ホウセンカ

えむら若奈

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アガパンサスの押し花

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「な、なに?」
「可愛いものは、じっと見たくなるんだよね」

 そ、そうだった。私は口説かれてるんだよね。これぐらいで動揺したらダメ。つけ入る隙がありすぎるって思われないようにしなきゃ。

 可愛いなんて、言われ慣れてるでしょ。冷静にならなきゃ。赤くなるな。そうよ、私が可愛いのなんて当たり前なんだから。
 
「……浅尾さん、何も食べてないなら、軽食を頼んだ方が良かったんじゃないの?」

 なんとか平静を装って、話題を変えた。

「急いできたからさ。いきなり固形物を口にすると、吐きそうじゃん」
 
 そんなに急ぐほど、私に会いたかったってことよね。やっぱり私が追いかけられる側よね。

 でも浅尾さんは、私のどこを気に入ってくれているのかな。この前だって、そんなに長時間一緒にいたわけじゃないし。

 やっぱり私の顔が好みとしか考えられないんだけど。芸術家だし、きっと綺麗なものが好きなんだろうから。
 
「浅尾さんって、ひとり暮らしなの?」
「うん」
「朝ご飯は、ちゃんと食べたほうがいいよ」
「朝起きるの苦手でさ。気がついたら時間なくなってんだよね。そんで学校行って絵描いてたら昼飯も食い損ねて、結局夜だけみたいな。たまに夜も食べ忘れるけど」

 食べ忘れるって……。やっぱり、典型的なアーティスト気質なのかな。どんな時でもお腹が空いてしまう私には、よく分からない感覚かも。
 
「朝起きれないってことは、低血圧?」
「そうかもな。でもまぁ単純に、不規則で寝るのが遅いんだよ」
「自炊しないの?」
「しないね、まったく。そもそも調理器具が家にねぇもん。電気ケトルぐらいはあるけど」
「じゃあ、毎日外食?コンビニ弁当とか?」
「コンビニ弁当は食わねぇなぁ……」

 言いながら、浅尾さんはまた私をじっと見てニヤニヤしている。
 
「こ、今度はなに?」
「いや、なんかいろいろ訊いてくるからさ。オレに興味持ってくれたのかなって」

 あ、しまった。浅尾さんのこと知りたいって気持ちが、前面に出ちゃった。でも浅尾さんは、すごく嬉しそうな顔をしている。

「もっといろいろ質問してよ。愛茉ちゃんが知りたいことなら、何でも答えるからさ」

 浅尾さんって一見ミステリアスで、質問してもはぐらかされそうな感じだったんだけど。案外そうでもないのかな。

 向こうからそう言ってくれるなら、とことん訊かなきゃ逆に失礼よね。
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