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君に捧げるカランコエ
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「嘘だよ。SとかMとか、意識したことねぇし」
笑いながら言ったものの、自分の中にどちらも内在している自覚はあった。
「ただクリエイターにはドMが多いんじゃねぇかな。ドSには無理だろ。自分の内面と向き合う苦痛に耐えるのは」
「苦痛……。絵を描くのって大変なんだね。桔平くんの絵が好きだなんて軽々しく言って、ごめんね」
愛茉が長い睫毛を伏せる。オレの悩みを理解できないことに、歯痒さを感じているような表情だった。こればかりは仕方のないことで、同じ絵描きでも抱える悩みは異なる。たとえ悩みを共有できたとしても、正解への道は人それぞれだ。
それでもオレを理解したいと思う愛茉が無性にいじらしく見えて、思わず吸い寄せられるように唇を重ねた。
どうにも抑えが利かない。一度外れたタガを元に戻すのは難しくて、ついさっき抱いたばかりなのに、もう愛茉を求めている。おそらく愛茉には、何がオレのスイッチになっているのかは分からないだろう。そもそもスイッチ自体がないのかもしれない。
体の相性なんて都市伝説か何かだと思っていたが、愛茉を抱いて初めてそれを実感した。整った顔を歪ませながら懸命にオレを受け入れてくれるのが、可愛くて仕方がない。
何よりも愛茉を大切にしたい。それなのに自分の欲望ばかりをぶつけているようで、罪悪感がこみ上げてくる。オレは本当に、愛茉を大事にできているんだろうか。ただ自分を受け入れてほしいだけじゃないのか。心と体がアンバランスな状態だった。
愛茉は拒絶されることを異常に恐れている。でもそれはオレも同じだった。いつか愛茉が離れてしまう気がして、怖くなる時がある。
自分はずっと孤独なまま死んでいくものだと本気で思っていたし、絵を遺せたらそれで良かった。ただ、今は違う。愛茉がいなければ、自分の絵が描けない気すらしている。
理屈っぽくて計算高くて見栄っ張りで、いつもマイナス思考に偏りがち。自尊心の高さと自己肯定感の低さが同居する危うさ。言いたいことを飲み込む時に、一瞬唇を真一文字にする癖。自分が本音を言えないだけなのに勝手に不機嫌になったり、気がついてほしくて無言で視線を送ってきたり、定期的にオレの気持ちを確認しないと安心できない面倒な性格。そのすべてが、オレにとっては鍾愛の的だった。
「桔平くん、大好き」
放っておいたら自分の世界に閉じこもりそうになるオレを、愛茉の言葉がつなぎとめてくれる。
異常なのは自覚していた。互いに依存しているのも。それでも愛茉がいない世界は、オレにとって死に等しいものだと思った。
笑いながら言ったものの、自分の中にどちらも内在している自覚はあった。
「ただクリエイターにはドMが多いんじゃねぇかな。ドSには無理だろ。自分の内面と向き合う苦痛に耐えるのは」
「苦痛……。絵を描くのって大変なんだね。桔平くんの絵が好きだなんて軽々しく言って、ごめんね」
愛茉が長い睫毛を伏せる。オレの悩みを理解できないことに、歯痒さを感じているような表情だった。こればかりは仕方のないことで、同じ絵描きでも抱える悩みは異なる。たとえ悩みを共有できたとしても、正解への道は人それぞれだ。
それでもオレを理解したいと思う愛茉が無性にいじらしく見えて、思わず吸い寄せられるように唇を重ねた。
どうにも抑えが利かない。一度外れたタガを元に戻すのは難しくて、ついさっき抱いたばかりなのに、もう愛茉を求めている。おそらく愛茉には、何がオレのスイッチになっているのかは分からないだろう。そもそもスイッチ自体がないのかもしれない。
体の相性なんて都市伝説か何かだと思っていたが、愛茉を抱いて初めてそれを実感した。整った顔を歪ませながら懸命にオレを受け入れてくれるのが、可愛くて仕方がない。
何よりも愛茉を大切にしたい。それなのに自分の欲望ばかりをぶつけているようで、罪悪感がこみ上げてくる。オレは本当に、愛茉を大事にできているんだろうか。ただ自分を受け入れてほしいだけじゃないのか。心と体がアンバランスな状態だった。
愛茉は拒絶されることを異常に恐れている。でもそれはオレも同じだった。いつか愛茉が離れてしまう気がして、怖くなる時がある。
自分はずっと孤独なまま死んでいくものだと本気で思っていたし、絵を遺せたらそれで良かった。ただ、今は違う。愛茉がいなければ、自分の絵が描けない気すらしている。
理屈っぽくて計算高くて見栄っ張りで、いつもマイナス思考に偏りがち。自尊心の高さと自己肯定感の低さが同居する危うさ。言いたいことを飲み込む時に、一瞬唇を真一文字にする癖。自分が本音を言えないだけなのに勝手に不機嫌になったり、気がついてほしくて無言で視線を送ってきたり、定期的にオレの気持ちを確認しないと安心できない面倒な性格。そのすべてが、オレにとっては鍾愛の的だった。
「桔平くん、大好き」
放っておいたら自分の世界に閉じこもりそうになるオレを、愛茉の言葉がつなぎとめてくれる。
異常なのは自覚していた。互いに依存しているのも。それでも愛茉がいない世界は、オレにとって死に等しいものだと思った。
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