ホウセンカ

えむら若奈

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アンスリウムが咲く頃

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「……桔平くんって、すごく優しいよね」
「そりゃ、好きな子には優しくしたいだろ」
 
 何度も聞いた好きって言葉。最初は半信半疑だったのに、今は100%信じられている。

 でも不安が完全に払拭されたわけじゃなくて。自分の気持ちを言葉にする勇気が、まだ持てない。思ってもいないことなら、いくらでも言えるのに。自分の本心は、いつも飲み込んでしまう。

「そろそろ帰るわ」
「あ、うん」

 桔平くんがバッグを持って玄関に向かう。
 帰ってほしくない。でも、引き留めてどうするの?気持ちをちゃんと伝えられないくせに。自分勝手で欲張りな気持ちばかり湧いてきてしまう。

「また電話するわ。デートのやり直ししよう」
「あ、あの……」
 
 私は、何を言おうとしているんだろう。言うな言うな。言っちゃダメ。引き留めちゃダメ。
 口をつぐんでしまった私を、桔平くんが見つめてくる。

 本当は、もっと素直になりたい。ワガママなことをたくさん言いたい。もっと傍にいて。ずっと私だけを見て。すべてにおいて、私を一番に考えて。
 桔平くんは、どこまで許してくれる?面倒くさくて重たい、私のワガママを。

「連絡、待ってるね……」
 
 絞りだしたのは、そんな言葉で。桔平くんは笑顔で頷いて、帰っていった。
 次のデートで、私はちゃんと自分の気持ちを伝えられるのかな。貸してくれた画集を眺めながら、いろいろ考える。

 そもそも私は、好かれているのが嬉しいだけじゃないの?
 桔平くんが好きって言ってくれなければ、こんな気持ちにならなかったかもしれない。追いかける恋愛は嫌だから。最初から好意を向けてくれる人しか、好きになれないんじゃないの?

 なんか、よく分からなくなってきた。

 一緒にいる時は無条件に楽しくて、もっと一緒にいたいって思うのに。ひとりになると、いろいろと分からなくなる。

 桔平くんが描いてくれたスヌーピーの絵に目を向けたら、別れたばかりなのにもう会いたくなった。私のこの気持ちは、ちゃんと“本物”?
 踏み出すきっかけが欲しい。背中を押してほしい。そうやって周りの“何か”に求めてしまう私は、やっぱりずるい。

 またウダウダと考えながら、桔平くんの連絡を待った。
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