始に帰省した時、小樽はずっと雪景色で。桔平くんはスケッチしたり、持参した一眼レフで撮影したりしていた。でもすごく寒かったから、家の周辺ばかりだったんだよね。
「んー……何描くかなぁってボンヤリ考えてたら、ふと思い浮かんだんだよな。だから、オレが描きたいのかもしれない」
「桔平くんの絵?」
「……に、なればいいなって」
桔平くんは、無意識のうちに周りから求められるものを描いてしまうと言っていた。本当に描きたいものを描くって、口で言うほど簡単じゃないんだろうな。
外での桔平くんは、常に“浅尾瑛士の息子”として振る舞っているのかもしれない。周りがそういう目で見るからというだけじゃなくて、お父さんを尊敬する気持ちが強すぎるせいもあるのかな。
何のラベルも貼られていない、無印の桔平くんの絵。いつか必ず見てみたい。夏の小樽帰省が、そのきっかけになればいいんだけど。
そんなことを考えていたら、頭に触れる桔平くんの手の心地良さのせいで、夢の中へ意識がゆっくりと落ちていった。
私の髪を手で梳かしながら、桔平くんがぽつりと言った。
「え?私の実家ってこと?」
「うん」
「いいけど……お父さんと智美さん、長期休暇取って海外旅行するって言ってたよ。お盆明けぐらいだったかなぁ」
「うん。だから盆前から行って、しばらく小樽にいたい。愛茉が生まれ育った街で、愛茉と2人で過ごしたいんだよ。卒業制作は、小樽の風景が描きたくてさ」
「……ひとり旅、行かなくていいの?」
「愛茉と一緒にいる方がいい」
海外ひとり旅は、桔平くんにとってライフワークみたいなもの。でも私のことを気にして行きたくても行かないのかもしれないと、ずっと気になっていた。
「ひとりで行きたいところは、大体行きつくしたんだよ」
私が何を考えているのか察したようで、桔平くんはそう付け加える。
「中学の時なんて、1年のほとんどを海外で過ごしたしな。学校、全然行ってなかったから。でも今はやっぱり、愛茉がいないとつまんねぇもん」
桔平くんの言葉には、いまだに胸がキュッとなる。声とか言い方とか、全部が好きなんだもん。全然飽きないのが不思議。
「でも、なんで小樽の風景が良いの?」
年末年始に帰省した時、小樽はずっと雪景色で。桔平くんはスケッチしたり、持参した一眼レフで撮影したりしていた。でもすごく寒かったから、家の周辺ばかりだったんだよね。
「んー……何描くかなぁってボンヤリ考えてたら、ふと思い浮かんだんだよな。だから、オレが描きたいのかもしれない」
「桔平くんの絵?」
「……に、なればいいなって」
桔平くんは、無意識のうちに周りから求められるものを描いてしまうと言っていた。本当に描きたいものを描くって、口で言うほど簡単じゃないんだろうな。
外での桔平くんは、常に“浅尾瑛士の息子”として振る舞っているのかもしれない。周りがそういう目で見るからというだけじゃなくて、お父さんを尊敬する気持ちが強すぎるせいもあるのかな。
何のラベルも貼られていない、無印の桔平くんの絵。いつか必ず見てみたい。夏の小樽帰省が、そのきっかけになればいいんだけど。
そんなことを考えていたら、頭に触れる桔平くんの手の心地良さのせいで、夢の中へ意識がゆっくりと落ちていった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します
桜桃-サクランボ-
恋愛
人身御供(ひとみごくう)は、人間を神への生贄とすること。
天魔神社の跡取り巫女の私、天魔華鈴(てんまかりん)は、今年の人身御供の生贄に選ばれた。
昔から続く儀式を、どうせ、いない神に対して行う。
私で最後、そうなるだろう。
親戚達も信じていない、神のために、私は命をささげる。
人身御供と言う口実で、厄介払いをされる。そのために。
親に捨てられ、親戚に捨てられて。
もう、誰も私を求めてはいない。
そう思っていたのに――……
『ぬし、一つ、我の願いを叶えてはくれぬか?』
『え、九尾の狐の、願い?』
『そうだ。ぬし、我の嫁となれ』
もう、全てを諦めた私目の前に現れたのは、顔を黒く、四角い布で顔を隠した、一人の九尾の狐でした。
※カクヨム・なろうでも公開中!
※表紙、挿絵:あニキさん

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる