150 / 407
母へと贈るエーデルワイス
5
しおりを挟む
愛茉の大学が冬休みに入った24日。羽田空港は、早朝にも関わらず大きな荷物を持つ人で混雑していた。
保安検査場も長蛇の列だったが、かなり早めに着いたので余裕はある。とりあえず座ることはできたので、愛茉が作ってきたサンドイッチを頬張りながら搭乗開始を待った。
「旅館のチェックインは15時からだから」
「うん」
「先に荷物預けて」
「うん」
「それから一旦札幌に出て」
「うん」
「聞いてる?」
「うん」
「……今日の東京の天気は?」
「うん」
愛茉に脇腹を小突かれた。
最近はほとんど夜更かしをしなくなったし、よく眠れている。それでも相変わらず朝起きるのは苦手だし、午前中は頭が働かない。
「もう。多分言っても覚えないだろうから、これ見て」
愛茉がLINEで何かの画像を送ってきた。
「なんこれ」
「今回の旅程」
「……なんか、こまけぇな」
目的地までの交通手段や所要時間だけでなく、料金や滞在予定時間まで、きっちり書いてある。しかも状況に応じてプランAからプランDまで用意されていた。
愛茉は何事も、事前にきちんと決めたがる。良く言えば几帳面、悪く言えば神経質で融通が利かなくてマニュアル人間。オレとは真逆だ。
オレが旅をする時は、絶対に行きたい目的の場所以外は、すべて行き当たりばったりで動く。泊まる場所も決めていない。
海外ではタクシーの運転手が目的地を間違えて知らない場所に降ろされたことが何度もあるが、そういう時こそ面白い出会いがある。予定外や偶然を楽しむのも旅の醍醐味だと思っていた。
「桔平くんと行きたいところ、たくさんあって。ゆっくりしつつも、できるだけいろいろ行けるスケジュールを組んでみました」
満面の笑みでそんなことを言われると、人目もはばからず抱きしめたい衝動に駆られる。仕方ない。この細かいスケジュール通りに動いてやるか。
「クリスマスだから、小樽運河でもイベントやってるみたいだよ。絶対ロマンチックだよね。楽しみだな」
言ったあと、愛茉は口元を手で覆った。それを見て、オレにも欠伸がうつる。
昨夜、愛茉はひとりでとっととベッドへ入っていたが、結局なかなか寝つけなかったらしい。余程楽しみにしていたのだろう。
飛行機が離陸するまでは喋りまくっていたものの、飛び立ってから新千歳空港に着くまでの1時間半、オレに寄りかかってぐっすり眠っていた。最近、どんどん子供になっている気がする。
愛茉はもともと、かなり子供っぽい性格だ。ワガママだしすぐ拗ねるし、拗ねた理由を聞いても口を尖らせて黙るだけ。
かと言って放置すればまた怒るから、とりあえず構ってやらないといけない。抱きしめたり頭を撫でたりキスをしたりしているうちに機嫌が良くなるものの、何が原因なのかは分からないまま。そんなことが、頻繁にある。
ただ、子供っぽいのは感情表現が豊かということだ。しかもそれはオレに対してだけで、七海ちゃんや周りの人間には、相変わらず綺麗に外面を貼りつけている。こんなの、可愛くないわけがないだろ。
保安検査場も長蛇の列だったが、かなり早めに着いたので余裕はある。とりあえず座ることはできたので、愛茉が作ってきたサンドイッチを頬張りながら搭乗開始を待った。
「旅館のチェックインは15時からだから」
「うん」
「先に荷物預けて」
「うん」
「それから一旦札幌に出て」
「うん」
「聞いてる?」
「うん」
「……今日の東京の天気は?」
「うん」
愛茉に脇腹を小突かれた。
最近はほとんど夜更かしをしなくなったし、よく眠れている。それでも相変わらず朝起きるのは苦手だし、午前中は頭が働かない。
「もう。多分言っても覚えないだろうから、これ見て」
愛茉がLINEで何かの画像を送ってきた。
「なんこれ」
「今回の旅程」
「……なんか、こまけぇな」
目的地までの交通手段や所要時間だけでなく、料金や滞在予定時間まで、きっちり書いてある。しかも状況に応じてプランAからプランDまで用意されていた。
愛茉は何事も、事前にきちんと決めたがる。良く言えば几帳面、悪く言えば神経質で融通が利かなくてマニュアル人間。オレとは真逆だ。
オレが旅をする時は、絶対に行きたい目的の場所以外は、すべて行き当たりばったりで動く。泊まる場所も決めていない。
海外ではタクシーの運転手が目的地を間違えて知らない場所に降ろされたことが何度もあるが、そういう時こそ面白い出会いがある。予定外や偶然を楽しむのも旅の醍醐味だと思っていた。
「桔平くんと行きたいところ、たくさんあって。ゆっくりしつつも、できるだけいろいろ行けるスケジュールを組んでみました」
満面の笑みでそんなことを言われると、人目もはばからず抱きしめたい衝動に駆られる。仕方ない。この細かいスケジュール通りに動いてやるか。
「クリスマスだから、小樽運河でもイベントやってるみたいだよ。絶対ロマンチックだよね。楽しみだな」
言ったあと、愛茉は口元を手で覆った。それを見て、オレにも欠伸がうつる。
昨夜、愛茉はひとりでとっととベッドへ入っていたが、結局なかなか寝つけなかったらしい。余程楽しみにしていたのだろう。
飛行機が離陸するまでは喋りまくっていたものの、飛び立ってから新千歳空港に着くまでの1時間半、オレに寄りかかってぐっすり眠っていた。最近、どんどん子供になっている気がする。
愛茉はもともと、かなり子供っぽい性格だ。ワガママだしすぐ拗ねるし、拗ねた理由を聞いても口を尖らせて黙るだけ。
かと言って放置すればまた怒るから、とりあえず構ってやらないといけない。抱きしめたり頭を撫でたりキスをしたりしているうちに機嫌が良くなるものの、何が原因なのかは分からないまま。そんなことが、頻繁にある。
ただ、子供っぽいのは感情表現が豊かということだ。しかもそれはオレに対してだけで、七海ちゃんや周りの人間には、相変わらず綺麗に外面を貼りつけている。こんなの、可愛くないわけがないだろ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。
立坂雪花
恋愛
夏休み、小日向美和(35歳)は
小学一年生の娘、碧に
キャンプに連れて行ってほしいと
お願いされる。
キャンプなんて、したことないし……
と思いながらもネットで安心快適な
キャンプ場を調べ、必要なものをチェックしながら娘のために準備をし、出発する。
だが、当日簡単に立てられると思っていた
テントに四苦八苦していた。
そんな時に現れたのが、
元子育て番組の体操のお兄さんであり
全国のキャンプ場を巡り、
筋トレしている動画を撮るのが趣味の
加賀谷大地さん(32)で――。



社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる