純情なる恋愛を興ずるには

有乃仙

文字の大きさ
上 下
36 / 49
未発達なボクらの恋

四ー2

しおりを挟む
                 □□□


 純たちは林の中を歩いていた。
「道とか、噴水に行きやすいようにすればいいのにな」
 先頭を歩いている顧問の後に続いていた純はそんなことを思った。
「そういや迷ったんだったな」
 そう述べる訳を理解したのは、隣を歩いている興だ。またどういった心の動きがあったのか、顧問を待っている時に広めにあけられていた間隔はなくなり、それまで通りの距離で隣にいる。
「そうなのかい?」
 阿部が尻目に振り返った。
「夜にですけど」
 なかなか眠れず、散歩にと外に出たのだ。今思えば、なぜ林なんかに入ってしまったのだろうか。
「夜に?」
 阿部は怪訝にした。原則、消灯以降の外出は禁止になっているが、寮の敷地内なら許可されている。林となれば敷地外なので当て嵌まらないが、大目に見るという中では許されている。なので、彼に怒った様子はない。
「眠れなくて散歩に出たんです」
「それで夜に林に入るなんて、勇気があるな」
「まあ……」
 勇気があるという言葉にはどれだけの意味が含められているかは分からないが、そう言えるだけのことはあるのだろう。
「おや?」
 と、阿部が立ち止まった。
 後ろにいた純らも立ち止まり、阿部の視線の先を見てみれば、木々の間に生徒の姿を垣間見ることができた。
 噴水の所だ。ここからでは数十メートルくらいだろうとまだ距離があるが、何人もの生徒が動いているのを見て取ることができる。不良たちだ。阿部がいなくなっている間に来てしまったらしい。
「どうやら、来てしまったみたいだな」
 阿部もそう判断する。
「あれ、島山じゃないか?」
 一方、興が遠いながらも一人を見出した。が、その時には、純も知っている顔を他にも見つけ出している。
「横田先輩もいないか?」
 いや、それだけではない。
「兼田と佐々木もいるようだな」
 阿部も、さらに二人の顔を見つけていた。
 サボると言っていたのは噴水に行くためだったらしい。しかし、横田たちといるということが嫌な予感をさせた。興はもっと強く感じているらしく、表情が硬くなっているようだった。
「二人とも、いったん温室に戻ってくれないか?」
 そんな興の内心を読み取ったのか、同じく嫌な予感がしたのか、振り向いた阿部はそう指示を出してきた。
「温室に?」
「謹慎を受けたばかりですぐに何かをすることはないだろうが、念のため、様子を見た方がいいと思ってね」
 さすがに何度も繰り返しているともなれば、控えた様子を見せていても警戒が出るらしい。
「一時間しても戻ってこない場合は休みにするから」
「分かりました」
 興の返答は素直なものだった。彼らと関わりたくない興にすればそれも当然と言えるだろう。
 返事を聞くと、阿部はポケットに手を入れた。
「あれ?」
 しかし、怪訝にすると、他のポケットも探り始める。
「君たち、悪いが携帯を持っていないか? 他の先生と連絡を取りたいんだ」
 携帯電話を探していたらしい。他にも呼んで見張るつもりなのだろう。だが、
「俺、今日、寮に忘れてきてるんです」
 興はそれに応じられなかった。
「橋川は?」
「俺は温室に……」
 こちらにも振られるが、こういう時に限ってという状態だ。いつもはポケットに入っているのだが、今日の私服のポケットは浅く、落ちないようにと温室に置いてそのままにしてきてしまっていたのだ。
「そうか……」
 阿部はそれだけ言うものの、困じているのは確かだった。他にも呼んできたいが、横田たちからも目を離したくないのだろう。
「先生。俺、見てるので呼んできてください」
 純は進言した。
「さすがにそれは……」
「俺は嫌だぞ」
 阿部が躊躇い、興は拒否した。
「気付かれなければいいわけだし、俺一人で見てるからいいよ」
 それらに純も言った。様子を窺うのにバレては意味がないのだし、近づき過ぎないようにすればいいだけだ。相手が相手なので興にとっては気が進まないことも理解できている。
「先生、早く呼んできてください」
 純は阿部を促した。誰を呼んでくればいいかなんて分からないので阿部が行った方が早い。
「……分かった。あまり近づかないようにするんだぞ」
 阿部は気が進まなさそうにしていたが、忠告することで聞き入れた。
「はい」
 純も頷くと、足早に阿部は去っていった。
 それを見送り、もう一人を振り向く。
「興は戻らないのか?」
「やっぱ俺もいる」
 動こうとしない興に尋ねると、興は考えを一転させていた。
「純一人じゃ心配だからな」
「無理しなくていいぞ?」
 心配してくれるのは嬉しいが、運悪く気付かれでもしたらどうなるか分からないのだ。特に、興は捕まる確率が高い。純としては逆にそこが心配だ。自分は見つかっても逃げきれる自信ある。
「してねえよ」
 硬くなっていたわりには、興にこれといって気構えた様子はなかった。でも、気配にはまだ硬質さがある。それでいて、引き下がる気がないのもそこからは窺える。
「そう。でも、なに言ってるか分かるところまでは近づくけどいいか?」
 純は確認した。元より危険を冒すことではなく、興にもその気があるとはいえ、もしものことを考えれば心配させられる。
「ここから見てるだけじゃ駄目なのか?」
 興は怪訝な声音になった。
「もしかしたら、何かするために話し合うのかもしれないだろ? そうだったら、見てるだけじゃ分からないだろ」
 何かをしでかす算段でも立てているのだとしたら、なおさら様子を見ているだけでは駄目だ。防止することも考えれば、会話が聞こえる所までは近づいた方がいい。
「そうだけど……」
 納得を示すものの、気が進まないのも興には表れていた。それも当たり前だ。
「興はここにいていいから」
 気持ちが分かる分、純も無理に進めることはしない。そう言葉をかけると純は歩き出した。
 だが、動き出すと、気が進まなさそうにしていた興も続いてくる。
「心配だからな」
 見ると、興はそんなことを返してきた。それに、純はつい笑みが漏れた。
「なんだよ」
「いや、嫌がってもついてきてくれることが嬉しくて」
 平気そうな顔をしていた純ではあるが、内心では不安に満ちていた。逃げ切れる自信があるといっても、不良たちということには不安も抜けきるものではない。興自身が緊張と不安を持っており、いたところで心強いというわけではないが、それでも、一人ではないということには不安も和らぐ。
「だから、心配だって言ったろ……」
 それに返す興の声音はなぜか小さくなっていった。心配が本音だとしても、気丈に振る舞うための隠しなのだとしても、関わりたくないというのが一番の本音であることは確かだ。
 そんな興には純も心配なのだが、戻らないだろうことも想像できており、このまま進んで行くことにする。
 そうして進んで行った純らは、ある程度まで来たところで歩調を落とした。
 草音をなるべく立たせないよう、気付かれないよう、ゆっくりとさらに進んで行く。
 幹に遮られながらも全体が把握できるくらいになったところで木の陰に隠れ、そっと窺いながら聞き耳を立て始める。
 予想通り、噴水に集まっていたのは、三年の不良たちと島山たちだった。三年と島山らが、まるで対峙するように向かい合っている。
「ようはあれだろ。俺らとはもうつるみたくねえってことだろ?」
 そんな言葉が聞こえてきた。発した人物は見えなかったが、この声は確か横田の声だ。
「そういうそっちこそ、俺らがいなくて困るのは、三浦を呼び出すことじゃないんすか?」
 反駁するように言い返したのは島山である。
 興の名字が発せられたことに興を見てみれば、硬質な表情になっていた。たとえ島山だろうが、横田たちもいる中で自分の名が出たとなれば、それも被害者である興にすれば、緊張してしまうことだ。
「それじゃあ、困るなんて言えないよな」
「まあ、お前はやんねえからな」
 彼らはいったい何を話しているのだろうか。興を呼び出すとか出ていることからそういったことに関することだとは分かるが、島山はそれに関わっていない部分があるのだろうか。興の絡まれ方を知ってはいるが詳しく知っているわけでもなく、純はいまいち分かりかねた。
「お前らも本当にやめんのか? お前らは俺ら側にいたろ」
「それは先輩を立ててですよ」
 誰かの疑念に佐々木が答えた。しかし、やめるという単語が出てきたことで、なんとなく内容を理解することができた。
「それに、俺は島山派なんで」
「俺は、こいつらといる方が気が楽だし」
 発言を付け足す佐々木に続いて兼田も訳を語る。
 島山たちは、横田らと決別しようとしているらしい。
「それに、あんたらほどバカじゃないし」
「んだと?」
 兼田の評価に、また別の誰かが不穏な色を声音に宿した。
「はっきり言って、あんたらはバカだよ。同じこと繰り返すし、三年ってことに図に乗ってるだけだろ」
 兼田の見解は厳しいものだった。だがそれが、兼田が思っていることでもあるということだ。
「そう言うてめえは、ずいぶんと生意気な態度取るな」
「んなこと言って、ただで抜けれるって思うなよ」
 三年は声からして気色ばんだ。短気なのだろう。今にも殴りかかりそうな雰囲気が林の中からでも見てとれる。だが、兼田どころか、島山と佐々木にも臆した風はなかった。
「そうやって、すぐ暴力に出ようとすんのもバカらしいよな」
「俺たちがあんたらとつるむことになったのも、そっちから来たことだしな。もともと俺らにつるむ気なんてなかったのによ。わざわざ出向いてきて力見せつけてきたし」
 横田たちを中心した一つのグループではあるが、まとまりのあるグループではない。それも当たり前のことだったのだ。元より仲間意識がなければまとまりなんてあるわけがない。別行動するのも当たり前だ。
「結局、自分たちの思い通りにしたいだけなんじゃない?」
 兼田は初めからだが、もう、三人からは敬語が取り払われていた。
「ガキと一緒じゃん」
「てめえら」
 その言葉はそれほど大きくはなかったが、声音に怒気が含まれているのははっきりと分かった。
「それが、お前らの思ってることか」
 横田はリーダーだけあってか、怒りは内包しているようだったが落ち着きを保ち続けていた。
「ああ」
「もちろん」
「だから言ったんじゃん」
 三人の肯定が重なった。
 それが、最後の引き金にもなった。
「バカにしやがって!」
「タダで済むと思うなよ!」
 籠もっていた怒気を爆発させると、三年が地を蹴った。
 島山たちも、特に兼田が嬉々として向かっていく。
 そして、乱闘が始まってしまう。
「どうしよう」
「って、言われてもな……」
 喧嘩を前に、自分たちはどうすればいいのか。困惑する純に、興も困じていた。
 顔を戻してみれば、人数の多い三年は上手い具合に分かれていた。島山と佐々木には二人、兼田には三人が殴りかかっている。けれど、強いらしい兼田はやはり強いらしく、倍もいながら三年の方が苦戦している。島山と佐々木も引けを取らない動きをしているが、人数による差は表れていた。
「いいのかよ、先輩。バレたら今度は謹慎じゃ済まさないかもしれないぜ」
「バレないようにすればいいだけだ」
 揶揄するような島山の指摘に、その相手である横田は平然と言ってのけた。その態度からも、彼に反省の色は見えない。兼田がバカと言った通り、彼らは短絡的な部分があるのかもしれない。
 横田の殴りを島山は躱した。続けて突っ込んできたもう一人の拳を躱し、その三年の身が横切っていった直後に再び迫ってきた横田を続けざまによける。だがその時には、そのもう一人が攻撃の態勢に入っており、島山に迫っていく。
 それも回避すると、苛立たしげに島山は舌打ちした。
「どうした」
 今度は、横田に嘲弄が浮かんだ。
「リーダーと副が一緒ってずりぃだろ」
 島山は文句を吐き出した。上手い具合に分かれたと思ったのだが、人選はそうでもなかったらしい。島山が苦戦してしまうのも無理はない。
「喧嘩にんなもんねえよ」
 言いながら、横田は殴りかかった。それを島山も躱すも、横田の次の動きはそれまでと異なっていた。交互に攻めてきていたのが、迫った横田が副リーダーと入れ替わることなく、そのまま島山に向きを変えたのだ。
 警戒は気持ちだけ。次に島山を襲ったのは、足への衝撃だった。足を払われ、体勢を崩す。そこで、もう一人――副リーダーが迫る。
 だが、島山が殴られることはなかった。
 拳を振るおうとした副リーダーの方が殴られたからだ。
 島山が何かしたわけではない。転ばないよう踏みとどまっただけで、反撃できる体勢にすらなっていない。当然、横田でもない。
「!?」
 驚く島山と横田の前にいたのは、この場にいないはずの者だった。
「橋川……?」
 関係すらない存在に、喧嘩の最中さなかということも忘れたように島山は呆然と呟いた。
「あ―……」
 その声が聞こえたのかなんなのか。部外者は覇気のない声を出した。やらかしたという感じでもある。
 だが実際、部外者――純はやらかしたと思っていた。
 手を出すつもりなど全くなかったのに、島山が危なさそうなことに、気付いたら林から飛び出しただけでなく殴ってまでしまっていた。
「純!」
 そこへ、また新たな声が響いた。
「なにやってんだよ! 早く戻ってこい!」
 その声の主は、広場の端、木々の前にいた。興だ。純のように入ってきたくないらしく、その場で叱責を飛ばしている。
「三浦!?」
 だが、そのもう一人の部外者の存在には、島山は驚かずにはいられないというように声を上げた。
「なんでいんの?」
 けれど、驚きがあるのは島山だけではない。兼田と佐々木、それと三年たちも、動きが止まるほど呆気に取られていた。
「――はっ。丁度いいじゃねえか」
 その中で、いち早く我に返ったのは横田だった。リーダーになっているだけあり、判断する早さは兼ね備えているらしい。
「三浦を捕まえろ!」
 その指示に、素早く一人が動いた。
 興へと向かって駆け出すが、それを見た純もまた反射的に地を蹴っている。
 興は逃げ出すものの、他にも動いていた者がいたらしく、別の方向から来た三年に捕まってしまう。
「放せ!」
 暴れるが、しっかり掴まれ、無意味な抵抗にしかならない。
「興に触るな!」
 純は駆けつけた。走る勢いを利用し、興を捕まえている三年をおもいっきり蹴り飛ばす。
「どわっ」
 掴んでいることで興も危うく転ぶところだったが、なんとか三年だけが飛んでくれる。地面に体を打ち付けるように彼が転倒している間に、庇うように純は興の前に立った。
「この!」
 そこへ、純が追った三年が殴りかかってくる。興が捕まったことで、その三年を純は追い越してきていたのだ。
 純は素早く身を逸らした。前に来たその体に瞬発的に蹴りを入れる。
「うぐっ……」
 まともに喰らった三年が苦悶に表情を歪めながら腹を押さえてうずくまる。
「やば」
 その様に、反撃した純はまたしても失態を犯したことに気付かされた。反射的に足が出てしまったが、これはもう、喧嘩に加わったと言える状態だ。
「うわ……膝蹴りとかじゃなく、つま先で急所に入れたし。俺でもあれはしないのに」
「あはははは!」
 そんな純に、佐々木が信じられないものを見たとでもいうように漏らし、兼田はツボを捉えたとでもいうように笑った。
「っのやろう……!」
 一方、怒りに顔を歪ませたのは、蹴り飛ばされた三年だ。不良でもなんでもない、しかも後輩にやられた不快は大きいようで、それが顔に表れている。
 おかげで、標的としてさだめられたようでもあった。
「橋川。そっち頼むな」
「え!?」
 兼田から飛んできた言葉に、純は声が裏返りそうになった。
「俺、喧嘩できないんだけど!」
 百歩譲って喧嘩に介入することになったことを認めたとしても、喧嘩が出来る出来ないはまた別だ。今のも、反射が成功しただけのこと。ただのまぐれだ。
 だが、周りはそうは見ていなかった。
「いい動き見せたくせにそれかよ」
「なめやがって!」
 出来ると思われたらしかった。剣呑を通り越して危険な眼差しが三年から飛んでくる。
「ぶちのめしてやる!」
 さらには、ありきたりながら危険なことを吐き出し迫ってくるではないか。
 が、この状況になっても、純の根底には喧嘩は駄目だという思いが根付いていた。その思いのまま、純はよけた。しかし、殴りかかってきた三年は殴られてしまう。
 よけながらも純が反撃したわけも、またしても反射が出たわけでもない。
 よけることだけでうっかり興と身を離す躱し方をした際、そこにあいた空間に入ることになった三年を、その瞬間、弱者の行動を見せていた興の拳が襲ったのだ。反応すらできない間に顔面に喰らった三年が苦鳴を上げて身を折る。
「ナイスコンビネーション!」
 褒めたのは兼田である。楽しげなのはどうしてか。
「…………」
 対し、興は喜ぶどころか、握られた拳を見ながら頬が引きつりそうになっていた。純と同じく、やってしまったとでも思ったのだろう。
「こんのぉ……」
「三浦、てめえもただで済むと思うなよ」
 顔を押さえながら三年が立ち上がった。さらに、佐々木でもしないらしい蹴りを入れられた三年も回復したようで、二人に挟まれてしまう。しかも、怒りにさらに火が点いてもいるらしく、二人して顔が歪んでいる。
 さすがに、それには危険を感じてしまわずにはいられなかった。
「…………」
「ちょ、やばいって」
 興が表情を硬くし、純も誰となしに危機を訴える。
「俺、行くから」
 それに応じてくれたのは兼田だった。
「佐々木、こいつらよろしく」
 一番近場にいる仲間に、自分が相手にしていた三年を任せる。
 が、当然、その相手となっていた三年が気分を害さないわけがない。
「ふざけんじゃねえぞ、兼田!」
「強いからっていい気になんなよ!」
 憤然と噛みつく。
 だが、そこから事態が動くことはなかった。いや、動くは動くが、乱闘が続くことはなかった。
「あれ?」
 ある意味乱入者であり、ある意味巻き込まれである部外者の元へ行こうとした兼田が、彼らとはまた別のことに気付いたからだ。
「阿部と西町じゃないか?」
 口に出された人物の名に、兼田の周りにいた者らがそちらへと視線を向ける。
 その様子は、彼らを視界に捉えていた残りの者らも見ることになり、皆が視線を辿る。
 すると、林の中を走ってくる二つの人影、いや、三つの影があった。教師を呼びに行っていた阿部と、その阿部に連れてこられた教師――西町だ。もう一人は遅れており、二人より数メートル後方にいる。ちょっと遠すぎていることと、人覚えの悪い純には誰であるかは判断できなかった。
「げ」
「まずい!」
 三年がたじろいだ。
「逃げろ!」
 指示したのは横田だ。
 弾かれたように三年が逃げ出す。
「待て!」
「逃げるな!」
 そんな彼らを、この場に辿り着いた西町と阿部が止まることなく追っていく。
「…………」
 それを、純と興は見送った。島山たちもこの場に残っている。だが、これで危機は去った。純と興から安堵が漏れる。
 その時だ。
「君たちは逃げないってことは、覚悟はしているということかな?」
 落ち着いてはいるが、息が乱れている新たな声が届いた。
「それとも、逃げないだけの後ろめたさがない、ということかな?」
 声がした方を見てみると、スーツ姿の男がいた。彼が、遅れていた教師のようだ。息が乱れぎみの通り呼吸は速めで、落ち着いた態度ではいるが胸元が上下している。でも、この教師は誰か。
 その答えはすぐに解かれた。
「校長……!?」
 興が驚き声を上げる。
 まさかの人物だった。阿部は、学校のトップまで連れてきたのか。その意外な人物の登場には、純だけでなく島山たちも驚いていた。
 そんな彼らを特に気にすることもなく、校長は興を向いた。
「今は、おじさんと言ってくれると嬉しいかな」
 この場には当て嵌まらない言葉を生徒にかける。
 それに対し、興が示した反応は呆れでもなんでもなく、
「あ。嫌な予感」
 不穏だった。
しおりを挟む
指圧のことは、有乃にとっても何でその情報を得たのか、聞いたことがある気がするなあ……というくらいおぼろげな記憶です
感想 0

あなたにおすすめの小説

きみがすき

秋月みゅんと
BL
孝知《たかとも》には幼稚園に入る前、引っ越してしまった幼なじみがいた。 その幼なじみの一香《いちか》が高校入学目前に、また近所に戻って来ると知る。高校も一緒らしいので入学式に再会できるのを楽しみにしていた。だが、入学前に突然うちに一香がやって来た。 一緒に住むって……どういうことだ? ―――――― かなり前に別のサイトで投稿したお話です。禁則処理などの修正をして、アルファポリスの使い方練習用に投稿してみました。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...