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6.ボーリングしましょう

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「で、その条件がこれですか」
「『全て御厨が企画進行すること』仕事の練習にもなってちょうどいいだろ」
「お客様が小鳥遊さんだけってのは練習になるんですか?」
「俺を楽しませられないのにクライアントを満足させられるのかよ」

そういう意味なら御厨は小鳥遊を楽しませている気がする。小鳥遊は昨夜の企画動画も楽しんでいたようでここへ来るまでのあいだ熱を込めて語ってくれたものだ。みるくみくの中の人としてはファンに喜んでもらえて嬉しい限りである。


「で、今日はここで何をするんだ?」

小鳥遊を連れてきたのは会社から程近いアミューズメントパークだ。ゲームセンター、カラオケ、ローラースケートにカラオケまでできる施設で時間帯もあってか仕事終わりの会社員や大学生たちで混雑していた。

ゲームセンターでは四方から暴力みたいな電子機器の音が飛んできて、店内のBGMで会話すらままならない。

自然と話すときは顔を近づけねばならず、小鳥遊にあまり興味のない御厨も胸がたかなった。

「では今日は定番ですがボーリングなど行ってみましょう」
「ボーリング?また平凡だな」
「あなどってはいけません。ご案内したコチラですがただボールを転がしてピンの数を競うだけではないのですよ……」

御厨は恭しく派手に装飾した箱を差し出した。昨晩ちまちまと段ボール箱にピンクのキラキラした包装紙を買ってきた貼り付けた御厨お手製の箱だ。このあと動画でつかってやると心に決めた。箱は上の部分が丸くくり貫かれ中が見えないように布が貼られている。振るとカサカサと音がした。

「1枚引いてください」
「あぁ……5?」
「はい、では小鳥遊さんはピンを5本倒してください」
「はぁ!?2投で!?」
「そうですよ?」

小鳥遊の実力がプロ並というのは調査済み。ただのボーリングで満足してもらえないのはわかっていた。そこで用意したのが今回の企画だった。

「ストライク狙うのはかんたんですよね。なら限られた本数狙うって逆に難しいと思うんですよ」
「ま、まぁ……」
「引いたカードと実際に倒したピンの本数との差が小さいほうが勝ちです。では『チキチキ!引いた点数に近づけろ!点数狙い撃ちボーリング』スタートです!」

フロントで借りてきたタンバリンを鳴らし小鳥遊にレーンを譲った。ボーリング自体やったことがあるのだろう、小鳥遊はお手本のように力強くボールを投げるとパアンと気持ちのいい音を立ててストライクが決まった。

「あっ!!」
「はい残念。マイナス5点です。次もストライクだったらマイナス15です」
「嘘だろ……」
「万能の才が仇になりましたね」
「くそ!そういうお前はどうなんだよ」
「みていてくださいよ……えーと、3ですね」

箱からカードを引いて小鳥遊に見せた。綺麗なストライクをもう一度決めた小鳥遊は鼻息をあらくしてベンチに座る。
やれるものならやってみろ、そう態度で言う小鳥遊に背を向けて御厨の一球。
ボールはころころと大きな曲線を描き端のカンと勢いよく後方の3本を弾き飛ばした。

「これで次ガーターなら私はプラマイゼロです」
「はぁ?!うそだろ……」
「舐めないでくださいよ」

みるくみくとして耐久ボーリングで鍛えた実力は伊達ではない。田舎のボーリング場に有休と盆休みを全てつぎ込み一週間籠ったあの夏。マイグローブを嵌めた御厨は不敵に笑った。



「おまえボーリング上手いんだな」
「えぇ、まぁ」

総合的な点数では小鳥遊の圧勝だった。仕事ができるだけでなくスポーツ万能、小鳥遊が投げるたびピンを弾く気持ちのいい音が響き渡りフロアの女性たちの視線を奪っているのはよくわかる。シャツの首もとを緩め、袖を捲り上げながら鮮やかなフォームで投げる姿はプロのように洗練されていた。
しかし、ストライクを何本決めても小鳥遊の表情は憂いて時に絶望したように項垂れていた。その不可解な光景を不審がって誰も小鳥遊とお近づきになりたがる女性はいなかった。

「くっそ、結果だけなら俺が勝ってるのに」
「残念ですがこれは狙い撃ちボーリングですから私の勝ちです」

御厨が手書きで作った点数票をみせつけ、にんまりと笑った。小鳥遊185、御厨52。御厨の勝利だ。

「人生で初めてくらいおまえみたいなヤツに負けた」
「さぁ悔しがるがいいです」

怒られるだろうかと構えたからかい文句に小鳥遊は面をくらったのか一瞬きょとんろして吹き出した。

「あはは!そうだな、これ以上ないくらい悔しい。まさか俺が負けるなんて」
「上司に勝ちは譲ったほうが良かったですかね?」
「これは接待じゃないからそんなこと気にしなくていい。おまえみたいなちんちくりんに負けたのに悪い気はしないんだ」
「へぇ」

みるくみくならマゾなの?とでも聞いただろう。しかし御厨は上司に対して無礼な態度はとらない。だけど御厨はそんなこと言えなかった。小鳥遊は負けたというのにはにかんだように笑っていて、その顔に思わず見惚れてしまったのだ。

「明日はどうするんだ?」
「え、明日?!」
「……行かないの?」

アミューズメントパークを出て帰り道を並んで歩くかたわら、小鳥遊が聞いた。御厨自身、明日は行きたがらないだろうと思っていた。もちろん、小鳥遊のためにいくつかネタを用意したに違いないが毎日部下と遊びに行きたくはないだろう。

「えーと……」
「俺は楽しみにしてたんだけどな、おまえの企画……」

しょぼんと肩を落とす小鳥遊がなんだか寂しそうに見えた。小鳥遊のことなんてパワハラ上司で、みるくみく以外に趣味を見つけて欲しいだけなのに、なんだ気になって、放っておけなくて……。

「い、行きましょう!明日はスイーツバイキングです!」
「いいな!スイーツか!」

当たりか。
パァっと顔を綻ばせて小鳥遊は足取り軽く帰って行った。小鳥遊がどこに住んでいるか御厨は知らない。きっと駅前のタワマンとかに住んでいるのだ。まさかスキップでそこまで帰るつもりではないだろうな。
そういうわけで、御厨は小鳥遊の予定が許す限り仕事帰りに遊びに行くこととなったのだ。


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