純情なる恋愛を興ずるには

有乃仙

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番外編

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「サッカー部に言ったよ」
 翌日の月曜日の放課後。温室に興と来た純は皆に報告した。といっても、興には伝えたその昼休みのうちに言っている。
「喜んでただろ」
「ああ」
 優勝するためとしても欲していたのだ。求めていた人材が、それも、断っておきながら自らきてくれれば喜びも大きいだろう。
「いつから出るんだ?」
「明日」
 本当は数日後にしようと思ったのだが、明日から頼むと強く要求され、顧問と園芸部部長も許可したことから承諾することになったのだ。
「じゃあ、今日たっぷりしないといけないわけだ」
「何が?」
 言ってることが分からず、純は佐々木を見た。
「セックス」
 さらりとしたものだった。
「セッ……」
 初めて聞く言葉ではないが、臆面もない久々な発言に、純は言葉に詰まってしまった。
「なに固まってんだよ。経験がないわけじゃあるまいし」
 つまり、行為へは及び済みであると思っているということだ。
「いや、それは…………」
 実際はまだである。全然というほど進んでいない。進んでいるのは夢の中だけだ。
「もしかして、ヤってないのか?」
 困じることで返した純に兼田が憶測した。ただ、信じられないという感じなのは大袈裟だろう。
「ヤった恥ずかしさだとは思わないのか?」
 さらに興が入ってきた。冷静を崩さないだけあり、いっさいの感応もなく発言する。
「ヤってたらそれでも肯定してるだろ」
 あっけない返答だった。しかも、言い切られてしまったことには恥ずかしさが込み上がってくる。自分は、そういうところがあるのだろうか。
 しかもである。興も島山も誰も、それに否定する者がいないどころか沈黙が降りるではないか。
「――まあ、それもあるな」
「え……」
 数秒後、興が開口するが、少なからず兼田の意見に賛同するものであることに、純もその面が確実に存在することを知ることになってしまった。
「でも、ヤるとなると、なんか、橋川って化けそうだよな」
「え?」
 新しく振られた事柄に、純は佐々木を見た。
「そうか?」
 面白くなさそうに聞いていた島山も想像しにくかったようだ。
「目、ギラつかせて食いつきそうだな。もう、獣な感じだ」
 が、兼田の方はしっかり想像できたようだった。最後には理性がない発言をされてしまう。
「そんなわけないだろ」
 純は否定した。
 興の気持ちを考え、気持ちに合わせてゆっくりと進んでいる。反応したモノも興には関わらせず、ちゃんと自制している。
 が、だ。
「興の気持ちを考えて……」
「やべ……」
 感情を押しつけていないことを言おうとした純だったが、興がそんなことを呟いたのだ。咄嗟に興を振り向く。
「想像できちまった」
「え!?」
 まさかのところで発揮された想像力に、純は驚かされた。
「俺、しばらくできないかも」
 そんなことまで言う。
「嘘!? ちょっ……興!」
 できないだなんて、どれだけリアルに想像したのか。興は口元を押さえてまでいる。これは、やばいかもしれない。
「…………」
 その様子に、島山が呆れのために瞼が下がりぎみになっていることに、誰か気付いた者はいただろうか。
「――兼田!」
 純は叫んだ。
「え!? 俺!?」
「兼田が言うから!」
「想像しちゃう興がエロいんだろ!」
 言い訳をするが、そんな変な言い訳が通じるわけがない。
「できなかったら絶交だからな!」
「ええ!?」
 兼田の声音がひときわ大きくなった。
「…………」
 そこで、島山の瞼は半分まで下がり、さらに不納得げになった。
「それ駄目! 三浦! 考え直せ!」
 だが、それに気付く者はおらず、焦った兼田は興に駆け寄ると、出来てしまった想像を変えようとし始める。
「橋川のことだから優しくてだな! お前の気持ちを考えて、気遣いながら……」
「最後は獣になる」
 兼田の説明を遮り、佐々木が最後へと進めた。
「…………」
 興が両手で顔を覆った。想像できたということだ。
「佐々木!」
「佐々木ぃ!」
 純と兼田の叱責が重なった。
 楽しんでいる。佐々木は間違いなく楽しんでいる。
 それとイメージを打開すべく、変な印象を付けられたくない純と、絶交されたくない兼田が必死でイメージ変えを試み始めた。
 だが、その合間合間に佐々木が言葉を入り込ませて邪魔をする。
 端から見ると、いじめと慰めが同時進行で行われているようにも見えるかもしれない。
 そんな彼らの応酬に、そこに加わっていない島山はあきれ返っていた。
 興と純が付き合っていることは島山たちも知っていることだ。
 しかし、行為に関しては、だろうと予想しているだけで確証は取れていない。
 が、間違いなく、確信を得る発言が興から出た。
 おちょくっている佐々木は分からないが、焦っている純と兼田は全く気付いていないだろう。
 興もそんなミスをするとは。
 だけれど、興が以前と変わったことを応酬の一端に垣間見せたことよりも、誰も、興自身すらも失言に気付いていないことに、島山は溜め息を吐き出した。
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指圧のことは、有乃にとっても何でその情報を得たのか、聞いたことがある気がするなあ……というくらいおぼろげな記憶です
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