ホウセンカ

えむら若奈

文字の大きさ
上 下
62 / 407
赤いツツジのブーケ

5

しおりを挟む
 二度と会いに来ない?ここで私が拒絶したら、もう桔平くんに会えなくなるってこと?
 
「……ホントにキスするよ?」

 息がかかるほどの距離で言われる。

 キスしてほしい。本当は、そう言いたい。だって、会えなくなるなんて嫌だもん。

 でも自分の気持ちを口にしたら、同時に失ってしまうような気がして。だから言いたくない。言わせないでほしい。自分の気持ちを伝えずに桔平くんを繋ぎ止められないかって、ずるいことばかり考えてしまう。

 桔平くんの目を見つめた。綺麗なグレーの中に、吸い込まれそうになる。

「いいよ」

 それだけ言って、瞼を閉じた。

 柔らかい唇が、そっと触れる。まるでシャボン玉に触れるような、すごくすごく優しいキス。それはほんの一瞬で、触れたのが唇だとは分からないくらい。

 それなのに、火がついてしまった。もっと求めてほしい。息ができないくらい、桔平くんに求められたい。

 涙が出てくる。どうしてかは分からない。ただ、胸の奥から何かが溢れてきて、どうしようもなくなった。ブレーキが、ついに壊れてしまった。

「好き」

 涙と一緒に、言葉が零れる。

「桔平くんが、大好き」

 言い終わらないうちに、唇を塞がれた。今度は触れるだけじゃなくて、さっきよりも深く、長く。甘い何かが、体に流れ込んできた。

 一瞬離れても、想いと一緒に、また重なる。その度に、大好きだって言われているように感じた。

 桔平くんのことが、好きで好きで仕方がない。とっくに気がついていたのに、その2文字が口に出せなかった。私にとっては、すごく重たい言葉だったから。

 桔平くんの大きな手が私の頬を優しく撫でて、涙を拭ってくれる。そしてまた、唇を重ねた。

 どうしてこんなに温かくて心地いいんだろう。ドキドキするけど、安心できる。こんな風に感じるのは、絶対に桔平くんだけ。

 大好き、大好き、大好き。何回言っても足りないよ。言葉なんかじゃ表現できないくらい、桔平くんが大好き。

「……全然足りねぇんだけど、もっとしていい?」

 その熱を帯びた瞳の艶めかしさに、頭の中が沸騰しそうになる。
 
「もっと?な、なに、何を?」
「だから、キスを」
「あ、そ、そっちね」
「……それ以上のこと、してほしいわけ?」

 桔平くんが、いつもの意地悪な表情になった。
 
「ち、ちがっ、違うから!いろいろ準備できてないし!」
「オレは別に、下着が上下別でも気にしねぇけど。どうせ脱がせるんだし」
「違う!こ、心の準備とか!」
 
 桔平くんが笑いをかみ殺している。多分、私の顔は真っ赤になっているんだろうな。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:291pt お気に入り:3,980

この世界じゃ本気出してないだけー異世界冒険録ー

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

June bride.

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

泣き虫殿下はクールを装いすぎている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:39

【奨励賞】呑めない酒呑童子は京都男子の‪✕‬‪✕‬がお好き

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:45

結婚六カ年計画

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:263pt お気に入り:6

知らない異世界を生き抜く方法

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:533pt お気に入り:51

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:193

処理中です...