ホウセンカ

えむら若奈

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ルコウソウの育て方

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「愛茉はいつも、先のことを不安がるよな」

 貰ったプレゼントの写真を撮ろうと思ってベッドに広げはじめると、桔平くんは私の横に寝転がった。

「だって、先が見えないと怖いじゃない」
「オレの場合は、見えたら一気につまらなくなるんだよね。素っ裸よりも、着衣の方にロマンを感じるのと同じ」
「ど、どういうこと……?」

 桔平くんの言動は相変わらず斜め上で、すぐに理解するのが難しい。でも全然嫌じゃないし、むしろそれが癖になるというか、面白く感じている自分がいる。

「見えねぇ方が、いろいろ想像できんじゃん。この中どうなってんのかなって」

 そう言って、桔平くんは着ているカットソーの裾をチラっとめくった。そこから割れている腹筋がのぞく。やっぱりエッチな意味だったのね。
 ていうか、そういうことしないでほしい。ただでさえ桔平くんは色っぽいのに、直視できなくなっちゃうじゃない。本当は見たいけど。
 
「で、でも、それで想像と違ったら?」
「違うから楽しいんだろ。何でも自分の思い描く通りになったら、想像する楽しみがなくなる」

 私は不確かなものなんて信じられない。不安要素にしかならないから。だけど桔平くんは、不確かなものを楽しんでいる。こんな風になれたらいいのにな。

「でも愛茉はそのままでいいよ。それが良いところでもあるんだし」
「え、どこが良いところなの?こんなにネガティブなのに」
「前にも言ったけど、オレはそういう愛茉のことがすげぇ可愛いと思ってるんだよ。頭の中で勝手にシミュレーションして勝手に落ち込んで。オレに嫌われるんじゃないかって不安がったりしてさ。でも先のことを不安に思うのは、その幸せが当たり前じゃないって分かってるからだろ。だから、不安が現実にならないように努力できる」

 そういう考え方もあるんだ。私は、自分の性格の嫌なところばかりを見てしまうのに。

 いつも明るく前向きで、屈託がなくて素直。本当はそんな真っ直ぐな女の子になりたい。だけど現実の私は真逆。根暗だし、いつもネガティブ。心の中には屈託しかなくて、人の言葉の裏を読んで素直に受け取れない。

 自分のことを悪く言われたり思われたりすることが耐えられないから、人に嫌われないように、誰からも好かれるように、一生懸命取り繕って。“可愛いのに飾っていなくて明るい子”を演じているだけ。
 本当の私は、友達すら作れないんだよ。

 スヌーピーのクリアファイルやらクリップやらを、ぬいぐるみと一緒にカメラへと収める。SNSはやっていないから、ただの記録用だけど。こんな風に好きなものをプレゼントしてくれる友達ができたのも、本当の自分を押し殺しているからなんだよね。
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