ホウセンカ

えむら若奈

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小さなイベリス

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「桔平くんは、私のことよく知らないのに好きなの?」
「好きだよ」

 間髪入れず、視線を私に戻してはっきりと言い放つ。嬉しいはずなのに、真っ直ぐすぎる言葉が胸に突き刺さった。
 
「この前よりも今日の方が、すげぇ好き。愛茉のことをもっと知りたい。もっと一緒にいたい。それが何でかなんて、オレにも分かんねぇよ」

 言いながら、桔平くんは左手を伸ばしてくる。それが私の頬に触れる寸前で止まった。
 視線が交わる。そのグレーの瞳は、いつ見ても吸い込まれそう。でも綺麗なものは、きっと脆い。

 桔平くんは拳をギュッと握って、腕を下ろした。触れてくれないのは、自分の言葉に責任を持っているから?
 もの言いたげな瞳に、胸が苦しくなる。どうして私は、素直にこの手を取れないんだろう。

「……とりあえず、次のデートがラストな。平日で、午後空いてる日とかある?」
「えっと、水曜日かな。午後は授業がないから」
「じゃあ今度の水曜は空けといて。昼飯、食いに行こう」
「うん」
「場所とかは後で連絡する」
「うん……。あの、今日すごく楽しかったよ。ありがとう」
「それはオレのセリフだよ。愛茉のおかげで、すげぇ楽しかった」

 あ、どうしよう。泣きそう。
 
「ほら、早くマンション入りなよ。オレの自制心が働いてる間にさ」

 桔平くんが、冗談ぽく笑う。
 私は頷いて、逃げるようにマンションへ入った。オートロックを抜けて振り返ると、桔平くんは今日も手を振ってくれる。それに応えて、エレベーターに乗った。

 ひとりきりの真っ暗な部屋に入ると、こらえていた涙が溢れる。
 私は間違ったことをしているのかな。何も考えず、桔平くんの胸に飛び込むのが正解なのかな。でも、桔平くんに本当の自分を見せられる?

 私はまだ何も変われていない。こんな嫌な性格をしている私じゃ、誰からも愛してもらえないのに。“理想の自分”が本当の自分になってから、桔平くんと出会いたかった。

 嫌われたくない。その気持ちばかりが日に日に大きくなって、押しつぶされそう。

 やっぱり合コンに行ったのは間違いだったのかな。違う自分になりたくて参加したのはいいけれど、まさかこんな展開になるとは思わなくて。
 桔平くんへの想いと不安な気持ちがぐちゃぐちゃになって、しばらく涙が止まらなかった。
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