45 / 49
番外編
5
しおりを挟む
5
「サッカー部に言ったよ」
翌日の月曜日の放課後。温室に興と来た純は皆に報告した。といっても、興には伝えたその昼休みのうちに言っている。
「喜んでただろ」
「ああ」
優勝するためとしても欲していたのだ。求めていた人材が、それも、断っておきながら自らきてくれれば喜びも大きいだろう。
「いつから出るんだ?」
「明日」
本当は数日後にしようと思ったのだが、明日から頼むと強く要求され、顧問と園芸部部長も許可したことから承諾することになったのだ。
「じゃあ、今日たっぷりしないといけないわけだ」
「何が?」
言ってることが分からず、純は佐々木を見た。
「セックス」
さらりとしたものだった。
「セッ……」
初めて聞く言葉ではないが、臆面もない久々な発言に、純は言葉に詰まってしまった。
「なに固まってんだよ。経験がないわけじゃあるまいし」
つまり、行為へは及び済みであると思っているということだ。
「いや、それは…………」
実際はまだである。全然というほど進んでいない。進んでいるのは夢の中だけだ。
「もしかして、ヤってないのか?」
困じることで返した純に兼田が憶測した。ただ、信じられないという感じなのは大袈裟だろう。
「ヤった恥ずかしさだとは思わないのか?」
さらに興が入ってきた。冷静を崩さないだけあり、いっさいの感応もなく発言する。
「ヤってたらそれでも肯定してるだろ」
あっけない返答だった。しかも、言い切られてしまったことには恥ずかしさが込み上がってくる。自分は、そういうところがあるのだろうか。
しかもである。興も島山も誰も、それに否定する者がいないどころか沈黙が降りるではないか。
「――まあ、それもあるな」
「え……」
数秒後、興が開口するが、少なからず兼田の意見に賛同するものであることに、純もその面が確実に存在することを知ることになってしまった。
「でも、ヤるとなると、なんか、橋川って化けそうだよな」
「え?」
新しく振られた事柄に、純は佐々木を見た。
「そうか?」
面白くなさそうに聞いていた島山も想像しにくかったようだ。
「目、ギラつかせて食いつきそうだな。もう、獣な感じだ」
が、兼田の方はしっかり想像できたようだった。最後には理性がない発言をされてしまう。
「そんなわけないだろ」
純は否定した。
興の気持ちを考え、気持ちに合わせてゆっくりと進んでいる。反応したモノも興には関わらせず、ちゃんと自制している。
が、だ。
「興の気持ちを考えて……」
「やべ……」
感情を押しつけていないことを言おうとした純だったが、興がそんなことを呟いたのだ。咄嗟に興を振り向く。
「想像できちまった」
「え!?」
まさかのところで発揮された想像力に、純は驚かされた。
「俺、しばらくできないかも」
そんなことまで言う。
「嘘!? ちょっ……興!」
できないだなんて、どれだけリアルに想像したのか。興は口元を押さえてまでいる。これは、やばいかもしれない。
「…………」
その様子に、島山が呆れのために瞼が下がりぎみになっていることに、誰か気付いた者はいただろうか。
「――兼田!」
純は叫んだ。
「え!? 俺!?」
「兼田が言うから!」
「想像しちゃう興がエロいんだろ!」
言い訳をするが、そんな変な言い訳が通じるわけがない。
「できなかったら絶交だからな!」
「ええ!?」
兼田の声音がひときわ大きくなった。
「…………」
そこで、島山の瞼は半分まで下がり、さらに不納得げになった。
「それ駄目! 三浦! 考え直せ!」
だが、それに気付く者はおらず、焦った兼田は興に駆け寄ると、出来てしまった想像を変えようとし始める。
「橋川のことだから優しくてだな! お前の気持ちを考えて、気遣いながら……」
「最後は獣になる」
兼田の説明を遮り、佐々木が最後へと進めた。
「…………」
興が両手で顔を覆った。想像できたということだ。
「佐々木!」
「佐々木ぃ!」
純と兼田の叱責が重なった。
楽しんでいる。佐々木は間違いなく楽しんでいる。
それとイメージを打開すべく、変な印象を付けられたくない純と、絶交されたくない兼田が必死でイメージ変えを試み始めた。
だが、その合間合間に佐々木が言葉を入り込ませて邪魔をする。
端から見ると、いじめと慰めが同時進行で行われているようにも見えるかもしれない。
そんな彼らの応酬に、そこに加わっていない島山はあきれ返っていた。
興と純が付き合っていることは島山たちも知っていることだ。
しかし、行為に関しては、だろうと予想しているだけで確証は取れていない。
が、間違いなく、確信を得る発言が興から出た。
おちょくっている佐々木は分からないが、焦っている純と兼田は全く気付いていないだろう。
興もそんなミスをするとは。
だけれど、興が以前と変わったことを応酬の一端に垣間見せたことよりも、誰も、興自身すらも失言に気付いていないことに、島山は溜め息を吐き出した。
「サッカー部に言ったよ」
翌日の月曜日の放課後。温室に興と来た純は皆に報告した。といっても、興には伝えたその昼休みのうちに言っている。
「喜んでただろ」
「ああ」
優勝するためとしても欲していたのだ。求めていた人材が、それも、断っておきながら自らきてくれれば喜びも大きいだろう。
「いつから出るんだ?」
「明日」
本当は数日後にしようと思ったのだが、明日から頼むと強く要求され、顧問と園芸部部長も許可したことから承諾することになったのだ。
「じゃあ、今日たっぷりしないといけないわけだ」
「何が?」
言ってることが分からず、純は佐々木を見た。
「セックス」
さらりとしたものだった。
「セッ……」
初めて聞く言葉ではないが、臆面もない久々な発言に、純は言葉に詰まってしまった。
「なに固まってんだよ。経験がないわけじゃあるまいし」
つまり、行為へは及び済みであると思っているということだ。
「いや、それは…………」
実際はまだである。全然というほど進んでいない。進んでいるのは夢の中だけだ。
「もしかして、ヤってないのか?」
困じることで返した純に兼田が憶測した。ただ、信じられないという感じなのは大袈裟だろう。
「ヤった恥ずかしさだとは思わないのか?」
さらに興が入ってきた。冷静を崩さないだけあり、いっさいの感応もなく発言する。
「ヤってたらそれでも肯定してるだろ」
あっけない返答だった。しかも、言い切られてしまったことには恥ずかしさが込み上がってくる。自分は、そういうところがあるのだろうか。
しかもである。興も島山も誰も、それに否定する者がいないどころか沈黙が降りるではないか。
「――まあ、それもあるな」
「え……」
数秒後、興が開口するが、少なからず兼田の意見に賛同するものであることに、純もその面が確実に存在することを知ることになってしまった。
「でも、ヤるとなると、なんか、橋川って化けそうだよな」
「え?」
新しく振られた事柄に、純は佐々木を見た。
「そうか?」
面白くなさそうに聞いていた島山も想像しにくかったようだ。
「目、ギラつかせて食いつきそうだな。もう、獣な感じだ」
が、兼田の方はしっかり想像できたようだった。最後には理性がない発言をされてしまう。
「そんなわけないだろ」
純は否定した。
興の気持ちを考え、気持ちに合わせてゆっくりと進んでいる。反応したモノも興には関わらせず、ちゃんと自制している。
が、だ。
「興の気持ちを考えて……」
「やべ……」
感情を押しつけていないことを言おうとした純だったが、興がそんなことを呟いたのだ。咄嗟に興を振り向く。
「想像できちまった」
「え!?」
まさかのところで発揮された想像力に、純は驚かされた。
「俺、しばらくできないかも」
そんなことまで言う。
「嘘!? ちょっ……興!」
できないだなんて、どれだけリアルに想像したのか。興は口元を押さえてまでいる。これは、やばいかもしれない。
「…………」
その様子に、島山が呆れのために瞼が下がりぎみになっていることに、誰か気付いた者はいただろうか。
「――兼田!」
純は叫んだ。
「え!? 俺!?」
「兼田が言うから!」
「想像しちゃう興がエロいんだろ!」
言い訳をするが、そんな変な言い訳が通じるわけがない。
「できなかったら絶交だからな!」
「ええ!?」
兼田の声音がひときわ大きくなった。
「…………」
そこで、島山の瞼は半分まで下がり、さらに不納得げになった。
「それ駄目! 三浦! 考え直せ!」
だが、それに気付く者はおらず、焦った兼田は興に駆け寄ると、出来てしまった想像を変えようとし始める。
「橋川のことだから優しくてだな! お前の気持ちを考えて、気遣いながら……」
「最後は獣になる」
兼田の説明を遮り、佐々木が最後へと進めた。
「…………」
興が両手で顔を覆った。想像できたということだ。
「佐々木!」
「佐々木ぃ!」
純と兼田の叱責が重なった。
楽しんでいる。佐々木は間違いなく楽しんでいる。
それとイメージを打開すべく、変な印象を付けられたくない純と、絶交されたくない兼田が必死でイメージ変えを試み始めた。
だが、その合間合間に佐々木が言葉を入り込ませて邪魔をする。
端から見ると、いじめと慰めが同時進行で行われているようにも見えるかもしれない。
そんな彼らの応酬に、そこに加わっていない島山はあきれ返っていた。
興と純が付き合っていることは島山たちも知っていることだ。
しかし、行為に関しては、だろうと予想しているだけで確証は取れていない。
が、間違いなく、確信を得る発言が興から出た。
おちょくっている佐々木は分からないが、焦っている純と兼田は全く気付いていないだろう。
興もそんなミスをするとは。
だけれど、興が以前と変わったことを応酬の一端に垣間見せたことよりも、誰も、興自身すらも失言に気付いていないことに、島山は溜め息を吐き出した。
0
指圧のことは、有乃にとっても何でその情報を得たのか、聞いたことがある気がするなあ……というくらいおぼろげな記憶です
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

きみがすき
秋月みゅんと
BL
孝知《たかとも》には幼稚園に入る前、引っ越してしまった幼なじみがいた。
その幼なじみの一香《いちか》が高校入学目前に、また近所に戻って来ると知る。高校も一緒らしいので入学式に再会できるのを楽しみにしていた。だが、入学前に突然うちに一香がやって来た。
一緒に住むって……どういうことだ?
――――――
かなり前に別のサイトで投稿したお話です。禁則処理などの修正をして、アルファポリスの使い方練習用に投稿してみました。

僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる