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アンスリウムが咲く頃
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「いや、本当のこと」
桔平くんは、ほんの一瞬だけ間を置いてから答えた。
「……彼女以外の人と……ってこと?」
「そう」
「何人も?」
「そうだな」
胸がギュッと締め付けられる。
彼女がいるのに、浮気しまくってたってこと?優しい桔平くんが、本当にそんなことするの?何か理由があったんじゃないの?
「……なんで、そんなことしてたの?」
「バカだったってだけ。軽蔑した?」
桔平くんの声は、いつもとまったく変わらない。
「軽蔑、というか……びっくりしたっていうか……」
「過去をなかったことにはできねぇし、何言われても仕方ないかなって思ってる。でも……」
そこまで言って、桔平くんは押し黙った。私も言葉が出てこなくて、ただ沈黙だけが流れる。
「……やっぱいいわ。どんな言葉吐いても、自分を取り繕うだけだし」
取り繕ってよ。私のことが好きなら、ちゃんと言い訳して取り繕って。遊んでいたのは昔のことで、今は私だけだって言ってよ。
それをしてくれないのは、私のこと本気じゃないから?これで嫌われてもいいって思ってるから?
「ごめん……ちょっと、時間がほしい」
息が苦しくて、ようやくそれだけ言えた。
「分かった」
桔平くん、今どんな顔をしているの?
いつもと同じ、落ち着いた優しい声。だから余計に胸が苦しくなる。
私は自分の過去を掘り返されたくない。それはきっと、桔平くんも同じ。なのに、過去を責める気持ちが湧いてきてしまう。彼女が可哀想。どうしてそんなことをしたの。私のことも遊びなの?そんな言葉ばかりが浮かんでしまって。
訊くんじゃなかった。信じたいなら、訊くべきじゃなかった。だから私は、いつまで経っても変われないんだ。
無条件に他人を信じることなんてできない。裏切られて傷つくのは怖い。だから自分が傷つかないように、人を傷つけてしまう。
桔平くんは、私の過去には触れないでいてくれたのに。それでも好きだって言ってくれるのに。私はきっと、桔平くんを傷つけた。触れられたくない部分に踏み込んでしまった。
知らない過去を今に重ねて、自分を棚に上げながら、相手には完璧を求める。もう嫌。こんな自分、もう嫌だ。
電話を切った後、ベッドに潜り込む。自己嫌悪ばかりが襲ってきて、このまま消えてしまいたくなった。
桔平くんは、ほんの一瞬だけ間を置いてから答えた。
「……彼女以外の人と……ってこと?」
「そう」
「何人も?」
「そうだな」
胸がギュッと締め付けられる。
彼女がいるのに、浮気しまくってたってこと?優しい桔平くんが、本当にそんなことするの?何か理由があったんじゃないの?
「……なんで、そんなことしてたの?」
「バカだったってだけ。軽蔑した?」
桔平くんの声は、いつもとまったく変わらない。
「軽蔑、というか……びっくりしたっていうか……」
「過去をなかったことにはできねぇし、何言われても仕方ないかなって思ってる。でも……」
そこまで言って、桔平くんは押し黙った。私も言葉が出てこなくて、ただ沈黙だけが流れる。
「……やっぱいいわ。どんな言葉吐いても、自分を取り繕うだけだし」
取り繕ってよ。私のことが好きなら、ちゃんと言い訳して取り繕って。遊んでいたのは昔のことで、今は私だけだって言ってよ。
それをしてくれないのは、私のこと本気じゃないから?これで嫌われてもいいって思ってるから?
「ごめん……ちょっと、時間がほしい」
息が苦しくて、ようやくそれだけ言えた。
「分かった」
桔平くん、今どんな顔をしているの?
いつもと同じ、落ち着いた優しい声。だから余計に胸が苦しくなる。
私は自分の過去を掘り返されたくない。それはきっと、桔平くんも同じ。なのに、過去を責める気持ちが湧いてきてしまう。彼女が可哀想。どうしてそんなことをしたの。私のことも遊びなの?そんな言葉ばかりが浮かんでしまって。
訊くんじゃなかった。信じたいなら、訊くべきじゃなかった。だから私は、いつまで経っても変われないんだ。
無条件に他人を信じることなんてできない。裏切られて傷つくのは怖い。だから自分が傷つかないように、人を傷つけてしまう。
桔平くんは、私の過去には触れないでいてくれたのに。それでも好きだって言ってくれるのに。私はきっと、桔平くんを傷つけた。触れられたくない部分に踏み込んでしまった。
知らない過去を今に重ねて、自分を棚に上げながら、相手には完璧を求める。もう嫌。こんな自分、もう嫌だ。
電話を切った後、ベッドに潜り込む。自己嫌悪ばかりが襲ってきて、このまま消えてしまいたくなった。
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