物言わぬ家

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 山里の話を聞いた後も、結局菅沼の事も岬の事も、祐二たちには分からないままだった。
 水野に至っては、山里に疑念を抱いていたのに、すっかりおとなしくなってしまい、今は溜まった仕事をこなすのに忙殺されている。

 美乃利にも新しい情報を伝えらえず、申し訳ないと思う祐二。美乃利が北海道に戻ってから2週間が経った頃だった。一度こちらの近況報告を兼ねて、電話を入れてみる事にした。すると、美乃利から思わぬ報告が。
 岬志保の両親が、東京に向かったという。
前回、会社での退職手続きやら社員寮の引き払いで東京に行った事は聞いていたが、北海道に戻った後で、再度警察から呼ばれたと言う事らしい。しかも、それがどうやら岬の遺体が発見されたというものだった。
 詳しくは聞けなかったが、両親は大変憔悴しきっていて、戻ったら葬儀を行いたいと話された様だ。

「水野さんの嫌な予感が的中しましたね」
 祐二は、美乃利から聞いた事を昼休憩の時に蕎麦屋で話した。
大きな声で話せる内容ではないが、今のところ大きなニュースにもなっていないので、祐二と水野だけの秘密だが。ただ、これが報道されればきっと重大ニュースになるだろうと思う。

「菅沼さんが自殺未遂をしたせいで、警察も真剣に捜査を始めたんでしょうね。犯人は菅沼さんだったのかしら」
 蕎麦湯を飲み干したところで、どこか遠い目をした水野は言う。
 それにつられて、祐二も窓越しに見える風景に目をやった。行き交う人々の中に、岬志保は居ただろうし、菅沼も。あの廃屋を見つけてしまったせいで、岬は命を落としたのか。それとも違う事で。未だ詳細は分からないまま、祐二の気持ちは深い闇の淵に佇んでいる。

「ねえ、あのぬいぐるみ、どうしたっけ?」
「え?…..ああ、テディベアの、菅沼さんのものを岬さんが持ち出したままで、確かビデオカメラと一緒に山里さんのところに」
 ビデオの再生をしてもらった晩に、袋に入れたまま置いてきてしまった。

「あれは菅沼さんに返さなきゃね」
 水野が溜息混じりに言うと、祐二も、そうですね、と答える。
 菅沼がどういう状態なのか分からずに、二人は佐伯に連絡を入れようと思った。

 夕方、仕事が終わる時間を狙って携帯に電話をしてみれば、佐伯が焦った声色で後から掛け直す、と言って電話を切られる。
その言葉通り、祐二のもとに佐伯から電話が来たのは1時間後。佐伯の家に誘われて、午後7時をまわっていたが、祐二はマンションに向かった。一階の一番奥、すれ違う人もいなくて、外から聞こえる学生の様な弾んだ声だけが耳に入る。
 インターホンを押すと、すぐに玄関の扉が開き佐伯が難しい顔をして出迎えた。

「あの、こんな時間にすみません。食事中でしたか?」と、謝れば、佐伯は軽く首を振って部屋の中に招いてくれる。
「とてもご飯が喉を通る状況じゃないんですよ」
 テーブルの前で床に腰を下ろすと、深いため息と共にそう言った佐伯だった。
「岬さんのご遺体が発見された事ですか?」
 祐二が小声で言うと、佐伯は大きく目を見開いて口をぱっくりと開けてしまう。そして、今度は前のめりになると、祐二の顔面近くに寄って「どうして知ってるんですか?」と聞いてきた。

「…….あ、えっと、…….実は美乃利さんから、ご両親がその事で東京に向かったと聞いていて。でも、他には喋ってません、…..水野さんと僕だけ、です」
 少々頭を引っ込めながら、祐二は言った。
 それを聞いて、ホッとしたのか、佐伯はしっかり祐二の顔を見ると、「実は、オレの所にも警察が来て。なんて言うか、一応会社の同僚だし、岬さんとは地元が一緒だし、大学も。メチャクチャ共通点があるでしょ?しかも女性が二人」と言いながら、今度は困った顔をする。佐伯の顔面がくるくる変わるので、祐二はちょっと可笑しくなった。
冷静な人の様に見えたが、案外そうでも無いのかと。

「本当は、警察から話すのを止められているんですけどね。でも、奥村さんには聞いてほしい」
 今度は切羽詰まった表情になった佐伯が言う。
 祐二は、なんですか?と聞く姿勢を見せる。

「岬さん、オレたちが行ったあの家の空き地で見つかったんですよ」
 佐伯が口にした言葉を祐二は信じることが出来なかった。


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