ホウセンカ

えむら若奈

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窓際のハーデンベルギア

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「明確な理由がないと、不安?」

 どこか妖しくて透き通った浅尾さんの瞳に、心臓が大きく跳ねた。
 まるですべてを見透かしているような瞳。自分が丸裸にされる感覚。この人の瞳は、なんだか危険な気がする。
 
「ううん、そういうわけじゃないけど。合コンが初めてだから、こういうのよく分からなかっただけ」

 思わず目を逸らしてそう返したけれど、本当は浅尾さんの言う通りだった。

 本質を突かれると、嘘をつきたくなる。そうじゃないって、否定したくなる。だってこんな感情、誰にも知られたくない。知られたら、誰も私のことなんて愛してくれないでしょ。

「愛茉ちゃんこそ、なんで抜け出してきたわけ?途中で帰るの、もったいないんだろ?」
「な、何となく……」

 浅尾さんのことが気になったから。そう言って、少し惑わせる方が良かったのかな。

「ほら、そんなもんだよ。深く考える必要ねぇだろ」

 だって、人の心なんて分からないじゃない。不安に思うのは当たり前でしょ。だから納得いく理由が欲しかった。
 私じゃなくても誘ったの?それとも、私だから誘ったの?だとしたら、なんで私なの?本当は教えてほしい。私じゃなきゃダメな理由を聞かないと、安心なんてできない。

 でも面倒くさい性格と思われるのも嫌。気になるけど、気にしないフリをしなきゃ。

「……あの。私は別に、誰にでもついて行くってわけじゃないから……」
「へぇ、そりゃ光栄だね」

 浅尾さんの表情には余裕がある。この人はきっと、いつも追いかけられる側の人間なんだろうな。

 過去のことは話したくなさそうだったけど、今までどんな恋愛をしてきたんだろう。それを知りたいと思うのは、やっぱり面倒くさい?
 でも、そう思ってしまうくらい、浅尾さんのことが気になりはじめていた。

 大型連休の真っ只中。夜の街には、多くの人が行き交っている。

 まだ東京の歩き方に慣れていなくて、ときどき人とぶつかりそうになる私を、浅尾さんがそれとなく誘導してくれた。過度なボディタッチはせずに、軽く腕を掴んだりして。歩くスピードも、さっきよりゆっくりな気がする。
 横に並んでいるだけでもドキドキするのに、これはちょっとずるい。

 歩きながら、浅尾さんがこのあたりのおすすめの飲食店をいくつか教えてくれる。そして私が興味を示すと「また今度行こう」って言う。
 次を期待させるのも、作戦のうち?今日だけで終わらないって、思っていいのかな。
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