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真実は
しおりを挟む菅沼の肩が小刻みに震えている。
泣き出すのではないかと、背中越しに見つめたが、そんな祐二の心配は、すぐに聞こえて来た笑い声にあっさりと打ち消された。
「あははは、冗談じゃないわ、どうしてそんなにしつこいのよ。昔の事を根掘り葉掘り…岬さんも貴方たちも余程暇してるんじゃない?」
そう言った菅沼は、振り返ると祐二たちを睨みつける。最初に会った時の、物静かな印象は既に無くなっていた。
これ以上は無理かと思い始めた祐二。水野も菅沼の言葉に苛立っているようで、唇を噛み締めた。
そんな中、美乃利が立ち上がると「岬さんに何をしたんですか?」といきなり声を上げる。
今までじっと話を聞いているだけだった美乃利が声を荒げたので、菅沼も驚いた様子で固まった。
「菅沼さんは岬さんが居なくなった時、仕事が嫌になって辞めたんじゃないかって、私たちに言いました。その時、自分の昔の事件を岬さんが調べているなんて言ってくれませんでしたよね。隠したかったんですよね」
「……それは」
「私たちに話して下さい。お願いします」
美乃利は目に涙を溜めて、菅沼に懇願する。
祐二と水野も同じ様に菅沼を見つめた。
一気に部屋の空気は重くなり、菅沼に視線が集まる中、とうとうその場にしゃがみ込んだ菅沼は項垂れる。
「貴方たちに私の気持ちなんて分からないでしょうね。守って欲しい親から虐待を受けていた私の気持ちなんて」
そう言うと菅沼は顔を覆った。声が震えて泣き崩れると苦しそうに呻く。
「父親なんて名ばかりで、毎晩お酒を飲んでは私や母に八つ当たりして。どんどんエスカレートしていく暴力に、声を上げたくても誰も見向きもしてくれない。
母も精神を病んで、そのうち反抗する私ばかりを殴る様になったあの男は、、、」
そこで菅沼の言葉が途切れると、顔を上げて美乃利を見つめた。
瞳の奥には、なんの感情もこもって無い様に見えて、美乃利は背筋が寒くなる。
美乃利から視線を外すと、菅沼は顔を歪めてポツリと呟くように言った。
「私に性的虐待をする様になった」
その言葉はあまりにもショックで、美乃利たちは息を飲む。
「あの祭壇のある部屋、あそこは壁が分厚くなってて、悲鳴をあげても外には届かない。だけど、扉越しなら廊下からは聞こえるの。私がどんなに叫んでも、母は助けに来てくれなかった」
「……だから、2人を憎んだんですね」
小さな声で水野は言った。
「そうよ、あんな人達は親じゃない。5年生の時、初潮を迎えると、あの男はその日を狙って襲って来るの。流石に、妊娠させる訳にはいかないと思ったんでしょ。気持ち悪くて、痛くて、頭がおかしくなりそうだった」
そこまで話した菅沼は、ふらりと立ち上がると、崩れそうになりながら、シンク下の扉を開けて何かに手を伸ばした。
その時、本当に一瞬の出来事だったが、菅沼は包丁を手に取って、自分の胸に刃を突き立てたのだ。
「きゃあぁぁぁ」と叫ぶ美乃利の声と共に、祐二は咄嗟に美乃利の身体を引き寄せて、自分の背後に匿った。
目の前には、胸から血を流す菅沼が、うずくまるように座っている。
「菅沼さん!どうして?しっかりして!救急車呼ぶから」と、水野が叫んで、すぐに携帯を取り出すと電話を入れた。
美乃利は祐二の背中に顔を埋めたまま、ブルブルと身体を震わせている。
目に付いたタオルを持って来ると、水野は出血している菅沼の胸に強く押し当てた。
床に落ちた包丁は、血の付いた刃先が生々しくて、それを遠くに蹴ると、菅沼の身体を抱き締めた水野は「死なないで」と繰り返し言葉をかける。
ここで死なせる訳にはいかない。岬の事をまだ聞いていなかった。どうしてこんな事をしたのか、それを考えると、最悪の事態しか思い浮かばない。
救急車が来るまでの時間が、ものすごく長く感じて、近くでサイレンが聞こえて来ると、祐二は美乃利を部屋の隅に残し、部屋から出ると外に向かった。
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メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
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