26 / 60
祭壇と子供
しおりを挟む水野が持ち上げたのは、テディベアのぬいぐるみで、大きさは30センチぐらい。薄茶色の毛に黒くて丸い目が可愛らしい。薄汚れてはいるが、首に巻かれたピンクのリボンの生地が良くて安物ではない気がした。足裏に水野が言った刺繍が見えて、近寄ってみると右足にSA左足にはORIという黒い刺繍糸で文字が入っている。子供の名前か?と、祐二は押入れに置かれた別のぬいぐるみにも目を向けた。
「これにも同じ文字が入ってますね」
大きさは小さい物から大きな物まで、5体ぐらいのテディベア。色もベージュや濃い茶色、白っぽい物など色々だがあった。
「SAORIって、さおりちゃんって子供の名前だよね、心中で一人助かったっていう。ぬいぐるみ、持って行けなかったのかな」
少し悲しそうな声で水野は言った。周りに居た佐伯や山里、美乃利や祐二も表情が曇る。口には出さなかったが、助かった子供がその後どうなったのか、皆頭の中で想像していた。
病院から出て親戚に預けられたのか、それとも…….
「そういえば、岬さんが持って行ったぬいぐるみってコレと同じ物でしょ?この小さい物なら20センチぐらいだしバッグに入りそう」
美乃利は山里の顔を見ると言った。
「そうですね、多分。他には人形とか無さそうですもんね。岬さんの部屋に置いてあるかも」
山里が言ったが、先日寮の部屋を訪れた時には見かけなくて、バッグに入れたままなのかもしれない、と祐二は思った。
「あっ」と、佐伯の驚く声がして、一斉に声のする方に顔を向けると、押入れの中にあるランドセルに手を掛ける佐伯が見えた。
「何してるんですか?」と水野が声を掛けると、佐伯は赤いランドセルの蓋をめくってそこを指差す。
懐中電灯で照らされた所には、子供が緊急連絡の為に書かれた紙がビニールの袋に閉じられて貼り付いていた。
「そういえば、小学校の時にランドセルに入ってたような。名前や住所や血液型とか、名札も学校の外ではランドセルに仕舞ってたな。防犯の意味で、自分の名前とか知らない人には教えちゃダメって言われたっけ」
美乃利は懐かしむ様にソレを見ると言った。
「住所はここだね。名前は…スガヌマ サオリ。A型で、親の名前が書いてあるけど….、お母さんの名前だけ?」
佐伯が読み上げると、それに反応する様に祐二たちが「え、父親も居たよね」と言う。それぞれに不思議そうな顔をして見合った。
確か親子3人の一家心中だったはず。子供はなんとか死なずに済んだが、どうして父親の名前が記されていないのか。
「あの窓のない祭壇の部屋といい、この子供といい、この家はちょっと変わってる気がしますね。岬さんが調べたくなる気持ちが分かる」
「なんとなくだけど、…..これは踏み込んだら大変な事になるかもしれない」
「…..オレもそんな気がします。でも、この先が岬さんを知る手立てになるのなら。ここはもうオレたちで見つけるしかないのかも」
祐二と佐伯、山里はそれぞれに渋い表情のまま言う。水野は黙り込み、その後ろで美乃利はギュッと手を握り締めたまま立ちすくんでいた。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる