ホウセンカ

えむら若奈

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小さなイベリス

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「……あ、パンダって中国か」

 ワンテンポ遅れて、桔平くんが言った。なんか今日は、ゆるい雰囲気だな。……というより、ちょっとボーっとしているように見えるんだけど。もしかして、朝だから?

「……まだ目が覚めてない?」
「うん」

 気のない返事をして、桔平くんは目をパチパチさせる。朝起きれないって言ってたもんね。ていうか、可愛すぎるんだけど。
 日曜日なのに早起きさせて悪いことをしたと思いつつ、私のために頑張ってくれたのかなぁなんて。

 そんなこと考えていたら、桔平くんが無言で私を凝視してきた。

「な、なに?」
「言ったじゃん。可愛いものは、じっと見たくなるって。いつも以上に可愛くしてるのは、オレのため?」

 油断していたら、少し意地悪な顔をしてこういうことを言ってくる。目が覚めてないって、嘘じゃないの?

「や、休みの日のお出かけは、いつもこんな感じだし」
「ふーん?いかにも“デート用”って感じのワンピースだなって思ったんだけど。しかし、お触りなしとか言うんじゃなかったな。修行みてぇだわ」
 
 桔平くんは、小さくため息をついた。私だって本当は手ぐらい繋ぎたいけど、付き合ってもいないのに簡単に触らせるわけにはいかない。そんなに安い女じゃないもん。

 でも電車に乗って座席に座ったら、思ったより距離が近くて。意外と空いていたから並んで端の席に座れたけど、体の右側が桔平くんに少し触れる。そしてまた、甘いバニラの香りが鼻腔をくすぐった。

「さっき煙草吸ってた?甘い香りがする」
「ああ。待ってる間、1本だけね」
「私、煙草嫌いなんだけど、その香りは好きかも」
「オレも煙草は嫌いだよ。だから吸ってんの」

 真逆のことを当たり前のように言うから、一瞬理解が追いつかなかった。

「嫌いなのに吸うの?」
「オレさ、普段好きなことばっかやってんだよ。絵描いてピアノ弾いて夜中にフラフラして。でも好きなことって麻薬じゃん?そればっかやってたら脳が麻痺しそうだから、たまには嫌なことしねぇとな~って」
「それで煙草吸うの?」
「うん。脳が覚醒するかなって」

 煙草を吸う理由も独特。“かっこいいと思ったから”っていう理由で煙草を始める人も多いって聞いたことあるけれど。
 桔平くんのこういうところ、やっぱりいいな。私と違って周りの目なんて何も気にしていなくて、すごく自由な感じが。
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