パラレル・クエスト

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序章

ビギナー〜育成クエスト 前編〜

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 目が覚めると、僕は自宅の自分の部屋の中にいた。

 自分がさっきまでパラレルクエストをやっていたことを思い出す。


「あれどうなったんだっけ。」慌てて自分のスマホを見る。


「クエスト、自宅から脱走せよ、をクリアしました。経験値を取得しました。Lvが2、スキルレベルが2になりました。派生ユニークスキル、言寄せの術を使用可能になりました。」「取得コマンド、自動戦闘、速度上昇、抜き足。」なるほど、なんとかクリアしたらしい。

 ふとHPバーを見てみるとダメージを受けた分が戻っている。


「え、なんでHP回復してんの?」するとスマホからアナウンス、「無生物に吹き込んだ生命はパラレルワールド脱出及びゲーム中におけるスキルアイコンの操作によって解除することが可能です。また敵からのダメージの一定以上の蓄積により、強制的に解除されます。強制的に解除される前に生命の解除を行うと、生命が受けたダメージが帳消しになるまで回復します。」なるほど、解除するタイミング難しいな。

 てか、このゲームアプリにS○riみたいな機能あったことに驚き。

 そうこうしていると、またアプリがしゃべりだした。


「ミナト様、チュートリアルクリアおめでとうございます。あなたは晴れてビギナーズランクとなりました。これよりゲームの基本機能の使用、イベントへの参加、マルチプレイの参加が可能となります。まずはゲーム内でのプレイヤー名を決定してください。このプレイヤー名はマルチプレイ時に他プレイヤーに表示されます。初期設定はミナトとなっています。プレイヤーの本名すべてをプレイヤー名として使用することはできません。またマルチプレイ時に現実世界で自分を特定できるような行動はできません。」うん正直めっちゃめんどい。

 名前変えるのも面倒だな。


「初期設定のままでいいよ。」「かしこまりました。プレイヤー名の登録が完了しました。現在イベント及びマルチプレイはまだ公開されておりません。クエストをお楽しみいただけます。現在のプレイ可能なクエストはメインクエストそして育成クエストです。」クエストクリアしたばっかりなのにもう新しいクエストできるんだ。

 新しいクエストも楽しみたいけど、僕は石橋を叩くタイプ。

 着実に強くなってからメインクエストに挑もうかな。

 育成クエストめっちゃ気になるし。


「育成クエストをプレイします。」「かしこまりました。それでは育成クエスト[言寄せの術]を開始します。」あー、そういえばレベルアップしたときにそのスキル習得してたな。

 これやると多少は使いこなせるようになるはず。

 多分.....。


「この育成クエストは3部構成です。まずスキルのガイダンス、次にプリセットスキルの習得、最後に実践バトルとなっています。」うーん最後だけ穏やかじゃないなぁ。

 とりあえずガイダンス聞こう。


「ガイダンスお願いします。」「[青龍の宝珠]の派生スキルである[言寄せの術]は[青龍の宝珠]のポテンシャルを存分に引き出すものです。このスキルによって一度、生命を吹き込んだことのあるものをいかなる場所でも再び召喚でき、コマンドを生命とともに吹き込むことができます。また召喚するものの材質を変えることのできる場合も存在します。」「うんうん、でも1回は生命を吹き込んでコマンド入れないと使えるようにならないの結構大変だなぁ。」「そこで我々は、プリセットとして動物の持つ様々な特性をコマンドとして動物の体の一部に入力することで、戦闘において活躍することができるスキルを多数、ご用意しました。プレイヤー様は生命の吹き込み、及びコマンドの入力を行う手間なく、スキルを習得、そして[言寄せの術]によっていつでも使用することができます。」「めっちゃいいね。でも何かしなくちゃいけないでしょう?」「はい、それではクエストの2番目に移らせていただきます。プレイヤー様にはプリセットの取得のため、国立地球博物館に入館していただき、そこからパラレルワールドに接続、実際の動物の展示を見ながら、スキルを習得してもらいます。」......現実世界とリンクしているってこういうとこは楽しいのかもしれない。


 さすがに今日中には無理で、明日は土曜日と言うこともあるので、今日は家で過ごすことにして、明日、国立地球博物館に行くことにした。



 土曜日、外はカンカンに晴れていた。

 親は僕が博物館に行くことを快く承諾してくれた。

 勉強熱心だねと褒めてさえもくれた。

 ゲームのために行くのに。

 ちょっと気まずさを抱えながらも電車に揺られて30分。

 目的の駅に着いた。

 駅を降りた先に外国のお城のような建物が。


「めっちゃでかいなぁ。」これが今日の目的地、国立地球博物館である。

 さっそく受付で入場券をもらう。

 高校生以下は入館料がタダだった。

 学生の味方すぎる。

 国内最大級の博物館の名は伊達ではなく、かなり広い。

 何とか動物の展示場を見つけた。

 ここからどうしたればいいんだろうとスマホを見ると「ただ今よりパラレルワールドに転送いたしますので、男子トイレに向かってください。」転送する場所はトイレなんだ。

 ショックとか思いながらも男子トイレに入る。


「それでは転送します。」トイレの白い壁がだんだん青みがかっていく。

 外から聞こえる人の声がだんだん聞こえなくなっていく。

 どうやらパラレルワールドに入ったようだ。


「それでは動物の分類ごとに習得するスキルを説明いたしますので、まずは哺乳類のブースからお願いします。」進化の頂点、哺乳類。

 人はもちろん。

 ライオン、クマ、チーター、いろんな動物がいる。

 アプリが話しだす。


「ここで得られるスキルは、キックスタンプ、ダガーネイル、チーティングの3つのスキルです。キックスタンプはカンガルーの足をモチーフに作られたスキルです。足装備に付与することができ、高くジャンプしたり、敵を蹴ることでダメージを与えることができます。次はダガーネイル。くまの爪をモチーフに作られたスキルです。爪を召喚し敵を切り裂いて攻撃します。最後はチーティングです。これもキックスタンプ同様、足装備に付与することができるスキルです。チーターの素早さをモチーフとして作られました。先日プレイヤーが使用したスキル、速度上昇の上位互換で新幹線、顔負けのスピードで走ることができます。」「結構強そうだな。次はどこに行けばいい?」


「次は鳥類のブースにお願いします。」鳥類のブースは、ハトやカラスといった身近な鳥からダチョウのようなでかい鳥が展示されている。


「ここで習得できるスキルは、エアリアルウィング。鳥類全般をモチーフにして作られたスキルです。背中に羽を付与し、空を飛ぶことができます。ホバリングもできます。」空中戦とかあったりするのかとドキドキしてしまった。


「続いて、爬虫類のブースです。」爬虫類のブースにはみんな大好きティラノサウルスやプテラノドンといった恐竜からトカゲのような小動物まで並んでいる。


「ここで取得できるスキルはギガントバイトとスネークホールドです。ギガントバイトは、動物中で最も噛む力の強いワニをモチーフに作られたスキルです。戦闘中に一対の尖った歯を召喚し敵を挟んでダメージを与えます。行動を一ターン制限する効果もあります。次にスネークホールドは、蛇が獲物に巻きつく様子をイメージして作られたスキルです。相手に二ターン小ダメージを与えつつ、行動を制限します。」爬虫類の行動制限効果はなかなか強いんじゃなかろうか。


「次は魚類、両生類コーナーです。獲得できるスキルはボーンエレクトロ、ポイズンイベイド、イッカクソードです。」ここら辺から展示物に言及する気力がなくなってきた。


「ボーンエレクトロは、電気ナマズをモチーフにしたスキルです。電気ナマズの発電器官を召喚し、相手に雷属性のダメージを与えます。敵に確率で麻痺を与え、敵が水生のキャラであれば大ダメージが入ります。ポイズンイベイドはフキヤガエルという猛毒を持ったカエルをモチーフにしたスキルです。相手に向かって猛毒の液体を発射します。毒は3ターンの継続ダメージとなります。イッカクソードは鋭いレイピアと呼ばれる剣を召喚し、回転させながら猛スピードで発射します。相手の深いところにダメージを与えやすく。クリティカルが出しやすいです。」アプリ側もとうとうモチーフとなる動物の説明をやめてしまった....。


「魚類、両生類のスキルの特徴は命中率が非常に高いことが挙げられます。その代わりダメージはやや劣ります。」使いどころが難しそう。

 てかスキルの名前、多すぎでしょ....。


「プレイヤーもお疲れでしょう。そこで三番目の実践バトルをここで前倒しにして、その勝利報酬で残りのスキルをお渡ししましょうか。」「えっ。もう戦うの?」「はい。」えっと.........やばいかも。


「プリセットスキル。キックスタンプ、ダガーネイル、チーティング(哺乳類)エアリアルウィング(鳥類)ギガントバイト、スネークホールド(爬虫類)ボーンエレクトロ、ポイズンイベイド、イッカクソード(魚類、両生類)」「爬虫類スキルは物理行動を制限する」

この時の僕はまだ気づけなかったんだ。スキルの中にありえない名前のスキルがあること。ゲームシステムが急にバトルを勧めてきたことがおかしいってことに。
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