ホウセンカ

えむら若奈

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白いアザレアを貴方へ

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「浅尾さん。愛茉だけじゃなくて、私までおごってもらっていいの?」
「当たり前じゃん。はい、カフェオレ2つ」

 コーヒーとミルクが2層に分かれた見た目も綺麗なカフェオレを受け取って、ストローで一口飲んだ。濃厚なミルクの甘さが口いっぱいに広がった後、コーヒーの香りが鼻から抜ける。大学祭の模擬店とは思えないくらい、本格的な味だった。
 
「すっごく美味しい」
「ほんとー?嬉しいー!」

 私と七海が絶賛すると、米田さんの目尻はさらに下がった。
 どうやらここのコーヒー豆は、米田さんセレクトらしい。カフェオレに使うミルクにもこだわっていて、自宅からエスプレッソマシンとコーヒーメーカーを持ってきて使っているんだって。
 いいなぁ。私もコーヒーメーカーが欲しくなってきちゃった。今度バイト代が入ったら、買っちゃおうかな。もちろん置くのは桔平くんの家。

「浅尾きゅんがねー、彼女が苦いコーヒー飲めないから、カフェラテだけじゃなくてカフェオレもメニューに入れてって言ったのー。もぅ、愛茉ちゃん愛されてるんだからぁ」

 え、そうなんだ。こんなところでも私のことを考えてくれていたなんて、嬉しすぎて口元がにやけてしまう。

「やだもう、残暑が厳しいわ~」

 米田さんと一緒になって、七海がはやし立てる。桔平くんは特に気にした様子もなく、周囲を見回していた。
 そういえば交代の人がいるって言っていたけれど、まだ来ないのかな?米田さんひとりだと大変そう。
 
「人増えてきたし、小林来るまでオレがいようか?」
「えー大丈夫だよー。せっかく愛茉ちゃん七海ちゃんが来てるんだからー……あ、来たぁ!」
「スマンー!遅なったわぁ!」

 大きな声とともにヨネダ珈琲のテントへ駆け込んできたのは、真っ赤な坊主頭の小柄な男性。その人は私の顔を見るなり、大袈裟な動きで口に手を当てた。

「いやっ!なにこの美人さん!」
「浅尾きゅんの彼女の愛茉ちゃん、友達の七海ちゃんだよー」

 相変わらずニコニコした表情のまま、米田さんが言う。赤坊主の人は、またオーバーリアクションで後ずさったあと、今度はずいっと顔を近づけてきた。
 
「いやっ!浅尾っちの彼女!?芸能人ちゃうん!?」
「い、一般人です」
「いやっ!声も可愛い!天使!」
「小林、顔近づけんな」

 桔平くんが無表情で、赤坊主の人の顔を押しのける。なんか、おサルさんみたいな人だなぁ。
 
「スマン、スマン。こないに綺麗な子は、なかなかお目にかかれんよって。あ、おれは“こばやしいっさ”ですぅ。小さい林の小林ですぅ……って誰が小さいねん!」
「こばやし……いっさ?」

 思わず七海と顔を見合わせる。ひとりボケツッコミより、名前の方が気になった。こばやしいっさって……小林一茶?俳人?
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