純情なる恋愛を興ずるには

有乃仙

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未発達なボクらの恋

五 付き合うための最低条件

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『嘘はついてないな?』
 電話越しの父親の声はあくまでも冷静だった。
「ついてない」
 それが逆に、純に緊張と不安を与える。
『そうか』
 納得の言葉は短い。声調も変わらないことが、どう思っているのかを判断に困らせた。こんな事が起こり、怒っているのだろうか。
 土曜日から二日後の月曜日。純は部屋にいた。登校日であるため良智は当然ながらおらず、今、寮にいるのは一昨日の件に関わった者たちだけとなっている。
 日曜日に会議が行われ、そこで、あの場にいた全員の処分が決定された。
 横田たち三年は、反省が全くないとして停学。停学先は自宅だが、事情があり、戻れない者は寮に残ることが許されている。島山たちは不良をやめようという姿勢が認められ、しかし喧嘩をしたということで五日間の謹慎。純と興は、どんな訳があるにしろ、自ら関わったと判断され、三日の謹慎となった。
 その出来事と結果は当然、各家族に連絡がされ、その次の日――今日、時間を取って連絡をしてきた父親と、純はその件について話し終わったところだった。
『お前でも、手が出るほど感情的になることもあるんだな』
「ごめんなさい」
 純が乱入した理由。振り返った純は、島山が危なかったからではなく、三年に不快を抱いていたからと導き出していた。そのことは父親にも話しているが、喧嘩に介入したことは事実であり、純は何度目かになる謝罪を口にした。
『もう過ぎたことだ。次からは気を付けろ』
 父は怒らなかった。口調が強くなることもなく、ずっと冷静なままである。だからこそ、純も気が引き締まったままになっていた。
 真面目である父は、暴力や喧嘩など、当然許さない。なので、怒られる覚悟をしていた。しかし、電話越しに聞こえてきた声はいつもと変わらない、冷静ゆえに厳しくも聞こえるものだった。だから、覚悟していた純は困惑させられ、感情が分からないことに不安と緊張を持ち続けることになっていたのだ。
「怒ってないの?」
 純は聞いた。おそるおそるという感じになってしまったが致し方がない。
『連絡を受けた時は怒った』
 父親は言った。やはり、怒っていないわけがないのだ。だが、その言葉は過去形でもあった。
真面目で堅物。本人を怒るまでは怒りを持ち続けるというとんでもない人が、たった一日で――いや、時間にすれば一日分も経っていないだろう。そんな短時間で、しかも怒る前から沈静化してしまっているなんて、一体なにがあったというのか。
 その理由は、父親から語ってくる方が早かった。
『母さんにな、もっと冷静になれと叱責されてな』
 母さんとは、純の母親のことではなく祖母のことだ。父の親でもあり、真っ向から意見する存在でもある。
『転校のことでもけっこう怒ったからな。もう少しお前の気持ちを考えてやれと、そう言われたんだ。苦しんでるお前の気持ちを分かってやれなかった俺が、寮に入って離れたお前の気持ちなんてもっと分からない。だから、冷静にはなろうと思ってな』
「…………」
 そうであった。祖母は理解してくれていたが、父は全くもって分かってくれなかったのだ。母は両方の気持ちを理解していたため中間にいたが、感情が高ぶった純と怒った父親は口論となり、終いには、激高までした父に好きにしろと投げ出されたのだ。
 そんな父親だったが、祖母に叱責されたことで意識を改めてくれていたらしい。今回のことが起こるまでずっと着信拒否していたので知らなかったが、父も父で色々あったようだ。祖母には感謝である。
『お前が言ったことに嘘がなければそれが事実なんだろう。だから、疑う気はないし、反省しているなら叱るつもりもない』
 父は言った。冷静な口調は変わらないし、真意というのも分かりかねる。しかし、気持ちを語っておいて逆の感情を持っているとは思えない。そこら辺は素直な人でもあるのだ。
『――俺の方こそ悪かった』
 数秒後、父親は謝ってきた。
 なんだか、それが嬉しかった。本当に理解してくれたのか疑いも残っているが、息子の気持ちを考えようとしてくれていたことが純を嬉しくさせた。
「ううん。いいよ」
 自然と、微笑が浮かんでいた。
『そうか』
 父親の声音にも、微かだが、安堵の掠れがあったのが分かった。
『足はどうだ?』
 それから、父親は話題を変えてきた。瞬間、純はものすごく報告したくなった。
「それが、今じゃ全く転ばなくなったんだ。走っても大丈夫だし、もう治ったって言えるくらいになったんだよ」
『本当か?』
 いまいち信じきれていないようだった。医者に不明と言われたことだ。それが、転校して、それも一ヶ月も経たないうちに回復したのだ。信じられないだろう。
「ああ」
『良かったな』
「うん」
 喜んでくれているのだろうか。珍しく柔らかくなった口調に、純の喜色も大きくなった。
『声も明るくなってる。転校は、お前にとって良かったようだな』
「…………」
 それに、純はすぐに言葉が出てこなかった。あれだけ反対していた父親が認めてくれたのだ。声色の違いまで分かったし、驚きである。
『着信拒否はもうするな。母さんが特に心配していた』
「分かった。もうしない」
 理解してくれていて心配もしてくれていたのだ。そりゃあ、連絡が取れなくなれば心配もするだろう。転校した頃には落ち着きを見せていたが、その前までは自分のことだけでいっぱいで、他人のことまで気が回っていなかった。今思えば、祖母にはよけい心配をかけることをしてしまっていたようだ。あとで謝らなければ。
『それと、長期の休みぐらいは帰ってこい』
「うん。分かった」
 それにも純は了承した。口論した父が理解してくれた。それだけで、家族を拒む理由はなくなる。
『悪いが、もう切るな』
「うん」
 頷くと、あっさりと通話が切れた。時間的にもう仕事が始まっている時間だ。仕事場の執務室にでもいれば、あまり長く掛けてもいられないだろう。
 純は画面を見つめた。
 気分が軽い。
 謹慎になった身だが、理解してくれなかった親から理解を得られたことで、心が嬉しさに跳ねていた。
 そしてなぜか、興に会いたくなった。
 部屋ではなく寮から出るなとなっているので、寮内を自由に行き来することはできる。興も部屋にいると言っていた。
 気持ちのまま、純は行ってみることにした。


                  □□□


「それで?」
 島山をともない中まで戻ってくると、興は聞いた。
 つい今し方、島山が部屋を尋ねてきた。他に聞かれたくない話があるということで、周りを気にする必要はないだろうと思いつつも中に入れることにしたのだ。謹慎中の者と停学者数名が残っているからだ。
「あー……そのだな……」
 島山は言葉を迷わせた。
「謹慎中に言うことじゃないと思うんだけど……というか、言うことじゃないんだけどよ……」
「そう思うほどのことを言うのかよ」
 この男はいったい何を言うつもりなのか。
「誰かに聞かれる心配を考えれば、今だと思ってな」
「まあ……」
 得心はするものの、本人が謹慎中に言うことじゃないと言ってしまうほどのことを言うということには同意はしにくかった。
「で?」
 それでも興は発言を促した。それだけ聞かれることを避けたいのだろうという思いもあったからだ。それに、中まで入れておいて帰すのも悪いだろう。
 だが、島山は言い淀んでしまった。来たはいいが、決心が付いていないか、それほど言い出しにくい事ということなのだろう。視線も逸らされる。
 しかし、来たからには言わなくてはならない。それは島山が一番分かっているらしく、悩むことから脱出するのも長くはかからなかった。
 興に向き直る島山は、姿勢すら正した。瞳も真っ直ぐに据えると、島山は告げた。
「実は、前々から好きだったんだ」
「断る」
 聞いた瞬間、興は拒否の言葉を口にしていた。
「即答かよ」
「え? あ、ああ、悪い。つい反射で」
 言われ、そこで興は自分の発言に気付いた。
「どんな反射だよ」
「あー、いや、だってな……」
 まさか、告白を受けるとは思ってもいなかったのだ。姿勢すら正したことから真面目な話だとは思ったが、恋愛だとは思いもしなかった。いや、それは言い訳にはならない。
 訳は、口を滑らすように間髪も入れずに返した言葉がそうだ。その抱いている思いが、思いもしなかったことを言われたことによって自身の意思かまわず本音が出てしまったのだ。つまり、興も動じてしまったということだ。
 しかし、本音が出たということは、島山の思いは伝わらなかったということでもある。興の驚きはともかく、それは島山にも通じていることだ。
「くそっ。いい反応なんてないのは覚悟してたけど、やっぱ、実際言われるとこたえるわ」
 語調ははっきりとしていたが、口にしている通り、額に手を当てる島山は辛そうな表情をしていた。
 それが、本気であったことを語ってもいる。
「……まじなのか?」
 だからこそ、興も確認せずにはいられなかった。
「だから言いに来たんだ」
 それはそうだ。これが嘘だったならば、そんな表情もしないだろう。それでも、信じられない気持ちもなかなか抜けるものではない。
「だって、そんな素振り一度も……」
「そりゃあ、横田たちがいたからな。いなかったら見せてただろうよ」
 嫌いと言ってのけてしまうほど、島山は横田たちのことを快く思っていない。今は決別どころか不良からも抜け出すことを決めたが、それまでは、態度も大きい横田たちにあまり逆らえなかった。そんな立場では、確かに気持ちを出すのは躊躇われるだろう。
「でも、このままじゃお前の見方も変わらねえし、俺が変わろうと思ったんだ」
「……それって、もしかして……」
 その言い方には、もしやと思うことがあった。その決断に対し、今回の島山たちの行動――繋がっているとしか思えない。
「ああ。そのために、横田たちとつるむのだけじゃなく、不良もやめることにしたんだ」
 思った通り、島山たちの――島山の行動は自分に近くなるためのものだった。兼田と佐々木も一緒なのは、彼らも横田たちを快く思っておらず、横田たちから離れるきっかけであり、噴水場で言っていた理由によるものだろう。
「三浦、俺じゃ駄目か?」
「駄目って……」
 そんなことを言われても受けられるわけがない。興には想い人がいるのだ。
「……見方変えようとすんのはいいけど、言ってくるの早すぎないか?」
 けど、そんなことを言えるはずがなく、島山が事実を明かしたことで疑問に思っていたことを聞くことにした。
「お前が他を意識してるようだからだよ」
 その言葉に、興は内心どきりとした。
「あいつのこと意識してるようだから、その前にって思ったんだ」
「…………」
 他と言いながら誰であるかも分かっていたらしい。けどそれなら、気持ちを打ち明けたところで見込みは薄いとも分かるはずだ。
「俺は駄目か?」
 島山は聞いてきた。
「そんなの……」
 いいと言えるわけがない。
「やっぱな」
 続かなかった言葉に、島山は判断できたようだった。いや、初めから分かっていたのだ。どう返ってくるか予測できていて、島山は思いを打ち明けに来たのだ。
 だが、島山の決断はそれだけではなかった。
「じゃあ」
 そう言うと近づいてくる。かと思うと、腕を掴み、横へと押し倒してきた。
「なにすんだ!」
 幸い、倒れた先はベッドの上で、体を打ち付けるということは免れた。が、その上に被さるように島山もベッドに乗り、危機的状況に移行しそうな体勢に興は怒鳴った。
「せめて、一発ヤらせてくれ」
 それを裏付けるように、上から見下ろす島山はそんなことを言ってきた。
「なに言ってんだ!」
 当然、そんなことを承諾できるはずがない。
「どうせ今更だろ」
「ふざけんな! なにが今更だ! 嫌に決まってんだろ!」
 ただでさえ、横田たちの所為でそういったことへは抵抗を感じるようになっているのだ。ましてや、島山に惚れているわけでもない。たとえ一発だろうが、そんなことを容認できるわけがない。
「俺は一回もやってなかったろ!」
「知るか、そんなの!」
 というか、そんなことが理由になるわけがない。抜け出そうと興は抵抗した。
「やっちまったら、あいつらと同じになる。だから、興味ない振りしてずっときたんだ! 嫌われたくねえから!」
 抵抗する興を押さえつけたまま、島山は気持ちを降らせた。
「だから……!」
「だからってなんだよ!」
 訴える声色もしていたが、読むことができた先には思わず興は叫び返した。
「ここまできて台無しにするつもりか!」
 島山の言葉はきちんと理解できている。嫌われたくないから横田たちにはまらず耐えていたのだ。それを、ここにきて壊すというのか。
「じゃあ、お前は受け入れてくれるのかよ!」
 だが、島山の言葉が無くなることはなかった。もしかしたら、答えを全て予測できていたから、こういう行動に出ているのかもしれない。島山には、どこか辛そうな色が滲んでいた。
「それは……」
 しかし、興とて受け入れられることではない。だが、島山の言葉に隠れている感情にどう言葉を返していいか分からず、興ははっきりと否定の言葉が出せないどころか動きまで止まってしまった。それでも分かっている島山には、言葉を濁した先が通じていることだ。
「だろ!? だったら、せめてって思うだろ!」
「だからって……!」
 島山の考え方に、一度沈んだ声音が再び上がった。
「一度だけだ。そしたら諦める」
「結局ヤりたいだけだろ!」
 そこへと辿り着く考えよりも、その行為をするということに、興の気持ちは拒絶へと高ぶった。
「違う!」
「どけろ!」
 否定されるものの、その言葉ごと跳ね返すように怒鳴る。島山の気持ちを理解できたとしても、絶対受け入れられないことだってある。
「三浦!」
 再び抵抗しだした興に、懇願するような声色が島山に滲んだ。
 しかし、抵抗を抑えようと力も加えてき、行為を求める島山と攻防することになった。


 純が目的の部屋に辿り着くと、中から声が聞こえてきていた。
 声は二つくらいしており、誰かが来ていることがうかがえる。興と二人きりになりたいという思いがあった純は、出直してこようかと思った。
 しかし、興と、その誰かが言い争っているような声の荒げ方であることに気付き、純は考えと行動を一転させた。
 ドアノブに手をかけ、鍵が掛かっていないことが判明すると、中へと急いで入る。
 短い廊下を駆け抜けると、ベッドの上に人物を発見した。訪問者は島山だったようで、島山に興が押さえつけられていた。興も抵抗しているが、分は興の方が悪い。
 その状況を即座に判断すると、純は彼らに迫った。
 島山の肩に手をかけ、払いのけるように飛ばす。
「なにしてんだ!」
 床に尻を打ち付けるように転んだ島山に、純は叫んだ。
「てめえ」
「改心するんじゃなかったのかよ!」
 睨みつけてくる島山に、純も言い放った。
 不良をやめるということは非行はしないということだ。なのに、何をしているのか。
「うるせえ!」
 それに、島山は怒鳴り返した。
「くそっ! なんでてめえなんだよ!」
「は?」
 だが、意味の分からないことを言われ、純は眉が寄った。
 そんな疑問も早々、島山が立ち上がったことで純は身構えた。
 けれど、大股に近づいてきた島山は突っかかってくることはなかった。ただ、気に食わないとばかりに純を突き飛ばして通り抜けていくと、そのまま部屋を出て行く。
「なんなんだ?」
 だが、上体を起こしていた純には、不快の他に怪訝にさせられることだ。初めから聞いていたわけではなく、攻防と噛み合っていないことを怒鳴られても分からないだけである。
「純」
 純が訝しんでいると、名を呼んでくる声がした。
「あ」
 そちらを見てみれば、すぐ横に興がいた。島山の意味不明の発言で、一瞬にして飛んでしまっていた意識が彼のところに戻ってくる。
「大丈夫か?」
「ああ。興は?」
 本来なら自分がするべき質問をされ、答えた純は聞き返すという形で遅れて安否を確認した。
「俺も大丈夫だ」
「よかった」
 直接の被害は受けていないとでもいうような声音と態度の興に、純は安堵の微笑が浮かんだ。
「島山の奴、なんで興を押し倒してたんだ?」
 それから、純は疑問へと転じた。
「ああ、あれは……」
 興は言い淀んだ。あんな揉め事になっていて言いにくいことだというのか、悩ましげにまでする。
 けど、数秒だけのことだった。
 少し下がっていた顔を真摯に引き締めながら上げられる。その表情は、決心したような表情にも見えた。
「純」
 真っ直ぐに見据えてくると、興は言った。
「お前が好きだ」
 そう、告げる。
「え?」
 純は、何を言われたのか分からなかった。いや、言われた言葉はちゃんと伝わっているし、意味も分かっている。
 望んでいたことが実際にその口から出てきたのだ。しかし、突然のことに理解が追いついていない。
「本当は、お前の気持ちもはっきりしてないのに言うつもりはなかったんだけど、島山が告白してきて、伝えなきゃって思ったんだ」
 やっと、純は思考回路が動き出した。だが、語られた訳は、純には意外であり驚きでもあった。
 島山が来ていたのは告白のため――興を好きでいたとは。
 立て続けに思わぬことを言われ、純は驚きが抜けなかった。その反面、だから島山は純のことを嫌っているようだったのかと理解もできていた。
「純が俺のこと意識してるの知って、夢のせいじゃなければいいのにって思ったりした」
「…………」
 その吐露が、半信半疑にさせていた興の好意の真意を確信させた。
 けれど、純は言葉が出てこなかった。胸中では嬉しさが湧き起こっているのに、その感情が口から出てこない。
 気持ちを打ち明ける興は、そこで改めて気持ちを伝えてきた。
「純が、好きだ」
 先程の打ち明けより、重みがある声音だった。
「……俺もだよ」
 そこでやっと、純は言葉が――気持ちが出てきた。
「俺も、同じこと思ってた」
 純は抱いていた気持ちを述べた。
「興の態度が全然変わらないから、好きじゃないのかもって。だから、興も俺のこと好きだったらいいのにって、何度も思ってたんだ」
「…………」
 純を見る興は落ち着いていた。落ち着いて聞いていた。その言葉を受け止めるように。
「あんなテンパり方して、本音かもって思われるだけだっての」
 そんなことを言う興だが、呆れてはいなかった。仕方のない奴。知っていて、受け入れていての仕方なさ。そんな雰囲気があった。
「…………」
 純は恥ずかしいだけだった。興の前では羞恥を抱くことしかしていない気がする。
「玉砕覚悟で告ってこいよ」
「それでほんとに玉砕したら、俺、立ち直れないかも」
 男らしさを見せろということなのかもしれないが、声量を下げてのその内容は純にはとんでもないことだ。
 興を好きになったのは自然的なものかもしれないが、きっかけは、体育の時の保健室でのことだ。それすらも壊れてしまいそうで、純にはとても勇気の出ることではない。
「じゃあ、俺から言って正解だったってことか」
 やはり、興は呆れていなかった。そうかと笑んでさえいる。
 それから、一拍あけると興は言った。
「付き合って、くれるか?」
「もちろん」
 純は一言で受け入れた。
 願っていたことなのだ。それ以外の返事などあるはずがない。
 応えると、興は純を抱きしめた。純もその背に腕を回し抱きしめ返す。
 すると今度は、興は唇を重ね合わせてきた。驚きに目を瞠った純だったが、受け答える。
 心が踊っていた。
 好きが成就し、鼓動を速くさせている。
 唇を離し、間近のまま顔を見ると、興は笑んだ。
 その整った格好良さに心臓が跳ね、頬の温度が上昇する。
 そして改めて、興と結ばれたということに、純は笑顔にならずにはいられなかった。
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指圧のことは、有乃にとっても何でその情報を得たのか、聞いたことがある気がするなあ……というくらいおぼろげな記憶です
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