物言わぬ家

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背負ったもの

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 車を寮に置いたままだったので、祐二たちは警官に送ってもらうと菅沼の部屋に戻った。
そこでもう一度事の経緯を話し、菅沼の持っているぬいぐるみを持ちながら、彼女が祐二たちに語った話を警官に伝える。
「僕たちが彼女を追い込んだような気がしますが、でも、岬さんと最後にやり取りしたのは菅沼さんのはず。彼女は岬さんの行方を知っていると思います」

「一応、菅沼さんは自殺防止用の病室にいます。なので、一般の人の面会は出来ません。皆さんが仰るような事案は、警察の方で調べる事になると思います」
 警官の話だと、これ以上は祐二たちが介入出来なさそうで、岬の件も任せるしかないと思った。

「1日でも早く岬さんを見つけたいんです。よろしくお願いします」
 美乃利は、警官の顔を真っ直ぐに見つめると頭を下げた。目を潤ませてじっと見られると、警官も自然と背筋が伸びる。
「分かりました。」
  頷いた警官はキリッとした表情になると、美乃利を見た。

 ひと通り話し終えると、祐二は水野と美乃利を送る為に車に乗り込む。
寮の人には警官が話しをした様だったが、怪我をして運ばれたとだけ伝えたらしく、祐二たちに聞きに来る人はいなかった。
 
 帰る途中、車の中はやけに静かで、水野も美乃利も疲れてしまったのだろう、祐二はバックミラーで二人の顔を見ながら、心の中で大変な事になったと思っていた。目の前で自殺を計るなんて信じられないが、行き場を失くした菅沼には、それしかなかったのかもしれない。あとは、岬の事を話してくれればと願うしかない。



 水野のマンションに着くと、ふたりを降ろして、祐二はレンタカーを返しに向かった。
途中、携帯に電話が入って、相手が佐伯だと分かると、後で掛け直すと告げる。佐伯があの場に居なくて良かったと思う。あれはちょっとしたトラウマになりそうだ。今夜は眠れるだろうかと、不安になる祐二だった。

 車を返して家に戻る途中、祐二は近所のドラッグストアに立ち寄った。なんとなく気を紛らわせたかったのもあるし、眠れない場合に備えて睡眠導入剤を買おうと思ったからだ。
買い物をしている途中で、また佐伯から電話があり、ドラッグストアに居る事を告げると、ここへ来るという。
仕方なく、買い物を続けながら佐伯を待つ事にした祐二。気は進まないが、佐伯にも菅沼の事を話しておくべきだと思い、会計を済ませると店の出口で待った。

 すぐに、前方から歩いてくる佐伯の姿が見えると近寄って行く。
「こんばんは、お疲れ様でした」と言われ、少しだけホッとした。長身の佐伯は、こんな夜にも爽やかで、あの血生臭い場面には似つかわしくない。祐二は菅沼が自分の胸に包丁を突き立てた事を伝えていいものかと案じる。なのに、佐伯は爽やかな顔を祐二に向けると、「菅沼さんから話は聞けましたか?」と訊ねて来た。




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