9 / 49
キズは自分にしか分からないこと
三 理由
しおりを挟む
「そういえば、部活は決まったのか?」
思い出したというように景一が聞いてきたのは、朝食中のことだった。
今日も、純、良智、景一の三人でテーブルに着いていた。
「まだ少ししか見て回っていないのに、決まるわけないだろ」
興と養護教諭に足のことを打ち明け、授業をサボってしまった日から二日目である。
保健室を後にしたあの後、足のことを話したことと、寝てしまったことをこの二人にも明確にすることになった。ただ、捻った足は捻ったままにしておくことにしていた。二人には元部活仲間との軋轢のことは教えていないからだ。
うっかり普通に歩き出してしまったことで治ったともしたが、念のためということで、学校が終わると寮へ直帰することになり、その日の部活見学は中止することにもなっていた。そのため、本格的にスタートしたのが昨日となったのである。けど、平日の放課後程度の時間では全部を回ることなどできず、数カ所だけしか見られなかった。
「始まったばっかりかよ」
「手伝いなんかするからだよ」
手伝いとは、捻った前日にやった、園芸部――正しくは興の手伝いのことだ。足を捻ったことを上げなかったのは、後遺症のことを知っていることでの気遣いだろう。
「一人で大変そうだったし、一回くらいなら大丈夫だと思ったんだ」
純は理由を述べた。
「でも、今日は半日だし。全部回り終わるよ」
今日は土曜日だが、午前に授業が入っている。
この学校の土曜日は、休みと登校が交互に組まれており、今日は登校日の週である。午後には部活もあり、ほとんどの部が夕方まで活動するという。半日もあれば、昨日回りきれなかった部も回りきることができる。
「それでなんだけど、園芸部の顧問ってどんな人?」
それから、純は尋ねた。
園芸部の顧問は、有名と言えるくらい生徒たちにも知れ渡っている教師だった。
その伝わりようも、興や景一が経験したように、無理矢理入れようとすることだ。真面目に活動する生徒を欲しているため、未入部の者は引き込もうとするらしい。なので、認めていない帰宅部も、あって無いようなものだという。
けれど、十五人前後もの不良がいるということには諦めているという噂もあるらしい。しかし、興が懇願され入り続けていることと西町の言っていたことから、諦めきれてもいないだろうと純は思っている。
しかも、純も問題視しなければならないことが出てきていた。
今の純が、顧問に目を付けられている可能性があるかもしれないということである。
純が転校してきたのは今週の月曜日。今日で一週間目が終了するわけでもあるが、この一週間、どこの部にも決めていないことに、顧問が希望を持ち始めているかもしれないというのだ。
だが、園芸部の顧問には悪いが、純も不良の近くには行きたくない。そのため、顧問とも近づかないようにしようと思っている。だが如何せん、純は園芸部顧問の顔を知らない。知っているのは、聞いた情報と名前ぐらいだ。
「社会の先生だよ」
なんともあっさりと答えられた通り、答えは簡単だった。が、純には難しいものだった。
「……どんな人だっけ?」
純は、人の顔を覚えるのが苦手である。特に人数が多いと、顔を覚えても名前が一致しなかったり、その逆だったりと、容姿に関する覚えは不得意なのだ。クラスメイトさえ覚えきっていないというのに、週に二回程度しか来ない者を、まだ一週間しか経っていない中で覚えられるわけがない。
「年配ってことは覚えてるんだけど……」
覚えていたとしてもその程度だ。特徴があれば覚えやすいのだが、特徴があった記憶はない。というか、あったら印象ぐらいには残っている。
「どんな、って言われてもなあ……」
「年配で……」
思い返しているのだろう。二人は思案げな面持ちになった。しかし、早くも言葉が途切れてしまう。入学当初からいる者が二人して特徴を挙げられないのでは、覚えが苦手な者にとってはなおさら記憶に残るものではない。
「……とにかく、部活のことを聞かれたり、園芸部に誘うようなことを言ってくる人がいたら、その人が顧問だと思えばいいよ」
説明する言葉が思いつかなかったらしい。良智がそう言って忠告とする言葉としてきた。が、そこまで特徴のない人なのか。しかしだ。
「近寄らないようにするために聞いたのに、それじゃあ、意味ないじゃん」
入らないための手段として、接触そのものを避けたかったから聞いたのだ。会話をしなければ分からないようでは意味がない。
「ごめん」
良智は素直に謝った。
「ああ、そうだ」
一方、景一はずっと考えていたらしく、思い出したというような声を出した。
「部活の時はいつもつなぎ着てるから、着てる人がいたら、顧問だ」
あげてくれた特徴は、分かりやすいものだった。それなら判断も楽である。ただ、容姿ではなく着衣で特徴を出してくるなんて、よほど特徴の挙げにくい教師であるらしい。そんな人を、はたして自分はどれくらいの期間で覚えることができるのだろうか。
だが、話さなければ分からないよりは断然いい。あと問題としては、放課後にならないと分からないことだ。いや、でも、部活は放課後だし、それほど問題ではないかもしれない。
「ああ、そういえばそうだ」
良智も思い出したらしく、納得する。
「つなぎな。分かった」
分かりやすい特徴であることに純も繰り返すと、ひとまず了承の意を送った。
思い出したというように景一が聞いてきたのは、朝食中のことだった。
今日も、純、良智、景一の三人でテーブルに着いていた。
「まだ少ししか見て回っていないのに、決まるわけないだろ」
興と養護教諭に足のことを打ち明け、授業をサボってしまった日から二日目である。
保健室を後にしたあの後、足のことを話したことと、寝てしまったことをこの二人にも明確にすることになった。ただ、捻った足は捻ったままにしておくことにしていた。二人には元部活仲間との軋轢のことは教えていないからだ。
うっかり普通に歩き出してしまったことで治ったともしたが、念のためということで、学校が終わると寮へ直帰することになり、その日の部活見学は中止することにもなっていた。そのため、本格的にスタートしたのが昨日となったのである。けど、平日の放課後程度の時間では全部を回ることなどできず、数カ所だけしか見られなかった。
「始まったばっかりかよ」
「手伝いなんかするからだよ」
手伝いとは、捻った前日にやった、園芸部――正しくは興の手伝いのことだ。足を捻ったことを上げなかったのは、後遺症のことを知っていることでの気遣いだろう。
「一人で大変そうだったし、一回くらいなら大丈夫だと思ったんだ」
純は理由を述べた。
「でも、今日は半日だし。全部回り終わるよ」
今日は土曜日だが、午前に授業が入っている。
この学校の土曜日は、休みと登校が交互に組まれており、今日は登校日の週である。午後には部活もあり、ほとんどの部が夕方まで活動するという。半日もあれば、昨日回りきれなかった部も回りきることができる。
「それでなんだけど、園芸部の顧問ってどんな人?」
それから、純は尋ねた。
園芸部の顧問は、有名と言えるくらい生徒たちにも知れ渡っている教師だった。
その伝わりようも、興や景一が経験したように、無理矢理入れようとすることだ。真面目に活動する生徒を欲しているため、未入部の者は引き込もうとするらしい。なので、認めていない帰宅部も、あって無いようなものだという。
けれど、十五人前後もの不良がいるということには諦めているという噂もあるらしい。しかし、興が懇願され入り続けていることと西町の言っていたことから、諦めきれてもいないだろうと純は思っている。
しかも、純も問題視しなければならないことが出てきていた。
今の純が、顧問に目を付けられている可能性があるかもしれないということである。
純が転校してきたのは今週の月曜日。今日で一週間目が終了するわけでもあるが、この一週間、どこの部にも決めていないことに、顧問が希望を持ち始めているかもしれないというのだ。
だが、園芸部の顧問には悪いが、純も不良の近くには行きたくない。そのため、顧問とも近づかないようにしようと思っている。だが如何せん、純は園芸部顧問の顔を知らない。知っているのは、聞いた情報と名前ぐらいだ。
「社会の先生だよ」
なんともあっさりと答えられた通り、答えは簡単だった。が、純には難しいものだった。
「……どんな人だっけ?」
純は、人の顔を覚えるのが苦手である。特に人数が多いと、顔を覚えても名前が一致しなかったり、その逆だったりと、容姿に関する覚えは不得意なのだ。クラスメイトさえ覚えきっていないというのに、週に二回程度しか来ない者を、まだ一週間しか経っていない中で覚えられるわけがない。
「年配ってことは覚えてるんだけど……」
覚えていたとしてもその程度だ。特徴があれば覚えやすいのだが、特徴があった記憶はない。というか、あったら印象ぐらいには残っている。
「どんな、って言われてもなあ……」
「年配で……」
思い返しているのだろう。二人は思案げな面持ちになった。しかし、早くも言葉が途切れてしまう。入学当初からいる者が二人して特徴を挙げられないのでは、覚えが苦手な者にとってはなおさら記憶に残るものではない。
「……とにかく、部活のことを聞かれたり、園芸部に誘うようなことを言ってくる人がいたら、その人が顧問だと思えばいいよ」
説明する言葉が思いつかなかったらしい。良智がそう言って忠告とする言葉としてきた。が、そこまで特徴のない人なのか。しかしだ。
「近寄らないようにするために聞いたのに、それじゃあ、意味ないじゃん」
入らないための手段として、接触そのものを避けたかったから聞いたのだ。会話をしなければ分からないようでは意味がない。
「ごめん」
良智は素直に謝った。
「ああ、そうだ」
一方、景一はずっと考えていたらしく、思い出したというような声を出した。
「部活の時はいつもつなぎ着てるから、着てる人がいたら、顧問だ」
あげてくれた特徴は、分かりやすいものだった。それなら判断も楽である。ただ、容姿ではなく着衣で特徴を出してくるなんて、よほど特徴の挙げにくい教師であるらしい。そんな人を、はたして自分はどれくらいの期間で覚えることができるのだろうか。
だが、話さなければ分からないよりは断然いい。あと問題としては、放課後にならないと分からないことだ。いや、でも、部活は放課後だし、それほど問題ではないかもしれない。
「ああ、そういえばそうだ」
良智も思い出したらしく、納得する。
「つなぎな。分かった」
分かりやすい特徴であることに純も繰り返すと、ひとまず了承の意を送った。
0
指圧のことは、有乃にとっても何でその情報を得たのか、聞いたことがある気がするなあ……というくらいおぼろげな記憶です
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

きみがすき
秋月みゅんと
BL
孝知《たかとも》には幼稚園に入る前、引っ越してしまった幼なじみがいた。
その幼なじみの一香《いちか》が高校入学目前に、また近所に戻って来ると知る。高校も一緒らしいので入学式に再会できるのを楽しみにしていた。だが、入学前に突然うちに一香がやって来た。
一緒に住むって……どういうことだ?
――――――
かなり前に別のサイトで投稿したお話です。禁則処理などの修正をして、アルファポリスの使い方練習用に投稿してみました。

僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる