純情なる恋愛を興ずるには

有乃仙

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未発達なボクらの恋

終 純情なる恋愛を興ずること

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「興は、いつから俺のこと好きになってたんだ?」
 興に、純を好きな様子は見られなかった。カミングアウトがあり、全く意識していないということはなかっただろうが、気にしている素振りすら彼には見受けられなかった。それ以前も同様で、そんな一片すら垣間見せなかった。興は何時から好きになってくれていたのか。
「さあな」
 隠しているのではなく、本当に分からないという素っ気なさを興はしていた。けれど、ちゃんと説明をしてくれる。
「お前がカミングアウトして帰った後、なんか俺も純に対して気持ちが変で考えてみたんだよ。そしたら、好きってことに気付いたんだ。だから、何時かってのは分からない」
 興も自覚がないままに好意を持っていたらしい。そのことの方に純は驚きを感じた。でもまさか、同じ日に気持ちに気付いていたとは。この共通点に繋がりを感じるのは自分だけだろうか。
「俺は、けっこう早くに興を好きになるきっかけがあったんだ」
 純も言った。
「いつ?」
「体育で転んだ時。気遣ってくれたよな。俺の気持ちも受け入れてくれたし、西町先生にも受け入れられてるって教えられて――それが、俺にとって好きになるきっかけじゃないかって思うんだ」
 その事を境に、興と仲良くなりたいと思うほど好感を持つことにもなった。その良い方向での感情が、無意識のうちに恋心を作らせていっていたのだ。
「そんな早くにかよ」
「うん」
「そっから恋になったのはちょっと早すぎんじゃないか?」
「それは興も同じようなもんだろ」
 何時からかは知らないが、転校してきてから経った日にちは変わらないのだから、その間での恋心を持つ早さは同じくらいと取れることだ。
「それもそうだな」
 興は納得した。
 にしても、興はいたって普通でいるがなんともないのだろうか。こちらは鼓動が高鳴り続けているし、感じてきてもいるというのに。
「なあ、キスしていいか?」
 そんな純の気持ちを煽るかのように、興がそんな要求を出してきた。
「何度でも」
 しかし、それを拒むほど、求める気持ちは落ち着いていない。
 抱きついてきた興を抱き返し、キスをする。そのまま体重を乗せてくる興に押されるまま倒れる。
 そこで、唇を離した興の眉間に皺が寄った。その時点でそれの理由は読めていることだ。
「おい、純。なんか、ちぎみじゃないか?」
 予想通りであり、気付かれたくないことが言われる。
「……まあ、色々あって」
 予想通りのこととはいえ、本当、よけいなことに気付いてくれた。体が密着したので気付かれるだろうとは思ったが、なにもこんな時に気付かなくてもいいだろうに。気分が削がれてしまう。もっとも、萎えるほど沈んではいないので、主張ぎみのものは主張ぎみだが。
「色々なんてないだろ」
「俺の中ではあるんだよ」
 ようは気持ちの問題だ。興とキスをしたり密着したりしたことで、気持ち以上に体の方が高ぶってしまったのだ。こんな反応を見せておいて体を重ねたいわけではないと言っても通じないことは分かっているので言わないが、幻滅させてしまったかもしれない。
「……わりぃけどさ」
 今度は、そんな不安を煽るように、興は声音を落とした。
「セックスなしの付き合いがしたいんだ」
 幸いなことに、興が述べたのは純へのイメージダウンではなかった。
 が、それはいいのだが、落ち込みそうになってしまうことに変わりはなかった。
「なし?」
 何も、反応を見せている時に言わなくてもいいだろうに。いや、だからか。
「そう、なし」
 聞き返す純に、興はしっかりと繰り返した。
「でも、時々は……」
 せめて今は、とも思うが、言える雰囲気を興が持っていないのでそれは控えておく。それでも、要望を出すことだけはする。反応してしまっている今だからこそよけい望んでしまっているが、だからこそ、興の要求はあんまりだ。
「純。お前、名前なんだよ」
 望むような声音にもなっていたが、文句を言うように興が言ってきたのは脈絡のないことだった。
「純……だけど……」
 答えはするものの、純は嫌な予感がしていた。
「そんな名前してて、それにそぐわないことすんのかよ」
「それじゃあ、何もできないじゃんか」
 やはりそうだった。これまでにも名前のことを持ち出されたことはあったが、ここでもそれを持ち出してくるというのか。これもこれであんまりだ。
「何もってわけじゃない。キスならいくらでもOKだ」
「そりゃあ、キスもしたいけど」
 それでもやはり、反応している状況では享受しにくいというものだ。興もそこら辺は察せられるはずだろうに。
「横田たちのせいで、そういうことには抵抗があんだよ」
「…………」
 理由を言ってくる興に、純はそのことを思い出した。興は横田たちにそれを強要されていたのだ。
 渋っていた純だったが、気持ちを知り、考えを改めることにした。
「嫌になったか?」
「なにが?」
「俺が経験済みってこと」
 言葉がなかったことがそう思わせたのだろう。興は不安そうな面持ちになっていた。
「嫌だったら、知った時点で引いてるし、今も好きになってないよ」
 そんなこと関係なしに惹かれたのだ。それで好きでなくなるほど浅い好きではない。
「いいよ。興の抵抗がなくなるまで待つよ」
「わりいな」
 純の気持ちは分かっていたのだろう。済まなさそうに謝ると、興はまた抱きついてきた。純が倒れたままでいたので背に腕が回せない代わり、首に腕が回される。
「キスとか、こうして抱きしめたいっては思うんだけどさ」
「いいんじゃないか?」
 それだって、好きの気持ちの表れだ。
 とは言うものの、反応しているものが簡単に落ち着くわけではなく、反応したままになっている下半身には密着は少し辛い。
 けど、興は気にしないことにしたのか、身じろぎしたものの何も言わなかった。
「ちなみに、ディープなキスは、やっぱ純情じゃないよな?」
 別に、どうしてもしたいというわけではないが、持った熱を少しでも解消したいとは思う。でも、興の気持ちに添わないこともしたくない。でも、解消もしたい。そんな思いから、純は浮かんだことを尋ねてみた。
「そうだな」
 予想はしていたが、返ってきた返答にはがっかりさせられた。
「つうか、んなことやったら、よけい高ぶるんじゃないか?」
「だよな……」
 心の片隅では、あわよくば、それに触発されて興もその気にならないかという思いも過ぎってはいたのだが、内緒にしておいた方がいいようである。
「でも、またキスしたいんだよな」
「いいぞ」
 今していた内容にも拘わらず、その純の要望を興はあっさりと許可してしまった。
「ディープキスされるかもしれない心配はないのか?」
 そのあっけなさには純も確認してしまう。
「信じてるからな」
 興は言った。どこからそんな言い切れるだけの自信と信頼が出てきているのか。でもそれなら、
「じゃあ、裏切らないようにしないとな」
 信じてくれているなら、それに応えなければならないだろう。
 興の顔が下がってき、重ねられる唇を受け止めると、純は興の背中に腕を回した。
 一旦、離されていたその身を強く抱きしめた。
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指圧のことは、有乃にとっても何でその情報を得たのか、聞いたことがある気がするなあ……というくらいおぼろげな記憶です
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