物言わぬ家

itti(イッチ)

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  会社に着いて、やり残した仕事に手を付け始めた祐二。
  事務所の同僚から「昨日は残業だったんでしょ?遅くまでかかったんじゃないの、お疲れ様」と労いの言葉。

「まだ終わらないんですよね。っていうか、僕の抱えてる案件が多すぎると思うんですけど」
  少し泣き言を吐きたくなるが、同僚には「頑張ってね」と軽く言われてしまった。


「おはようございまーす」
  軽快にドアを開けて、入ってきたのは水野だった。昨夜の疲れは感じられなくて、タフな人だと感心していると、奥村くん、と名前を呼ばれる。
「あ、はい、、、」
  水野に振り返り、立ち上がると、手招きされたので近寄って行った。

「昨日はお疲れ様でした」と、小声で水野に言うと、「お昼、話があるから空けておいて」と言われる。
  祐二は、分かりました、と返事をして自席に戻ると、パソコンに向かった。


 昨日の疲れもあって、祐二は昼食の後ゆっくりしたいと思っていた。が、背後から水野の視線がうるさくて、仕方なく立ち上がると水野の側に行く。
「話ってなんですか?」

「あー、ご飯、どこに行く?」
 水野は祐二の顔を見ると言った。
「ご飯って、…それより話ってなんですか」

「話はご飯の後で。ちゃんと食べないと、疲れも取れないよ」
 そういうと、立ち上がって祐二の肩をポンと叩く。
「隣の蕎麦屋に行こうか。その後で話そう」
「…分かりました」

 水野と連れ立って蕎麦屋に向かい、昼ご飯を済ませた二人は人混みを避ける様に喫茶店に入った。
コーヒーを注文して、本題に入る水野は、ゆっくりと息を吸うと静かに吐き出して話し始めた。

「私の考えは軽率だったかも」
 俯き加減にそう言うので、祐二は水野の顔をじっと見つめてしまう。
「軽率だったっていうのはどうしてですか?」

「あの廃屋が菅沼さんの家だと分かって、それで岬さんが昔の事件を調べ出して、農薬は菅沼さんが入れたんだと勝手に想像しちゃったんだけど、結局彼女は何も言わなかった」
「そうですね、僕らが勝手に思い込んでいただけかも」

「そうなのよ。もし岬さんも同じように思い込んでたとしたら?」
「やっぱり問い詰めるでしょうね」
「だから、ふたりの間でいざこざがあって、もしかしたら菅沼さんは岬さんを傷付けたんじゃないかと思ったのよね」
「そこは、僕もなんとなく想像しましたよ。変な話、昔の事件が明るみに出るのを嫌って、口封じ、とか」

「私もそう思ってた。だから問い詰められて、逃げようがないと思って自殺を計った」
「ええ」

「だけどさ、私たち、初めの頃は山里さんを疑ってなかった?」
「まあ、疑ってたっていうか...最後に岬さんと会った人だったから。でも、実は岬さんが寮に戻ったとしたら、最後に顔を合わせたのは菅沼さんです」

「そうなのよ。そう思ったから私たち疑ったのよね」
「ええ。...いったい何が言いたいんですか?」
 祐二は今一つ水野の言いたい事が分からなかった。自殺を計った事で、菅沼が岬に何かしたのは確実だと思う。今更、山里の名前を持ち出すのはどうしてなのか。

 

 

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