ホウセンカ

えむら若奈

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赤いツツジのブーケ

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 不安がまったくないって言ったら嘘になる。でも踏み出してしまったら、もう後戻りはできないから。少しでも“いい彼女”になるために頑張らなくちゃ。

 だから、ずっと傍にいてね。……って言葉には出せないけれど、そう念じながら桔平くんに抱きついた。
 
「キ、キスは嫌じゃなかったからね」
「……だからさ。この体勢でそういう可愛いことを言われると、忍耐が必要なわけよ」

 桔平くんが苦笑する。
 なるほど。身長差があるから、抱きついて見上げたらいい感じで上目遣いになるわけで。これはなかなか効果的ってことね。ただ、キスするのは難しいかな。全然届かない……。

「ほら離れて。服、入れろって」

 こういう余裕がない表情を見られるのは、ちょっと嬉しい。大好きな人に可愛いって思われるためなら、少しくらいずるくなってもいいよね。たまに抱きついちゃおう。桔平くんにもっと可愛いって思われたい。もっともっと、私にのめり込んでほしいから。

 とりあえず洋服をクローゼットにしまって、歯ブラシとかコスメを洗面所に置かせてもらった。それだけで特別な感じがして、なんだかウキウキしてしまう。

 夕ご飯を食べていなかったから桔平くんがデリバリーを頼んでくれて、それが届くまでの間シャワーを借りた。浴槽もすごく広いから、のんびりお風呂に浸かったら気持ちいいんだろうなぁ。

 髪を乾かして部屋へ戻ると、絵の続きを描いていた桔平くんが手を止めて、じっと見つめてきた。
 
「愛茉のその格好、好きだわ。部屋着にメガネ」
「え、なんで?イモくさいのに……」
「分かってねぇなぁ。それが最高に可愛いんじゃん」

 すっごくニコニコしてる。なんでこんなにダサい姿が可愛いわけ?ずっとコンタクトしているのが辛いから、仕方なくメガネかけているだけなのに。

 届いた夕ご飯を一緒に食べている間も、桔平くんは上機嫌だった。今日は本当に、桔平くんのいろいろな表情を見ている気がする。それが全部私に向けたものなんだから、こんなに嬉しいことはないよね。

 ご飯を食べた後、桔平くんはまた課題の続きに取りかかった。さすがにもう邪魔はできないから、私はベッドに寝転がって本棚から拝借した画集を眺めていた。桔平くんの香りに包まれている感じがして、すごく心地いい。そうしてウトウトしているうちに、そのまま寝てしまった。
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