ホウセンカ

えむら若奈

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小さなイベリス

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「まぁとりあえず、あと2回はデートできるんでしょ?そこでたくさん、お互いのこと知ればいいじゃん。次はいつ会うの?」
「分かんない。桔平くん、学校の課題があってあんまり時間取れないみたいだから」
「昨日別れてから、LINEしてないの?」
「してないよ。あっちからも来ないし。きっと描くことに集中してるだろうから、邪魔したくないもん」

 ……っていうのは、建前。本当はこっちから連絡したい。
 でも私のことが好きなら、もっとつなぎとめる努力をしてほしいって思ってしまう。だから試したくなる。私から連絡はせずに。私のことちゃんと想ってくれているのかを、試したくなるの。

 ただ桔平くんは私と違って、やりたいことが明確にある人。きっと、私だけに執着することはないんだろうな。

「でもさぁ、理由訊かれて“細胞”って答えるの、やばいね」

 うっとりした顔で七海が言った。

「だって、もっともらしい理由ならいくらでも言えるじゃん。話が合うからーとかさ。それを細胞がそう感じたって言うあたり、浅尾さんやばすぎ。落ちるわ」
「え、落ちるの?それで?」
「落ちるよ!だって浅尾さんよ?そこらへんの男なら“ハァ?”ってなるけど、あんないい男にそんなこと言われたら運命感じるじゃん。理屈を超えて好きってことでしょ?」

 運命……。運命って、どういうことなんだろう。出会って間もないのにこんなに惹かれるのは、運命の人だから?
 でもそんな不確かなものは、全然信じられない。

「初デートが松濤美術館っていうのも素敵だし、浅尾さんハイスペすぎじゃん。さすが藝大生よね。羨ましいなぁ」

 桔平くんが藝大生だとかお金持ちだとか、そういうことは正直どうでもいい。肩書なんて、何の意味もないものだもん。私はただ、愛してほしい人に愛してもらいたいだけ。

 桔平くんみたいな人に好きだって言われたら、普通は誰だって有頂天になるんだろうな。もちろん私だってすごく嬉しいし、夢みたい。
 でも浮かれた気持ちになれないのは、まだお互いのことを知らなさすぎるから。

 だったら、たくさん会って理解を深めていけばいいんだろうけど。それをするのが怖い。何もかも見透かしたような桔平くんの綺麗な瞳が、すごく怖いの。

「どっちにしても、今は“待ち”だから。私も、勉強に集中しなきゃ」
「愛茉は真面目だねぇ。でも行きたいところとかは考えておいたら?」
「分かんないもん、東京のデートスポットとか」
「まぁ、浅尾さんにお任せってのもありか。センス良さそうだし。てか、2回目のデートではキスぐらいしちゃいなよ」

 キスぐらいって。キスって、そんなに簡単なものなの?唇が触れるんだよ?手を繋ぐのとは、わけが違うでしょう。
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