ホウセンカ

えむら若奈

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モンテスラに願いをこめて

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 悶々としかけた時、桔平くんが部屋へ入ってきた。長岡さんは慌てて立ち上がる。

「お、俺、出るわ」
「長岡は飯食うんだろ?気にすんなよ。オレは一服するだけだし」
「わ、私も、もう飲み終わるから」
「愛茉は気ぃ遣わなくていいって。ゆっくりしときなよ」

 ……何となく気まずい空気が流れているのは何でだろう。

 でも桔平くんは特に気にする様子もなく、コーヒーを淹れて私の隣へ座る。それを見て、長岡さんがコンビニの袋から菓子パンと牛乳を取り出して、静かに食べ始めた。

「さっき……凝視して、すんません」

 もそもそとパンを頬張りながら、視線を合わせずに長岡さんが言った。
 
「その……あまりに顔が整ってるから、つい。浅尾も、悪い」
「なんでオレに謝んの」
「だって、自分の彼女が他の男に凝視されたら嫌だろ」
「理由によるね。お前の場合、完全に画家視点だっただろ。その気持ちは分かるしな」

 あ、そういう視線だったんだ。美人画を描くぐらいだから、女性の顔立ちは気になるのかな。仕方ないよね。私ほど可愛い子なんて、なかなかいないもん。

 桔平くんの言葉に、長岡さんは少し俯いてホッとしたような表情を浮かべた。
 
「俺、女性にあんまり免疫ないというか……。いや、あんまりじゃない、全然……なくて。付き合ったことないから。だからその……接し方が下手で。失礼な真似したなって」
「気にしてないですよ」
「そ、それなら良かった……」
「でも長岡さんの美人画って、女性に対する優しさというか、愛情をすごく感じますね。とっても素敵です」
「え……」

 長岡さんの顔が真っ赤になった。それを隠すように思いきり俯いて、中指でメガネを押し上げる。
 うーん、髪がもさもさしているから、少し野暮ったい印象なんだよね。ハッキリした顔立ちだし、短髪にしたらいいのになぁ。何気に原石っぽいんだけど。

「あ、ありがとう……。そう言ってもらえるのは、めちゃくちゃ嬉しい」
「絵のモデルっているんですか?」
「いる時と……いない時と……」

 私が長岡さんと2人で会話しても、桔平くんは知らん顔でコーヒーを飲んでいる。こういう時に何を考えているのかは、いまだによく分からないんだよね。ヤキモチとか妬かないのかな。ちょっとは妬いてほしいんだけど。

「浅尾は……彼女をモデルに描かないわけ?」

 間が持たなくなったのか、長岡さんが桔平くんに水を向ける。

「まぁ、描いてはいるんだけどな……」
「え?私、描かれてるの?」
「描いてんじゃん。寝顔とか」
「ね、寝顔……」

 また赤面する長岡さん。いちいち反応がピュアな人だなぁ。

「ま、まぁ、浅尾は風景画が秀逸だもんな。何を描かせても高評価ではあるけど……」

 言われて、桔平くんはコーヒーカップにじっと視線を落とした。これは多分、自分の絵について考えているんだろうな。
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