純情なる恋愛を興ずるには

有乃仙

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未発達なボクらの恋

一ー3

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                  □□□


 頬杖を突き、純は見ていた。
 授業の合間の休息時間。
 周りがざわついているのも気にならずに、そちらへと視線が注がれている。
 その先にいるのは、次の授業の準備を終え、暇つぶしというように教科書をめくっている興だ。
 景一は恋としたものの、次の日になっても実感がいまいち湧かないでいた。それは、こうして見ていても変わらない。
「純」
 その時、脇から声がかかり見ると、良智が見ていた。
「用があるなら行ってきたら?」
 そう言ってくる。恋心を感じるかどうかを探るために見ていただけで用があるわけではなかったのだが、傍から見るとそういう風にも見えるらしい。
「あ、うん」
 でも、純は進められるまま動くことにした。これが恋心ゆえなのか、そばに行きたい気持ちもあったからだ。
 立ち上がり、興の席へと向かう。
「興」
 脇まで来ると、純は声をかけた。
「なにか用か?」
 顔を上げた興は、普段と全く変わりがなかった。昨日のことがあったとも思えない。
「あー、用ってほどのことじゃないんだけど……」
 純ははっきりしない言い方になってしまった。元より用があるわけではなく、来たからといって用件が出てくるわけでもない。
「用がないのに来たのかよ」
 文句めいてはいるが、非難の色はまったく入っていなかった。
「あー……いや……ないわけじゃないんだけど、言うほどでもないっていうか……」
 あることに言い換えても、すぐに変わりの用事が出てくるわけでもない。来たのも、良智に変に見られないようにするためと、気持ちのままに来るきっかけでもあったからだ。けれども、側に来たかったからとは言えず、だからといって用がないのも変に見られてしまうことだ。なんとなく来たと言っても、結局は変に見られるのがオチに決まっている。
「あることはあるんだな? なんでもいいから言ってみろ」
 こういう時に限って、どうして揚げ足を取るようなことを言うのか。いや、興はさりげなく細かいところにも気が向けられていることがあるのだが、この時まで発揮しなくてもいいだろうに。
「あー……、やー……あー……やっぱいいや」
 覇気もなく、ただただ語句を吐き出して悩んだ結果、純は戻ることにした。変に見られるのはこのさい我慢だ。
「は?」
 興は聞き返すが純は背を向けている。そのまま、用事が済んだとでもいうように戻って行く。
「…………」
 それを見送ることになった興は、純の予想とは裏腹に、なんだったのかよく分からない顔をしていた。
 だが、思考する表情になったのは、それからすぐのことでもあった。


                □□□


 温室の横の畑。そこに、純と興はいた。
 今、二人は水やりをしているところだった。
 島山三人組は温室など、横田たちの影響がこないだろう範囲で散っている。横田たちの対策として顧問といるとしても、常にまとまって作業もしていられないのだ。
 純は、ちらりと斜め前に視線を上げた。
 畑の中、少し離れたところに興がいる。純と同じ方向を向いているため、ここからでは横顔が少し見えるだけである。
 興に声をかけた昼間から今になっても、恋という意識は芽生えることがなかった。
 ただ、胸中に蟠っている何かが、緩やかすぎるほど緩やかに動いているようであるのを感じ取ることができたくらいだ。
 潜んで蠢いている感じではなく、波打っているという感じでもない。打ち寄せてくる波の盛り上がりをものすごくゆっくり作ろうとしているような、そんな感じである。そのくせ、それに意識を集中させれば、原動力がなくなったように静まってしまう。
 でも、興を見たりすれば動きだすことから、恋をしているなら、これが恋の感情ではないかと純は考えてもいた。今も、来そうで来ない、膨らみそうで膨らまない、緩慢すぎるほどの緩慢な動きでとどまり続けている。
 恋なら恋と、分かりやすい感情で表れてくれればどんなにいいか。そうすれば、悩む必要もないのに。
 だけれど、好きだったとしたら、打ち明ける時はどうするのかという疑問がふと浮かび、今になってその問題があることに気付くことになった。
 もし、気持ちを受け入れたとしても、興も気持ちを受け入れてくれるとは限らないのだ。興に偏見がないのだとしても、自身が対象となると変わるということだってあるかもしれない。保健室ではちゃんと浮かんでいた不安点だったのだが、すっかり抜けてしまっていた。
「…………」
 なんだか、自分の気持ちもはっきりしていないのに問題が増えてしまった。
 遅かれ早かれ直面する問題ではあるが、どうせなら、気持ちがはっきりした後にしてほしかった。
 だがこれで、自分は決めなければならなくなったわけだ。好きとなった場合、興に告白するかしないかを。
 どうせなら、告白したいし受け入れられたいと思う。なにせ――
 そこまで思いを巡らし、純は我に返った。今、何を思ったのか。
 告白して受け入れられたいのは、好きなら当然のことだ。けど、その後に浮かんできた感情はなんだったのか。自分は本当に――
「純」
「……!」
 その時、考えに割り込むように近くから声が聞こえ、純は下がっていた顔を反射的に上げるほど驚いた。
 いつの間に来ていたのか、興が傍に立っていた。
「どうした?」
「ああ、いや。なんでもない」
 尋ねられ、純は驚きに動揺を滲ませながら返すが、内心ではそれ以上に鼓動が速くなっていた。
 驚きのせいではあるが、早くも、考えていた――意識していた興が間近にいるということの方で動悸を覚えたのだ。
「今度はどうしたんだ?」
 そんな純の変化でも見抜いたのか。数秒見つめると、興はもう一度同じことを、意味を少し付け足して問いてきた。
「え?」
 思わず純は聞き返した。分からなかったからではなく、こちらの状況を読まれている気がしたからだ。
「一昨日、昨日は逃げてたくせして、今日ははやけに見てくるし」
「あ……いや……それは……」
 読まれているのではなく、変化を察していただけらしかった。けれど、純には焦らされそうになることだ。興の恋愛対象がどうなっているのかも分からないのに、好きなどと知られるわけにはいかないからだ。
「引かないから言ってみろ」
「言うほどのことじゃないから」
「手、止まるほど考えてるくせに?」
 遠慮しようとする純だが、興はしっかり様子を見ていたらしく、どんなことになっていたかを指摘してくる。
 おそらく興は、影響される夢をまた見たか、思い出したかと思っているのかもしれない。だから、引かないからと軽く言えるのだ。
「それは、考えるのに集中してたからで……」
「しかも、焦ってるみたいだし」
「え?」
 正論で返したと思った純だったが、返された言葉は意表を突くものでもあった。
 まさか、表面にまで焦りが出ていたなんて。なぜかバレたという感覚が起き、それがまた焦りを生んだ。
「今度はなんだ?」
「いや、それは……」
 興もまた尋ねてくるが、新たな焦りで躱す言葉が出てこない。
 だが、興が引き下がる方が早かった。
「言う気がないなら聞かないけど、もし、部活辞めたいなら気にせず辞めていいからな」
「は?」
 しかし、興から発せられた見当違いもいいところな発言に、純は思わず反問していた。
「そういうことも考えてるかもしれないって思ってな」
 よほど表情にも表れていたのだろう。純の怪訝に興はそう述べた。
「昨日から横田たちが復帰したし、純も絡まれたこともあるから嫌なんじゃないかって思ってな。やけに見るようになったのも、その話をした後からだしな」
 どうやら、考えの一つとして持っていたものらしかった。興は部長でもあるし、その、部長を見るということからそんな推測が生まれていたのだろう。にしても、タイミングのいいことだ。興を見ていたのはその前からだが、勘違いをしてもおかしくはないかもしれない。だが、大間違いである。やけにというくらい見ていたつもりはないが、退部とはこれっぽっちの繋がりもない。というか、昨日今日でそんな考えに辿り着かないでほしい。
「なに言ってるんだよ。園芸部に入った理由、忘れたのか?」
 興を一人にしないために入ったのだ。不良に負けないようにと強気な心も持たせようとしていたことも興は知っている。復帰したからといって辞めるはずがないことも、彼なら分かるはずだ。
「忘れてねえけど。もしかして、まだ意識してんのか?」
「あんな夢、簡単に抜けないって」
「まあ……」
 興は、全く純の気持ちに気付いていないようだった。それで勘違いは困るが、今はまだ、知らぬままでいてほしいことでもある。
(興が男も大丈夫か分かるまで言えないっての……)
 そう自身に注意をする。
「…………」
 が、自分の思いに純は引っかかりを覚えた。
「うん?」
 今、本気で思わなかっただろうか。
 不安があれば、偏見がない相手でも辿り着く考えであるだろう。けれど今のは、そこにかせない理由があるような言い方だった。
 そんな考えが出たということはだ。
 先程の心の動きもあり、これは本当にそうなのかもしれない。
「どうした?」
「あ、いや……」
 怪訝が興にも伝わってしまったらしく、尋ねてくる興に純はなんでもないことを返した。
「お前、意識しすぎなんじゃないか?」
 だがそれが、興にはそう取らせるものに見えたらしかった。
「というか、振り回されすぎだ」
「う……だって……」
 心当たりがありすぎることに、反駁したい心とは逆に言葉が浮かばなかった。
 しかし、今の状況がその心当たりとは違うことに、なんとか訴える言葉が出てくる。
「でも、俺だって振り回されてばっかじゃないし……」
「どこがだよ」
 けれど、強くならなかった反論は投げ捨てられてしまった。
「今だって、結局は振り回されてんだろ」
 新たな悩みを抱えていることを知らない興には、今も持続しているように見えてしまっていた。それは仕方がないことかもしれないが、呆れられてばかりというのも不服なことだ。
「これは、それとは別のことだ」
 振り回されてばかりではないことだけは示そうとする。
「別なことって?」
「…………」
 が、興相手では、失言第一歩となってしまうことになった。恋によるものだとは言えない。
 しかし、閉口してしまったことが、持続していることを肯定するものにもなってしまった。
「やっぱ振り回されてんじゃねえか」
「違うって!」
 それを図星だとしておけば、いくら純でも隠したい気持ちは隠されたままになっていたに違いない。だが、それよりも早く、純は反射的に言い返してしまっていた。
「じゃあ、なんだよ。言ってみろ」
 当然、興から返ってくるのは追求だ。
「言えたらとっくに言ってる!」
 もしかしたら、この時には早くも焦りだしていたのかもしれない。純は完全なる失言をした。
「お前、なに考えてんだよ」
 興の目が明らかに半眼になった。そこで失言を悟った純もしまったという焦りをはっきりと感じ取る。
「変なこと考えてるわけじゃないから!」
「自分でそう言うってことは、そうなのか?」
 慌てて言うが、言い訳にはなりきらないものだからか、興の敏感が発揮されたからか、些細な部分を取り上げられてしまう。
「違うっての! なんでそうなんだよ!」
 当たり前ながら、それは純をさらに焦らせることになった。必死も加わり、隠そうとしていたことを口走らせてまでしまう。
「俺はただ、興が好きかどうか考えてただけで……!」
「俺が好きかどうか?」
「……っ……」
 自身が発したことに純が気付いたのは、興が反復させた言葉を聞いてだ。失言どころではない。大失態だ。
「いや! それは……! 違う!」
 慌てて純は否定した。しかし、語気強く発してしまった言葉は漏らされることなく興に聞き取られてしまっている。
「次はそういう風に見てたのかよ」
 半眼はなくなっているものの、興は呆れを持ったままだった。
「……っ!」
 だが、微かであることに、その一瞬に焦りの感情がいっきに高ぶった純には興の感情を読み取ることはできなかった。
 それどころか、かれた溜め息に感情がさらに煽られる。
 その、煽られた感情のまま、純は早口に言い放っていた。
「悪いかよ好きで!」
 その叫びに、興はぴくりと反応した。
 だが、今一方の純も、思考よりも先に口を突いて出た言葉にはっと我に返ることになっていた。
「――そ、そうなのか……?」
 そして純がしたのは、聞くことだった。
「え? いや……俺が知るわけないだろ……」
 まさか、放った方から聞いてくるとは思わなかっただろう。興も戸惑いを見せた。
「そ、そうだよな。知るわけないよな。俺のことだし……」
 対して、純は感情の波に呑まれていた。
 好きと言った瞬間、その感情が胸中に押し寄せてきたのだ。津波が押し寄せてくるように、決壊して襲来したかのように、蟠っていたものが突如として押し寄せてきたのだ。
 動き出した感情は胸中を満たし、待っていたかのように勢いよく暴れ回っている。
 紛れもない、〝好き〟という感情だ。
 もしかしたらと思わせながらも自覚できていなかった恋心。それが今、明確な感情となって表れた。
 あの蟠っていたものも、景一が言っていた通り、純が気付ききっていなかったために、でも感情は存在していたために、表面に現れずにそこにいたものだったのだ。
 それが、叫んだことで勢いよく動きだしたのである。
 まさか、好きと言葉を発することが引き金だったとは。
「あ……いや、その……」
 だが、純は動揺していた。
 興に知られないようにと思っていたことが知られてしまったのだ。そのことによって、持っていた不安が好きの感情と同じくらい、もしくはそれ以上に渦巻いていた。
 その思いは、興と距離をあけられたくないという思いにまで辿り着かせる。
 加わって膨れた不安と知られたことでの動揺は、瞳にも表れるほどだ。
「……純」
 見た目からして表れた感情には興も心配にさせられたらしかった。名を呼ぶ声は控えめにされていた。
「え!?」
 が、純を驚かせるには十分すぎるものだった。弾かれたように顔が上がる。
 そして、純の驚きは興にとっても予想外だったのだろう。興もまた困じてしまっているようだった。問う側のはずが、逆にそんな純を落ち着かせようと推測をする。
「あー、ほら、たぶん、夢のことがま……」
「ああ! そう! そうなんだ! 夢のことがまだ抜けてなくて! それで出てきちゃったんだ!」
 だけれど、興の開口は純の動揺を焦りへと変化させた。夢と出るなり、発してしまった訳を早口に弁じる。語調の全部が強くなっていることが、どれだけ動じているかを示してもいる。
「――あ、うん。そうだろ?」
 一方、勢いよく捲し立てられ、興は気圧されてしまっていた。勢いに圧されるように同意する。
「…………そ、そうっ……だから……!」
 しかし、それでも純の動揺はなくならなかった。嫌われたくないという思いでいっぱいになってもいたからだ。
「あー、分かった。分かったから。だから、ひとまず落ち着け」
 だが、興も興で純の動揺は困じさせられることだ。両手を胸前に上げ、この状況を打開しようとしてくる。
「…………」
 が、純にしてみれば、落ち着けと言われて簡単に落ち着けるものではない。それでも、分かったという言葉は純の心情に作用した。
「とりあえず、寮に戻るか」
「え?」
 しかし、続けてされた発言は、純の気持ちを簡単に揺さぶらせた。
 拒絶と感じられたのだ。自分のいる場所から遠ざけようとしている。そう思えたのである。
「このまま作業続けてたって集中できないだろ? だから、今日は部屋に戻って、落ち着こう。な?」
 そういう興は、早くも落ち着きを取り戻していたようだった。だが、それが良くもあった。
「あ……う、うん……そうする……」
 興の落ち着きぶりと拒絶のない状況判断。それが、純にひとまずの安心を与えたのだ。不安もまだ残ってはいたが、興の言っている意味も理解はできており、純は従うことにした。
「ほら、ホース」
 手を差し出され、ずっと持っていたホースを渡すと、純は踵を返した。
 畑から出て、温室へと歩んで行く。

「…………」
 温室の陰へと消えていった純を見送った興は、落ち着きぶりとは裏腹に、内心ではわけの分からない感情がもやつくことになっていた。
 純が自分を好きだったとは思いもよらなかった。
 だが、ついこの間だ。ついこの間転校してきたばかりだ。夢と雑誌の影響を受けて焦っていたのが一昨日。それが、今日には好きときた。しかも、本人も言ってから気付いたようであるし。
 そして、次は動揺。
 なんともせわしない感情だ。
 いや、それは関係ないしどうでもいいだろう。どうでもよくないのは、自分を好きだったということだ。いや、 それもどうでもいい気がする。
 では、何がどうでもよくないのか。
「…………」
 それもない気がする。でも、ありそうな気もするのだが、なんだが浮かんでこない。
 どうやら、思ったより自分も動揺しているようだった。心臓の鼓動も速くなっている。
「おい」
 その時、呼びかける声が背後から聞こえてきた。
 振り返ると、島山がそこにいた。
「なんかあったのか? 中まで声が聞こえてきたぜ」
 中とは温室のことだ。隣だし、叫べば聞こえもするだろう。
「お前には関係ねえよ」
 興は顔を逸らした。声音もじゃっかん下がったが、下げようとして下がったわけではない。思ったより勝手に下がってしまったのだ。
「好きで悪いかとか聞こえてきたけど」
 それで自分が喋りたくないのだと伝わったはずだが、島山はさらに振ってきた。
「逆だ。悪いかが先で、好きが後だ」
「んなの、どっちでもいいだろ」
「……確かに」
 言葉通りどうでもよさげにする島山に納得する興だが、自分が動揺している確認にもなった。いや、これは動揺とは違うかもしれない。
 先程から、純が自分を好きだったということが巡っている。
「好きとか聞こえてきたから。告白でもされたか?」
「…………」
 そう言われ、興は気付いた。あれは、つい口走ってしまったものではあったが、想いを打ち明けたものなのだ。
 だが、そのことに気付かされても、巡るのはその中身だ。
 と、興は嫌悪が全くないことに気付いた。
 同性愛に偏見はないし、自分もそちらになっても受け入れようと思っている。けどそれは、自分には関係ないと思っているのが根底にあるからだ。
 でも、自分が対象とされても拒絶感がない。それどころか逆の気配を感じる。
 なんだかこれは、考えた方がいいような気がしてきた。
「三浦?」
「――俺、帰る」
 怪訝そうにする島山に、興は自分の行動を決めた。
 部活が終わった後でもいいことかもしれないが、この気になる気持ちでは作業に集中できそうにない。
「は?」
「ん」
 反問する島山にホース二つを押しつける。
「お前なら、見れば水がかかってる所とかかってない所が分かるだろ。後よろしく」
「ちょっ……」
「じゃ」
 作業の続きを任せると、言い返そうとした島山に片手を上げて興は背を向けた。
「おい」
 島山が呼び止めるが、興は歩き去って行く。
「…………」
 追えないわけではないがその場にとどまった島山は、諦めの溜め息をついた。


                  □□□


 純が自分を好きだった。
 そのことに嫌悪も拒絶もないどころか、逆の気持ちを感じる。
 純の気持ちを肯定的に取っているということだ。
 好意を寄せられることは嫌なことではない。が、胸中に感じているこの温かさは嬉しさではないのか。
 これは、どういうことなのか。
 いつも荷物置き場にしている所へ着いた興は鞄に手をかけるが、持ち上げようと鞄を縦にしたところで動きが止まる。
(……まじかよ……)
 なんだか、予感のようなものを胸の奥に感じ、興は内心呟いた。


 部屋に戻った純はベッドへと身を投げ出した。
(そうだったんだ……)
 俯せになったまま自身に理解を示す。
(俺、本当に興のことが好きだったんだ……)
 そう内心で呟くと、熱いものと高鳴りが胸の中に満ちた。
 これが、好きという気持ち――恋をした時の、心を占めるものか。
(でも……)
 けれど、それに心を躍らせているわけにもいかなくなった。
 興に気持ちを知られてしまった。
 興はどう思っただろうか。
 避けるようになるのか。これまでの距離でいてくれるのか。それとも――
 好都合な思い通りになってくれるのか――
 偏見はないと言っていた通りのままでいてくれたら嬉しいかぎりなのだが。
 畑でのことを思い返してみるが、気を遣わせてしまっただけで全く分からない。
 でも、好感がある反応はなかった。
(もしかしたら駄目かも……)
 そう、純に思わせた。
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指圧のことは、有乃にとっても何でその情報を得たのか、聞いたことがある気がするなあ……というくらいおぼろげな記憶です
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