ホウセンカ

えむら若奈

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小さなイベリス

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 駅から動物園までは5分くらい。桔平くんは、毎日この辺を歩いているのかな。美術館や博物館があって、恩賜公園があるから緑もたくさん。感性が刺激されそうな町だと思った。

「やっぱり人が多いよな、今日は。電話でも言ったけど、パンダ観るまですげぇ並ぶと思うよ」
「大丈夫だよ。1人なら退屈だけど、桔平くんがいるし」
「それはオレのことが好きって意味?」
「な、なんでそうなるの」
「一緒にいて退屈しねぇなら、好きってことだろ」
「まだ分かんないもん」
「“まだ”ね……。別に3回目のデート待たなくても、好きって思ったらいつでも素早く言ってくれていいんで」

 ずいぶんと余裕の表情。桔平くんは、自信があるのかな。私が桔平くんに好意を抱いていることぐらいは、当然分かっているんだろうけれど。
 好きか嫌いかの2択なら、もちろん好き。じゃなきゃデートなんてしないもん。でも踏み出す決め手がない。

 付き合うって、どんな感じなんだろう。本当はずっと憧れていたけれど、選択肢としていざ目の前に並べられたら、手を伸ばすのが怖くなる。掴んだ途端に消えてしまいそうで。
 私には、こんなふうに桔平くんの袖を軽く掴むぐらいがちょうどいいのかもしれない。

 園内に入ると、既にパンダ舎の観覧列はかなり伸びていた。
 私は初めてパンダが観られることにワクワクしていたけれど、桔平くんからしたら退屈だっただろうな。それでも嫌な顔ひとつせず、私を気遣ってくれたり途中で飲み物を買ってきたりして。桔平くんの優しさが、すごく嬉しかった。

 そして1時間以上列に並んで、ようやくパンダとご対面。初めて間近で見るパンダは本当に可愛くて、釘付けになってしまった。人の視線なんかまったく気にせずのんびり過ごしていて、すっごくモフモフで。何時間でも見ていられるくらい。
 でも、観覧時間はたったの1分。あっという間に終わっちゃった。
 
「あいつら、ただダラダラしてりゃ周りからチヤホヤされるんだよな。人間なんて怠惰は罪とか言われるってのに」

 パンダとの対面を終えたあと、桔平くんが無表情で言った。まぁ、桔平くんがパンダにメロメロになるとは一切思っていなかったから、こういう反応はある程度予想していたけれど。ただ私のために付き合ってくれたんだもんね。

「なんか、夢中で食べてたね」
「あいつらがひたすら食べてる姿って、生存競争に敗北した成れの果てじゃん」
「生存競争?」
「ジャイアントパンダって、もともとは雑食なんだよ。だから食い物確保するにもライバルが多かったわけ。それで敵がいない山岳地帯の奥地に住むようになって、そこにある竹とか笹を無理して食いながら生き延びる道を選んだんだよ」

 桔平くんって、何気に博識なんだけど……。
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