ホウセンカ

えむら若奈

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アガパンサスの押し花

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「泊まらないし、そもそも行かないから」

 私の言葉に浅尾さんはまた笑って、ミックスジュースを一口飲んだ。
 
「なんか楽しいな。自分のことをペラペラ喋るの、ホントはあんま好きじゃねぇんだけど」
 
 そう言って、窓の外に目を向ける。やっぱり見とれてしまうほど、横顔が綺麗。

 私もつられて、窓の外を見た。今日は天気が良くて爽やかな気候だから、街にはたくさんの人が行き交っている。

「良い天気だな」
「うん」
「思ったんだけど」
「うん?」
「オレ、愛茉ちゃんのこと好きだわ」

 浅尾さんは、真っすぐ私を見て言った。あまりに突然で、一瞬思考が停止する。
 
「す、好き?好きって……え?私を?」
「うん。どうも、すげぇ好きみたい」

 ちょっと待って。私、自分の話はほとんどしてないよね。どこに私を好きになる要素があったの?
 それとも、本当に一目惚れってこと?
 
「な、なんで?理由は?まだ知り合ったばっかりなのに……」
「理由?理由か……細胞が、そう感じたから?」

 え、細胞?どういうこと?独特すぎて、まったく分からないんですけど。
 待って。ちょっと頭が混乱している。動悸が激しい。

 まさかこんなにすぐ好きって言われるなんて、まったく思っていなくて。心の準備が、何もできていない。

「さ、細胞って……?」 
「飯にだって好みがあるだろ。説明できる?なんでそれをウマいと感じるのか。結局は、遺伝子がそうなってるからじゃん。だから、好きなもんは好きってことだよ」

 浅尾さんの表情には一点の曇りもなくて、さっきみたいに冗談で言っているわけじゃないってことは明らかだった。
 どうしよう。なんて言葉を返せばいいのか、分からない。

「あ、別に今すぐに返事が欲しいとかじゃねぇから」

 私の動揺を察したのか、浅尾さんが言った。
 
「オレはどうしても、インスピレーションに頼っちゃうところがあってさ。困らせてごめんね」

 違う、困っているんじゃないの。すごく嬉しいの。

 でも突然すぎて、しかも理由がよく分からないから、すんなり受け入れられなくて。もしかしたら、一時の気の迷いみたいなものなんじゃないかって疑ってしまう。

「こ、困るって言うか……いきなりだから」
「あれ、案外慣れてねぇの?可愛いから、さぞかしチヤホヤされてきてんだろうって思ってたけど」

 そういう浅尾さんは、好きって言うことに慣れてる?あまりに自然なんだもん。いろんな女の子に、こんなこと言ってるんじゃないのかな。

 ああ、ほらまた。すぐに嫌なことばかり考えてしまう。
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