物言わぬ家

itti(イッチ)

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回顧

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 ガタッと崩れ落ちるように、床に腰を落とした菅沼は、じっと唇を噛み締めて眉間に皺を寄せた。
祐二たちは静かにその姿を見つめるしかない。言葉を掛けようとした水野でさえ、固まったまま動けずにいた。
しばらくの沈黙が続き、ようやく口を開いたのは佐伯だった。
「菅沼さんは、子供の頃〇〇市の〇〇町に住んでいましたね?ご家族は3人家族」
 佐伯はドアの端に肩を寄せると、座り込む菅沼に向かって訊ねる。すると、くるりと首を回して菅沼は佐伯の顔を見た。その目は、まるで凍り付いたように、少し怯えた表情を表す。

「ど、どうして………」
 振り絞った喉から発した声。佐伯が示したそこは、菅沼がかつて暮らしていた家のあった場所。
「岬さんがそこに行った事を聞いたんですね」と言われて、ギュッと目を閉じる。嫌な記憶を振り払うように、菅沼は頭をグルングルンと振った。まるで襲いかかる何かから逃れようとしている様だった。

 祐二は部屋に入り、菅沼の側に膝をつくと、ゆっくり肩に手を置いた。息が荒くなる姿に心が痛んだのか、少し落ち着かせようとする。
「ゆっくり息を吸ってください。…..すみません、突然こんな形で乗り込んで来て。僕らは岬さんの行方を知りたかっただけなんですが、でも、菅沼さんの住んでいた家が最終的に鍵となる場所だったんです」
 静かに語りかける祐二に、菅沼は肩を落として項垂れた。

「確かに、仰る通りその家は私が暮らしていた家です」と、ポツリと話し出す菅沼。
 それをキッカケに、水野は「実は私たち、山里さんという方と一緒にそこへ入ったんです。不法侵入ですみませんが、2階の部屋も、変な祭壇も、それからテディベアのぬいぐるみも見てきました。だから、ちゃんと菅沼さんに答えてもらいたいんです」と言った。
そこまで聞くと、菅沼は観念したのか、深いため息を吐いてゆっくりと顔をあげる。

「事件の事も知っているんですか?」
「はい、知ってます。それで岬さんたちは動画を撮りに行ったんですよね。それに、昔の事だけど、あの辺りは忌み地と呼ばれた場所らしくて、どんどん住人は去って行った」

「……..そうです。あの事件の時には3軒ぐらいしか住んでいなかったと思います」
「大事なテディベアを置いて行かれたのはどうして?それから同じような物ばかり集めたのは何故ですか?」
 水野の質問は次々に続く。菅沼も、もう隠す必要がないと思ったのか、答えてくれる様だった。
「このテディベアは、父が、、、、私の実の亡くなった父ですけど、毎年買ってくれた物で。一才の誕生日から、成長に合わせて少しづつ大きい人形をくれてました。8歳の誕生日にもらったのが最後。ただ、事件の後、施設に行く事になって、全部は持って行けなかった」
 そう言うと、悲しげな目をした。瞳は潤んでいる様で、祐二は今にも涙がこぼれ落ちるんじゃ、と気になった。
「じゃあ、菅沼さんはお母さんの連れ子だったんですね」
「父が亡くなって、母は心を病んでしまって、いつの間にかあの人と再婚する話になったんです。でも、あの人、とんでもない男だった」
「…….それは何となく記事で知りました。あの祭壇は何だったんですか?」
 さらに踏み込んで訊ねる水野に、祐二や佐伯や美乃利は息を呑んだが、実はみんな気になっていた事だった。

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