ホウセンカ

えむら若奈

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夕焼けに浮かぶベンジャミン

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「……泣くなって。ごめん、言い方キツかった」
「泣いてないし」

 背を向けてベッドの上で膝を抱えた私を、桔平くんが後ろから抱きしめてくれる。
 こんなことぐらいですぐ不貞腐れて泣くなんて、我ながら幼稚すぎるでしょう。

「愛茉の気持ちは分かってるよ。七海ちゃんのために、何かしてあげたいんだよな。ただ、本人から話を聞かねぇうちからアレコレ考えても仕方ねぇだろ?」

 私の頭を撫でながら、優しい声で桔平くんが言った。まるで親が小さい子供を宥めて諭すみたいな感じ。ちっとも成長しない自分に嫌気がさしてくる。

 でもこんな風に素のままの感情を出せる相手は、桔平くんしかいなくて。子供の頃にずっと抑え込んでいたものが、今になってどんどん出てきちゃっているのかもしれない。

「だから勝手に気持ちを決めつけるんじゃなくて、まずは七海ちゃんの話を聞いてやりなよ」
「……うん。ごめんなさい」

 私を包んでくれる逞しい腕に手を添えた。この温かさが、子供っぽくて意地っ張りな私を素直にしてくれる。

 こんなに幼稚でワガママで面倒な女に、よく付き合っていられるなぁ。桔平くんってすごい。
 
「いや、今のは完全にオレが悪かった」
「ううん。桔平くんの言う通りだもん。七海の気持ちを聞かないうちから、ひとりで突っ走っちゃって」
「正しいことを言う人間が、常に正しいわけじゃねぇからさ。言い方っつーか、伝え方ってもんがあったわ」

 桔平くんのこういうところ、本当に尊敬する。常に自分に矢印が向いていて、絶対に私のせいにしないの。本当は私が子供っぽいだけなのに、いつも謝らせてしまう。

 桔平くんはそのままでいいって言ってくれるけれど、私も本当は大人になりたいんだよ。

「帰りにケーキ買ってくるけど、何が良い?」
「イチゴのやつ」
「タルト?」
「うん。イチゴいっぱいの」
「分かった。8時までには帰ってくるから。電車乗る時、連絡するわ」

 抱きしめたまま、桔平くんが頬にキスをしてくれる。私、とことん甘やかされているなぁ。

 今まで一度も喧嘩をしたことがないのは、こうやって桔平くんがすぐに折れてくれるおかげ。小さなことにこだわらず、こんな私を大きく受け止めてくれているから。そのぐらい、私にも分かる。

 今の私は、周りの人の優しさに甘えて寄りかかっているだけ。だから、自分にできることをしたいっていう気持ちが過剰になってしまうのかもしれない。
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