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アンスリウムが咲く頃
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しおりを挟む「か……帰らないで……」
あぁ、言っちゃった。大丈夫って言うつもりだったのに。
桔平くんは優しく微笑んで、私の頭をポンポンと叩く。
「分かった、いるよ。なんか必要なもんあったら、買いに行くけど」
「大丈夫……」
答えながら、涙がこみ上げてくる。
ダメだ。完全に情緒不安定。桔平くんの優しさが、嬉しくて苦しくて。こんな風に優しくしてもらう資格なんてないのに。どこまでも桔平くんの気持ちを利用している、ひどい女なのに。
「ごめんね」
思わず、そんな言葉が零れた。
「そんなにカレー食いたかった?大丈夫だよ、カレーは逃げねぇし」
今日のことだけを謝ったんじゃないの。
きっとそれを分かっていて、桔平くんはわざと軽口を叩く。だから余計に涙が止まらなくなってしまう。
「ごめんなさい……」
桔平くんの手が私の頭から頬に移動して、涙を拭ってくれる。
なんでそんなに優しいの。なんで私みたいな女を好きって言ってくれるの。猜疑心が強くて、見栄っ張りで、嘘つきで。何ひとつ可愛いところなんてないのに。
「そんなに腹いてぇなら、さすってやろうか?」
「桔平くんが言うと、なんかエッチな感じがする……」
「だってエロいし。ちゃんと分かってる?そんな男と部屋で2人きりだってこと」
そんなことを言いながら、桔平くんはきっと何もしない。
頭を撫でてくれたり涙を拭いてくれたりするのは、私の具合が悪いから。自分の欲望のためじゃない。
「……桔平くんが本当に私のこと好きなら、何もしないでしょ?」
「なるほどね、そうくるか」
桔平くんが苦笑する。
本当はもっと触れてほしい。でも歯止めがきかなくなりそうで。ブレーキが壊れてしまうのが、怖いの。
「ちゃんと傍にいるから、少し眠りなよ」
「でもメイク落としてないし、服も着替えてない」
既に涙でグチャグチャだし、マスカラ落ちてそう。みっともない顔になっているんだろうな。
「動けそうなら、顔洗ってきたら?」
「すっぴん見られるのヤダ」
「付き合ったら、すっぴんどころか隅から隅まであらゆるところ見るけど」
「またそういうこと言う……」
「本当のことだろ。何なら、着替えも手伝ってやろうか?脱がせんのは得意だし」
「でも、着せるのは苦手なんでしょ」
「お、調子出てきた?」
桔平くんの軽口は、きっと私の心をほぐすため。少しずつ分かってきちゃったんだから。
体を起こそうとしたら、桔平くんが背中を支えてくれた。幸い目眩はしない。何とかひとりで動けそう。
覗かないでね、と釘を刺して、洗面所へ向かった。
あぁ、言っちゃった。大丈夫って言うつもりだったのに。
桔平くんは優しく微笑んで、私の頭をポンポンと叩く。
「分かった、いるよ。なんか必要なもんあったら、買いに行くけど」
「大丈夫……」
答えながら、涙がこみ上げてくる。
ダメだ。完全に情緒不安定。桔平くんの優しさが、嬉しくて苦しくて。こんな風に優しくしてもらう資格なんてないのに。どこまでも桔平くんの気持ちを利用している、ひどい女なのに。
「ごめんね」
思わず、そんな言葉が零れた。
「そんなにカレー食いたかった?大丈夫だよ、カレーは逃げねぇし」
今日のことだけを謝ったんじゃないの。
きっとそれを分かっていて、桔平くんはわざと軽口を叩く。だから余計に涙が止まらなくなってしまう。
「ごめんなさい……」
桔平くんの手が私の頭から頬に移動して、涙を拭ってくれる。
なんでそんなに優しいの。なんで私みたいな女を好きって言ってくれるの。猜疑心が強くて、見栄っ張りで、嘘つきで。何ひとつ可愛いところなんてないのに。
「そんなに腹いてぇなら、さすってやろうか?」
「桔平くんが言うと、なんかエッチな感じがする……」
「だってエロいし。ちゃんと分かってる?そんな男と部屋で2人きりだってこと」
そんなことを言いながら、桔平くんはきっと何もしない。
頭を撫でてくれたり涙を拭いてくれたりするのは、私の具合が悪いから。自分の欲望のためじゃない。
「……桔平くんが本当に私のこと好きなら、何もしないでしょ?」
「なるほどね、そうくるか」
桔平くんが苦笑する。
本当はもっと触れてほしい。でも歯止めがきかなくなりそうで。ブレーキが壊れてしまうのが、怖いの。
「ちゃんと傍にいるから、少し眠りなよ」
「でもメイク落としてないし、服も着替えてない」
既に涙でグチャグチャだし、マスカラ落ちてそう。みっともない顔になっているんだろうな。
「動けそうなら、顔洗ってきたら?」
「すっぴん見られるのヤダ」
「付き合ったら、すっぴんどころか隅から隅まであらゆるところ見るけど」
「またそういうこと言う……」
「本当のことだろ。何なら、着替えも手伝ってやろうか?脱がせんのは得意だし」
「でも、着せるのは苦手なんでしょ」
「お、調子出てきた?」
桔平くんの軽口は、きっと私の心をほぐすため。少しずつ分かってきちゃったんだから。
体を起こそうとしたら、桔平くんが背中を支えてくれた。幸い目眩はしない。何とかひとりで動けそう。
覗かないでね、と釘を刺して、洗面所へ向かった。
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