ホウセンカ

えむら若奈

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赤いツツジのブーケ

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「別に、それをどうにかしたいと思ったことはねぇんだけどさ。絵が描けりゃ良かったし。ただ、自分の殻に閉じこもってても、いい絵は描けねぇなと思って。だから世界中まわって、いろんな人と関わるようにしたんだよ。父親が、そうしてたから」
「桔平くんのお父さんも、世界中旅してたの?」
「実家に、父親が載ってる雑誌がたくさんあってさ。どうやったらあんな絵が描けるんだろうと思って、インタビューとかをひたすら読み漁ってた時期があるんだよ。そしたら、10代の頃からバックパッカーやってたって書いてあって。父親も人と関わるのを避けて生きてきたけど、旅をして価値観が変わったらしい。人に興味を持ったんだと」

 桔平くんが絵に対して真っすぐなのは、お父さんの背中をひたすら追いかけているからなのかもしれない。その表情には、憧れだけじゃなくて劣等感や焦燥感も見え隠れしているように感じる。

 桔平くんにとってお父さんは、ただ近づきたいだけじゃなくて、超えたい存在なんだろうな。

「オレが合コン行ってたのも、同年代の人間と関わるためなんだよ」
「あ、そう言えば、社会勉強みたいなものって言ってたよね」
「お前はもっと年齢が近い人間とも関わるべきだって、翔流に言われてさ。あいつ、世話焼きだから」
 
 そういうことだったんだ。一歩引いた目で周りを見ていたのも、途中で帰ってばっかりなのも、本当は人と関わることが好きじゃなかったからなのかな。

「ただ、つまんなかった。別に彼女が欲しかったわけでもねぇし、正直女は懲り懲りっつーか……どうでもいい人間の集まりじゃ、自分の世界も広がらなかったしな。だから合コンはそろそろいいかなって思ってた時に、愛茉と出会ったわけ」

 女は懲り懲り。その一言が引っかかるけれど、桔平くんが合コンに来るのをやめていたら、出会うことはなかった。私も、七海が誘ってくれたから行ったわけだし。やっぱり、縁って不思議。

「他人に興味なんて持てなかったのに、なんでか愛茉のことは気になったんだよ。すげぇ無理してて、自分と同じに見えたからかもしれない。まぁ、一目惚れだな」
「ほ、本当に一目惚れだったの?」
「一目惚れって、外見に惹かれることだけじゃないだろ。もちろん顔とか全体のフォルムもすげぇ可愛いとは思うけど、オレにとってそこは重要じゃねぇからさ。会うたびに、話すたびに好きだなって感じてた。どこを好きになったとかじゃない。愛茉が愛茉だから、好きなんだよ」

 細胞が、そう感じたから。今なら、この言葉の意味がよく分かる。理屈じゃなくて、ただ好きだって感情が全身に駆け巡る。そういうことなんだよね。

 桔平くんは、自分の心に浮かんだ感情をすぐにキャッチできるんだろうな。だから新鮮なまま残るし、それが絵にも活きている。いつも自分の心から目を背けている私とは、正反対。
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